第四話 ミズキはラミーと働きたくない 1
「いやぁミズキちゃん、今日も相変わらずかわいいね、っていうか綺麗だねえ〜、ウチの嫁さんの次、いやぁウチのこの間生まれた娘の次くらいかなぁ?」
「ラミーさん、ご無沙汰しています。相変わらず息を吐くようにセクハラが出てきますね」
「えっ?!セクハラ?僕ほど女性を愛し、子供を愛し、この惑星を愛している人間なんていないでしょ。そんな僕がもしセクハラなんてしてたら、このアルミナダンジョン国の終わりだね。あっ、ミズキちゃん、ちゃんとこの国の終わりが訪れる日を教えてね」
本人的には突然の外交部第一外交課課長補佐への昇進を控え、何故か申し送りと引き継ぎ内容の確認を転属2ヶ月前にとダナン課長から指示があったミズキは、何故か急遽、ダンジョン管理事務局の上層部からの指示により、ダンジョン攻略課と同じフロアにあるレストラン「pas si savoureux」の個室に席を設けられていた。そしてその高級なテーブルの自身の向かいの椅子に座り、喋り続けるラミーにため息を堪えていた。
ラミー・レバラッテはかつてはダンジョン攻略課のメリダダンジョン担当の同僚で、しかも第一保安課では入れ替わりだったが、大先輩だ。
ちょうど3年近く前にミズキがラミーとダンジョン攻略課で同僚になる話を当時を知る第一保安課の人間に聞くと「会えば分かる。耐えられるかどうかはお前次第だ」と不安になる送り出しだったので、偶々会えた一見温和な紳士に見えるタナカ部長に確認した所、「うーん、ラミー君は優秀な保安部職員でしたね。ただ隠密行動や警護には向かなかったなぁ」と第一保安課の職務を否定するようなオフレコ発言をしていた。
その為、こわごわとラミーとダンジョン攻略課で初めて会った時の第一印象は、第一保安課に居たはずなのに落ち着いた感じの西洋系の顔立ちした普通の陽キャのイケメンなんだという極めてポジティブなものになりそうだった。
しかしそのポジティブな願いもラミーがミズキの新任の挨拶をダナン課長の前でしてから直ぐに、エナミが自分のデスクに離れ、ダナンが何故か自分達の方に結界を張った事に気づいた時には後悔に変わっていた。
「君が新任のミズキちゃん?知ってると思うけど、俺の名はラミー・レバラッテ。そう、気づけば母国に帰ることも出来なくなってから、最愛の人達をこの地で見つけ、このダンジョン管理事務局、いやアルミナダンジョン国の次代を担うスーパー公務員になるべく全ての部署を持ち回る事が野望の男さ。当然知ってるよね、宜しく」
「宜しくお願いします」
「いいね、いいね。その初々しい感じ、俺も去年このトップエリートの巣窟と言われているダンジョン攻略課に来た時はそんな初々しい感じだったよ。ねぇ、課長?課長、聞こえてます?」
「……」
「あれ?何でか結界張ってるや、まぁ気にしない気にしない、ミズキちゃんこんな事ダンジョン攻略課なら日常茶飯事だから。ダナン課長も僕と同じ日に相談窓口担当になる君の事を気を使ってこうして話す時間を取ってくれてるのさ」
ミズキには間違いなく違う理由が分かったが、彼ほどスーパーポジティブな人間に何か言ったとてプラスの反応しか無い事が分かったため、彼と奥さんの馴れ初めの話をこの後も二十分ほどダナン課長の机の前で聞かされた。会話が途切れるタイミングが出来たのはダナン課長が一つの書類確認が終わって、認可の判を押した後だった。
「ラミー君、自己紹介は終わったかね?」
「あぁ、ダナン課長。ちょうどこれから僕とマイハニーが…」
「それはまた今度にしたまえ。ミズキ君もこれから初めて冒険者相談窓口に就くんだ。本来ならここで経験が一番あるエナミ君にお願いするんだが、ちょっと彼には大事な冒険者用のダンジョン攻略マニュアルの改定をお願いしているからね。君にはミズキ君の初期指導だけお願いするよ。」
「分かりました分かりました。エナミは本当にこのダンジョン攻略課だと何でも出来るから大変ですよね。俺も去年来た時はアイツに助けてもらったけど、みんなこんなに働いてんの、こんなには僕は働けないわって思ったらアイツより働ける人間なんていないでやんの。ビックリでしょ、ミズキちゃん。末成りの物語ってあだ名、まるで嘘だよ?」
「ラミー君!!」
「はいは~い、それじゃミズキちゃん、早速窓口対応の案内をするよ。エナミが作ったマニュアルを使ってね」
ダナン課長の剛毅な表情の阿修羅像にも怯むこと無く、ラミーは振り返り、窓口へと進んでいく。呆気にとられたミズキはその場で立ち止まっていた。そんな色々と圧倒されている彼女にダナンが語りかける。
「ビックリしただろうが、あれが噂のおしゃべりラミーだよ。ミズキ君、後2年は同僚として付き合うから頼んだよ」
「……ダナン課長、私は彼と上手く付き合っていけるでしょうか?」
「彼と上手くやるコツを一つだけ教えよう」
「はい」
「それは彼の言ってる事を聞かないことだ」
「えっ」
「大丈夫だ、彼の言葉には何の意味もない。ただ彼が出世したら、その限りではないがな」
ミズキは不安しかないまま、ラミーの待ち受ける相談窓口でマニュアルを使いながらの案内を受けるハメになった。
非常に不安にかられていたラミーの冒険者相談窓口の初期研修だったが、エナミの作成した新人研修マニュアルのおかげか、それともラミーの隠された能力のおかげかミズキの予想とはうらはらに、非常にスムーズに小一時間で終わりを向かえた。
「こんなもんだよ、ミズキちゃん。案外簡単だろう、なんか質問ある?」
「いえ、一通りこのマニュアルにあるQ&Aに書いてありますから。それを読んでまだあるならお伺いしますね」
「いやいやいやいや、それなら僕じゃなくてエナミに訊いて?それアイツが作ったマニュアルだから漏れが有ったら大喜びで涙を流しながらでも直してくれるよ」
「……それなら別の事で一つ質問が。さっきの話で気になったんですけど、エナミさんって噂だとあれですけど、本当にそんなに凄いんですか?」
「う~ん?エナミの事?ミズキちゃんはアイツの年上でしょ、それならエナミ君で良いんじゃない?そうだそうだ、最初が肝心だからエナミ君呼びしよう、そうしよう」
「えっと、私の方の質問は?」
「あぁ、エナミの実力?あれは別の生き物だよ。一緒のレベルであんなのと競ってもしょうがないから最初に言っておくけど、アイツとは仲良くやりな、その為にもエナミ君呼びね」
「はぁ」
「あぁ〜エナミの事、馬鹿にしてるね。ミズキちゃん悪い事は言わないからアイツとは揉めない、競らない、仲良くする、この3つをちゃんとやったら、気づいたら勝手に出世出来るの間違いないから、これ俺からの最初のアドバイスね」
このアドバイスだけは断トツで聞いておいてよかったと、ミズキは3年近く経った今、眼の前のラミーの言う事を聞き流しながら実感していた。
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