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閑話4 相談窓口の人は偉い人に期待される

この話で閑話は終わりになります。

 エナミはサーヤによる天災に近いアクシデントは何とか護衛についてくれていたタナカの介入により、丸くは収まらなくとも個人だけでなくアルミナダンジョン国に深刻かつ凄惨な事件として後々まで語り継がれそうな出来事を防げた為、最悪は避けられた筈と無理やりに自分を納得させていた。


 しかしながら週明けにも関わらず、朝からデスクにて深刻な空気のまま頭を抱えているエナミを見て、周りはトラブルに触れてはならぬとばかりに声をかける事も一切しなかった。これはあのダナン課長でさえも状況をタナカから説明され把握していた為に、明らかにおかしくて頭を抱えたままの仕事に全く取り掛かる様子の無い彼を注意しなかった。


 まさかの話の連続だったあの後は、取り乱したレラを落ち着かせる為にエナミが知りうる状況を努めて冷静に説明して、何とか彼女を落ち着かせて家へと送っていった。そして動揺して虚ろな彼女を母親のメアリーに任せて、入れ替わりに玄関先で会ったグラハムとは少しだけ会話をする時間があった。


「エナミ君、娘が迷惑をかけたみたいだね。ところで…君は知っていたのかな。ウチでこれから起きそうな問題を」

「ええ、最近仕事がらキナ臭い噂が入ってきましたから。ただ僕も今日まで彼女に伝えていなかったのですが、あの様子だと彼女の耳には入らないように周りも気を使っていたのだと思います」

「そうか。あの子はこの国の人々には守られているんだな…。祖国との対応の差は皮肉なものだ」

「…グラハム様、レラは週明けからも仕事に出しますか?」


 どちらかと言うと、ランドール共和国との問題の当事者というよりも、親としての立場への質問をエナミはグラハムに投げかけた。その心情を理解した元大統領は言い訳無く、自身の見解を話す。


「うーん、レラの事だから健気に行こうとするだろうね。それを止めるすべは今の私達には無いよ。ただの亡命者で一般人だからね」

「…そうですか。お気持ち察します」

「いやいや、僕たちの心配は自分達がするべきものだよ。それよりも君たちダンジョン管理事務局への負担が高い事が分かってるけれど、宜しく頼むよ」

「大変申し訳ありませんが、こちらの屋敷のセキュリティも非常に高いのは分かるのですが、間違いなくダンジョン管理事務局内がこの国では一番安全なので、その点はご安心していただければ」

「そこは疑ってないよ、それに」

「それに?」

「君もいることだしね。三百年前のアルミナダンジョン国建国から続く、ストーリー家の名は伊達じゃないんだろう?」

「……ご存知だったんですか?」

「そりゃあ、ウチの先祖はこの国にこっ酷くやられた側だからね。今後も虎の尾を踏んだらまずいと思った先祖からの言い伝えくらい残っているさ」

「……名に恥じぬように微力を尽くします」

「良かったよ。君の家はこちらでは悪魔の化身くらい恐れられていたからね。妻も不安にしてたから、その言葉を聞かせたら落ち着くよ」

「……そんなものでしょうか?」

「君は自分の存在を軽くみすぎてるね。よく周りにも言われるんじゃないかな?」


 グラハムはこんな状況でも人好きする顔で楽しそうに笑う。エナミはちょうど良いタイミングと思い、肩を竦めて振り向いて立ち去ろうとする。振り向きざまに、後ろから元大統領の声がかかる。


「エナミ君、君の目にはあの子はどう映るかね?」

「そうですね、どう映るかというより…僕はレラを悲劇のヒロインにするつもりはありません。そのために僕が出来うる全力を尽くします」

「ありがとう、娘のために」

「いえ、あくまでも僕のエゴですから。しがない公務員の出来る範囲なんで、あまり期待し過ぎないで下さいね」

「この借りは必ず返すさ」

「気長にお待ちしています。大統領閣下」


 会話中も振り返らずに片手を上げて、エナミは立ち去る。グラハムが玄関から部屋に戻ろうとするとメアリーがいつの間にか隣に寄り添っていた。


「悪趣味だね。ここで全部見ていたのかい、メアリー?」

「いえ、レラに付き添っていたのですが、あなたが中々戻ってこなかったから迎えに来たの」

「そうかい。なら安心していい、君の元に舞い戻るのが僕の役割だよ」


 グラハムはメアリーの肩を抱き寄せる。普段通りの夫に、先程までレラの対応をせざるを得なかったメアリーの不安や心配も徐々に落ち着くのを感じていた。


「エナミ君って言ったかしら?彼はあなたの期待通りの凄い人なのね」

「何故そう思うんだい?」

「だってあなたがそんなに楽しそうに笑うなんて、いつ以来の事かしら」

「そうか、そんなに僕は楽しそうに笑っているかい?」

「気付かなかった?亡命前のあの頃のあなたみたいに笑っていたわ」


 ランドール共和国での若き日のグラハム・ランドールはランドール家の正統後継者の血筋として、大統領として、あまりにも輝きすぎていた。それ故に絶対的な独裁者を求めない今のランドール共和国の議会から追いやられたのだ。


 その存在がまるで共和制を破壊する悪魔になるかもしれないという共和国国務議会の議員や官僚達の恐怖が、グラハム達をアルミナダンジョン国への亡命へと追いやったのだ。


「…ここに来た時は、まさかそんな未来があるとは思ってもみなかったけれど、もしかしたらあるのかもしれないな」


 エナミが玄関先でランドール家の門から出ていくのを確認した後も、グラハムはまだ楽しそうに笑っていた。


 週明けのレラは健気にいつも通りに出勤してきていた。ただし1時間ほどダナン課長に申請して遅刻してきたのが、唯一の変化くらいで、彼女は戸惑う様子も見せずにいつもの姿と顔で、煮詰まって相変わらずエナミがブツブツ言ってるデスクにやってきた。


「先輩ぃ、週末は楽しい夕食ありがとうございましたぁ。ただ、私のせいであんな風に終わってしまってすいませんでしたぁ」


 普段通りのレラの様子にようやくエナミも落ち着く。


「レラ来たのか、良かったよ。いや、俺の方こそあんな風に何だか訳の分からない騒動に巻き込んでごめんな。今度埋め合わせするから」

「私の方こそ取り乱してぇ、ご迷惑おかけしましたぁ。私はもう大丈夫ですよぉ、代わりに今日のお昼奢って下さいよぉ」

「それで埋め合わせになるなら良いけどな」

「はいぃ、それでお願いしますぅ」


 レラと話したエナミは一先ず落ち着いて仕事に戻った。この日の午前中はデスクで真面目に事務業務をこなした二人は、お昼休みを告げるチャイムが鳴ると、ご飯を食べにいつものウラ寂れた地下食堂「来るもの拒まず」に行く。


 二人はいつもの窓際のテーブルで、エナミは今日のおすすめの魚定食を、レラは奢ってもらったドラゴンステーキを食べながら、週末に別れた後の事を話し始める。


「あの後はどうした?」

「両親と話してぇ、今まで通りの生活をしようってぇ。ランドール共和国の偉い人達の出方は分からないけどぉ、エナミ先輩がいれば私は安心だからってぇ」

「元大統領夫妻からの重すぎる信頼だな。実際問題、このダンジョン管理事務局内で問題を起こそうとするやつはただの命知らずか頭がおかしいか、どっちかだからな」


 そう話しながら、その後はいつものように世間話に花を咲かせる。この他愛もない時間は二人にとって日常を感じさせる、落ち着いたものになった。昼休みを終えても二人はデスクにて作業を続け、この日はきりが良い所で帰っていった。


 しかし、三ヶ月もそんな落ち着いた日常が続いていた、ある日の夜。


 スラム街の路地の真ん中、ちょうど出来た空きスペースで大柄の男は最近身につけたスキルにより、亜空間から自身の倍はある槍を手にする。それに対峙するエナミは得物を持たずに、槍を持った大男に冷酷に呟く。 


「お前には期待してるぜ、ヤミール。この状況を作り上げた奴を泣かせる為にな」

「お前は分かっていたんだろうに、おせっかいな奴だな。それに俺も半年前にコテンパンにお前にやられた時とは違うんだよ!!今の俺にはこの槍がある!!」

「戯言はそれだけか?もっと俺を楽しませろよ。この怒りが永遠に無くなるくらいにはな」


 エナミにとっては予想通りの、非常に面倒な物語は動き出した。










 これで間章は終わりです。すいませんが、ちょっとプライベートで時間が取れずにまだ間章までの修正が終わってないので、週末まではそちらの修正に時間をいただきます。


 第二章は6月18日十時から毎日投稿の開始が出来ればと思います。少しお時間いただければ有り難いです。


 もし気に入ったら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

 気にいらなかったら、貴重な時間を使わせて申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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