第八話 ピーター・ブルックス 2
サーヤがメリダダンジョンを攻略し始めて四ヶ月も経つと十階層を攻略し、シルバーランクに到達していた。これは普通に国営冒険者アカデミーを卒業したものでも圧倒的に優秀な成績で、ましてや十三歳の半年程度でアカデミーを卒業した女の子での達成は前代未聞だった。
ピーター達もその話を聞いた最初のうちは自分達の装備が役に立ったのを非常に喜んでいたが、あまりにもサーヤが上手く行き過ぎている事に違和感を覚えていた。
それに自身らの目論見とは違い、全く冒険者に懲りた様子のない、寧ろドンドンやる気に満ちてハマりそうになっている彼女を見てその懸念は強い疑念に変わっていた。
本業である武器商人として久しぶりに業務連絡会議で、家では無い、何処にも余計な目や耳が無い場所で会えた三兄弟は仕事を終えた後、この話題にのめり込む。
「ウィリアム兄さん、何故サーヤはこんなにもダンジョンの攻略が順調なんだと思います?」
「それはお父様と俺達が事前に準備した装備のお陰だろう。それにサーヤのダンジョン攻略が上手く行ってて、ピーター、お前は何か文句があるのか?」
「うーん、僕が今まで関わっていた他のケースだと、もっと冒険者って色々トラブルがあって大変だと理解していたし、例え才能がサーヤにあったにせよ、最初にだいぶ無理を通した妹がこんなにもスムーズにシルバーランクまで上がれたのはどうも納得出来ないんですよ」
「ピーター兄さんもヤッパリそう思った?あの子がメリダダンジョンの5階で詰まったって聞いた時、僕はしめしめと思ったよ、だってこれでようやく夢物語は終わりかなって思ったから。でもその後、急に」
「そう、急にスムーズに行ったんだ。十階、シルバーランクまで」
「ピーター、テリー、お前達は明確なきっかけが何かあると考えているんだな?」
「そう考えるのが普通じゃない?だって5階で詰まった時は明らかにモチベーションも落ちていたよ。屋敷でのみんなの夕食の時も愚痴をこぼしていたくらいだからね。僕ら家族の総意としては温かく見守りつつ、これでハラハラの末っ子の大冒険も終わりだって思ってたよ。そしたら何かアドバイス役をお父様に頼んで」
「そう、何か冒険者相談窓口にすごいヤツがいるって話になって、そっからは」
「アッと言う間にシルバーランクってやつさ。どう考えてもこの相談窓口の担当が怪しくないか?」
ピーターとテリーは兄弟らしく息のあった掛け合いで長男に説明していく。ウィリアムは自分が思っているよりも、ちゃんと時系列で明確に調査をしていた弟達に、もう少しこのやる気を4大国へのマーケティングで発揮してくれればと思いつつ、自慢げな弟達に先を促す。
「この流れだと、どうせその冒険者相談窓口の担当って奴も調べがついてるんだろ?」
「そりゃあね、ただ…」
「ただ、何だ?どういう奴なんだ?」
「めちゃくちゃ評判に差がある奴なんだよ」
ウィリアムは二人の困りきった顔をしている弟達の表現に戸惑う。仕事上でも滅多にこんな表情をしないこの二人に困惑しきった表情をさせる担当者に、これは相当面倒くさそうな話だと心構えをしてから続きを聞く。
「当然調べてから依頼してるんだから、悪い評判がある奴を父上は選ばんだろう。というよりダンジョン管理事務局があてがわない筈だろう」
「う~んと、こいつは上には評判がめちゃめちゃ良いんだよ。ほら、7、8年前に話題になった奴がいただろう。王立アカデミーの卒業生ですぐにトップエリートの登竜門のダンジョン攻略課の冒険者相談窓口になったエナミ・ストーリーって奴。あいつだよ、サーヤの窓口担当者」
「あぁ、聞いた事あったな、確かに。俺らとは代がだいぶ違うから気にしてなかったが、彼がダンジョン管理事務局に入った当時は噂を聞いたよ。都市伝説のたぐいかと思っていたけど、本当に実在したんだな、そんな奴が。テリーは歳が近いんじゃないか、王立アカデミーではどうだったんだ?」
「エナミの事?僕とは被ってるけど、一つ下で、クラスが違ったから在学中に目立った噂とかは無かったと思う。ただ王立アカデミーの入試は満点で首席で入ってきたから挨拶はしてたけど、何かピシッとはしてなかった気がするよ。その後も別に目立つ事は無かったんじゃないかなぁ」
「何だよ、テリーも役に立たないなぁ」
「だってピーター兄さん、彼は「始まりの七家」でも無ければ、商人の家の出でも無かったんだよ。僕はこれでも前後の代にも気を使ってたから、1個下ならマリー・カルフロールなんかとはちゃんと繋がってたよ」
「彼には特段の後ろ盾が無いって事かい?」
「どうなんだろう?入学の時は首席だっだけど、卒業の時はもう僕はいなかったから分からないや。ただ、今の彼の地位を作った当時のダンジョン管理事務局の人事部長はちゃんとステップアップしてるし、次期局長補佐になるって噂もある位だから、その人がバックアップしてるんじゃないかな?表立っては噂は聞かないけどね」
「そこは僕が裏取りするよ、ウィリアム兄さん。ただ何にせよ、こいつは俺らの敵になりそうな奴って事だけは今でも分かる事さ」
ピーターの冷たい瞳にウィリアムとテリーはかつての彼の飽くなき欲求への渇望を思い出していた。
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