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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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第三話 相談窓口の人は嗤う

 エナミはダナン課長に呼ばれたまでの記憶が鮮明にあるものの、そこから先は阿修羅像の事しか覚えておらず、自分がどんな話をしたかもイマイチ把握しないまま、次に気付いたら相談窓口の固い木製の椅子に座っていた。


 エナミは固い木製の椅子に座った後に冷や汗が額に伝い、背中もびっしょりになっていることに気づき、ハンカチで汗を拭った。汗を拭いながらも、ダナン課長の阿修羅像の表情の変化は何を元に行われているのかとしばらく考え、これは本当に現実逃避しているだけの不毛な事と自覚して首を横に振った。


 その後は、阿修羅像の主に宣言した通り、ちゃんと冒険者相談窓口をこなそうと切り替え、ダンジョン攻略課の入り口にエナミは真面目な顔で目を向けた。隣の窓口に座るレラは先程までの出来事が何も無かったように、静かに座っていた。


 ちょうどその時、ダンジョン攻略課の入り口のドアに付けたベルがチリンと鳴り、冒険者相談窓口への来客を告げた。

 

 隣の窓口のレラは、普段からやる気を感じさせない先輩が珍しく真面目な顔をしてるのを内心面白く感じながら、ドアが開くのと同時に、反射的に営業スマイルを浮かべた。


 しかしその来客が、大剣を背負った自分がよく知っている若い男なのを確認すると、反射で浮かべた営業スマイルが引き攣るのを感じつつ、一方でエナミが真面目な顔をしたままで内心嗤っているのが、そちらを見ずとも分かった。


 ダンジョン攻略課の入り口から入ってきた大剣を背負った若い男は冒険者相談窓口のレラを確認すると、目を耀かせて一直線に彼女の窓口にやってきた。レラは頭の中を入り口から窓口のわずか10メートル程度、時間にして3秒程で完全にビジネスモードに切り替えた。


「レラさん、こんにちは。今日もお美しいですね」

「ミゲルさん、こんにちは。いつも過分な評価をありがとうございます。今日はどういった御用ですか?」

「いやぁ、僕はレラさんの見たままを言ってるだけですよ」


 かたや相談窓口の椅子の右側に背負った大剣を置き、ウィンクをしながら話し掛ける若い男、かたやその行為にゾッとしながらも、その様子を一切見せずに、気持ち悪い男に悟られぬよう、微笑みを浮かべたままビジネスライクに捌くレラ。


 エナミはこのミゲルという、ダンジョンに潜ってない日は、ほぼ毎回レラの相談窓口に午前中に来るブロンズランクの男への彼女の対応を心の底から感心するとともに、この男の振る舞いの滑稽さを毎回のように隣で内心嗤っていた。

 

 ミゲルはレラの横の窓口に男性職員が座っているのは分かっていたが、客である自分にそんな事を思っているとはつゆとも知らぬまま、レラだけを見つめながら自分なりにかっこ良くみせた筈の挨拶もそこそこに、会話を続ける。


「いやぁ、昨日はレラさんのお陰で、七階まで潜ってきたんですよ」

「そうですか、ではこの間ご相談にあった六階のゴブリンアーチャーは対応出来たんですね?」

「はい、この大剣をレラさんのアドバイス通りに上手く盾代わりにして射線を塞ぐ事で、あいつらがまごついてる間に倒して、七階まで行く事が出来ました。毎回ですけど、完璧なアドバイスありがとうございます!!」

「いえ、こちらも毎回言ってますけど、私の力ではなく、あくまでもダンジョン攻略課の先達の方々の今までの叡智をご案内したまでと言いますか…」

「ハッハッハッ、謙遜されるレラさんも素敵ですね」


 レラからすれば、この程度の階層のモンスターの対応については、ダンジョン攻略課のモンスター対応マニュアルに書いてある通りの事を言ってるだけでしかなく、何の自分自身からのアドバイスも無かったが、相手が喜んでいる以上は積極的には否定しづらく、困惑している面があった。


「あのアドバイスは、本当にダンジョン攻略課のマニュアルに則っている通りのものでして、私自身の見解とかは何も…」

「もぉ、困った顔でそんな事言わずに。自分は分かっていますから。どこまでも謙虚なレラさんもやっぱりお美しいですが、僕は笑顔のレラさんの方が貴方の魅力をより際立たせるからいつでも笑顔が見たいですね」


 しかもその相手は他人の話を全く聞かない男であった。ミゲルはレラの事をビジネスの相手としてだけでは無く、あわよくばプライベートの相手とも考えていたので、余計に無理矢理にでも、きっかけが無くとも彼女を褒め讃えてしまっていた。


 レラとしてはミゲルの下心は相談窓口での経験と、今までの彼とのくだらない、進まない、やりがいの無い掛け合いの中で百も承知だったが、仕事として彼には自分の言い分を分かってもらう事を毎回の様に伝えているが理解されないので今回も諦め、階層攻略の話を進めた。


「では七階のゴブリンマジシャンの対応が次の問題という事でよろしいですか?」

「流石レラさん、話が速いですね。僕の女神はやっぱり違うなぁ」


 そしてその隣の窓口に座り、二人のやり取りを内心嗤っているエナミは、空気を読まない男だった。


「窓口3年目のレラが女神だって?ブロンズランクで何も知らないからって、笑えない冗談だな」








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