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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第二章 相談窓口は時間外も働く
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第十二話 龍槍のヤミール 2

 エンリケから言われてはいたが、案の定、国軍の騎馬隊百人長として四個小隊を任されたヤミールは、聖カムルジア公国の国境侵攻への最前線にアデル将軍の強い意向もあり、配備が決まった。


 ヤミールはその最前線への配備が決まった軍議が終わった後に、直属の上司であるエンリケに付いて軍本部の会議室から出ると、並んで歩いていたエンリケに話しかける。


「エンリケ千人長、こんな事に急になるなんて、何だか不思議ですね。俺にとってはありがたいっちゃあ、ありがたいんですが」

「どうした、ヤミール。お前はアイツラと戦いたくて、ここまでランドール共和国軍でやってきたんだろう?しかも今回はお前がきっかけだ。もしかしてブルッてるのか?」

「いやぁ千人長、自分はブルッてなんていませんよ。ただあの馬鹿やってた時にアデル将軍に捕まってから、人生上手くいきすぎてて怖いっていやあ、怖いですね」


 自分の手元を見つめて嬉しそうに呟いているヤミールを、エンリケは感慨深げに落ち着いて見ていた。エンリケにしろ、アデルにしろヤミールを拾ったのは気まぐれだった。


 ただそのまま放置すれば、どう考えても害にしかならない存在で、最後も悲惨な野垂れ死にしか考えられなかった少年を、どうにかこうにかここまで自分達、ランドール共和国軍の戦力として成長させることが出来たのは望外の限りで、並んで立つ彼を見てはこんな所で無駄死にさせる訳にはいかないと、エンリケは決意していた。


「ヤミール、ここだけの話だが、お前の配置が最前線になったのはな、さっき軍議で言ってたみたいにアデル将軍の意向じゃないからな。元老院が最近目立つお前を嫌っての事だぞ。そこは誤解するなよ」

「そうかと思ってましたから、大丈夫ですよ。勘違いはしませんって。そりゃあ、嫌われるのはしょうがないですよ。俺が上層部から嫌われているのは、アデル千人長の小姓としてランドール共和国軍に入れられた時から分かってましたもん。お二人には散々助けてもらってたので、殆ど言いませんでしたけど、兵学校に行った時につくづく思い知らされました」


 ヤミールからすれば兵学校で一番苦労したのは同期の連中をあしらう事でも、直接の上官の対応でも無く、兵学校の校長やら副校長達の地味な嫌がらせだったのは今でもよく覚えている。


 当然これはヤミール自身がアデルに捕まる前にやらかしてきたランドール共和国の偉い人間達への窃盗罪に対しての報復だと理解していたので、アデルとエンリケには被害のいかないように、自分なりに最大限の我慢を重ねていた。


 そしてヤミールはその兵学校の上層部の嫌がらせに対する我慢を学内でさせられている内に、どれだけ二人と騎馬隊に守られてきたかを身に染みて分からさせられていた。当然今回のような異例の出世にしても二人の力が及ぶ範囲でのみ可能な事も十分に理解していた。


「そうか、分かってるなら良いが、今回の最前線での対応はどうするんだ?私達の力でもお前達の騎馬隊だけ特別扱いする事は出来んぞ?戦局に影響を及ぼすからな」

「だから、そんなネガティブにならずに見ていて下さいよ。ちゃんと準備していますから。俺もこの5年以上、ただアデル様とエンリケ様に挑んでやられていた訳じゃないって所を見せますから」


 自信満々でそう言いきるヤミールに、心配している自分が馬鹿みたいだとエンリケは一息つき、首を二、三度振る。


「まぁ、実際にお前の力はこのランドール共和国国軍の騎馬隊でも俺達二人を除いてはグンを抜いているからな。勝算があるなら構わんさ。しっかりと武功を立て、生き残って出世してくれ」

「はっ!!」


 それ以上の馴れ合いは不要と二人は騎馬隊本部で執務室と他の隊員が待つ兵舎へと分かれる。


 そして、その半月後には聖カムルジア公国との国境線緩衝地域で初戦を迎え、最前線で右翼を任されたヤミール達の騎馬隊は圧倒的な攻勢をかけ、わずか半日程度で相手の同翼の三割を損耗させ、早々の撤退に追い込む。


 当然この際には百人長として指揮にも、戦闘にも力を存分に振るっていたヤミールも戦場の同翼に出ていた公国の将校2名の首を単独でとるという、明確な武功を立てた。


 実際に、この時にはヤミール自身の「武器強化」の能力を全開にして、長槍を使い存分に暴れ回った単騎駆けを見て、まるで龍が飲み込むかのような勢いで敵を殲滅していく、と見立てた者が、彼に「龍槍」と二つ名を付け、これが広がったのが龍槍のヤミールと呼ばれる始まりとなる。


 戦場から敵の血で馬と長槍と身に纏いし鎧を真っ赤に染め、逃げ惑う聖カムルジア公国の連中を背後に、ゆっくりと帰陣してくるヤミール達騎馬隊の姿を見て、本陣にわざわざ来ていた元老院の一部は震え上がっていた。


 本陣に帰陣したヤミールは馬から降り、長槍に引っ掛けていた将校二人の首を、槍を上手く使ってしならせ出迎えたアデル将軍にわざわざ放った。アデルはニヤリと笑い、両方の手で二つの髪を掴む。


「両方とも聖カムルジア公国の将校特有のピアスがあるな。良くやった、これで明日以降が楽になる」

「はっ、最前線を任せられた責を無事に果たす事が出来、感無量です」

「まだまだ戦働きがしたいと見える。明日も励めよ!!」


 この戦いが一方的な聖カムルジア公国の敗戦となった後、わずか16歳で騎馬隊の千人長になったヤミールは「龍槍」の二つ名をランドール共和国国軍に認められ、実際にその名に相応しい長槍をアルミナダンジョン国の武器商人であるブルックス家より取り寄せ、褒美として与えられる。


 しかし彼が「龍槍」のヤミールとして活動していたのは、これから7年程の間であった。

 







 次からエナミが出ますが、一日だけ空きます。申し訳ありません。 


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 気にいらなかったら、貴重な時間を使わせて申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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