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閑話3 相談窓口の人は新星冒険者の誤解を解く

修羅場ですが、続きません。

 エナミに肩を抱き寄せられたレラは急な突風に驚いていたせいで、自分とエナミの距離感に抱き寄せられた最初のうちは気付かなかった。しかし風が止む頃には支えてくれたのが彼で、その顔の近さと香りで距離がハッキリ認識できていた。


 やっぱり男の人なんだなと、ガッチリと自分の体を倒れないように支えられている力強さに、普段の痩せ型で猫背のエナミからは想像できない安心感をレラはまず最初に覚えていた。しかもその距離だと彼がいつもつけているベルガモットの香水の香りもよく感じる事が出来、ついつい現場の勢いと少し飲んでいたお酒の酔いとムードに流されて、ちょっと位は良いよねとばかりに彼の胸に自分の頭を預けてしまう。


 一方で外野からは一見せずとも仲睦まじく見えてしまう二人の姿を、マジマジとダンジョン攻略時に見せる冷酷な瞳で見ていたサーヤは、五十階攻略を証明する素材として持っていたアンデッドキングドラゴンの角をミシミシと音が鳴るほどに握りつぶそうとしていた。


 本来ドラゴンの角というものは、高位冒険者が使うような各種武器の肝となるべき所に使え、ダンジョン管理事務局の特に資材部第一資材課としてはドラゴンの牙と双璧をなす素材として、プラチナランク以上の高位冒険者に取ってきてもらいたい素材ナンバーワンのものであった。


 しかも五十階で手に入る、このアンデッドキングドラゴンの角ともなれば、プラチナランク以上の冒険者がメインに使う武器素材としても十分に要求を満たせるため、その価値は計り知れず、一本だけでも第一資材課に持ち込む事で、普通の人間なら5年は遊んで暮らせる位の価値があるものだ。それを眼の前で握りつぶさんとばかりに、もう既に手形がついてしまいそうな勢いで把握しているサーヤに、流石に普段は空気が読まないエナミも冷や汗が背中を伝うほどに動揺していた。


「……サーヤ様」

「何かしら?さっき壮大な誤解がどうとか貴方は言ってたけれど、そこの女は公衆の面前で、しかも私の目の前で、とても気持ち良さそうに貴方の胸に頭を預けているわ。この現実を見た上で、これ以上何をどう私はあなたに壮大な誤解だと証明してもらえば良いのかしら?」

「…………」


 冷え切った声で、かつ普段の冒険者相談窓口でのエナミとのやり取りでは考えられないほど冷静な言い回しをするサーヤに、あぁ本気で怒るとちゃんとした言い回しになるんだ、今日で人生最後になるかもなと現実逃避しそうになるエナミの後方で、この修羅場を少し離れた路地で頭を抱えて見ている一人の人物がいた。彼の名はジョージ・タナカ。そう、言わずと知れたプラチナランク冒険者であり、保安部部長にしてエナミの護衛についているその人である。


 今回サーヤにとっても、エナミにとっても非常に誤解を呼ぶこのシチュエーションを作り上げた突風は実は人為的なもので、エナミとレラの影で護衛についていたタナカがかつての第一保安課の部下であるミズキに「ちょっとデートする後輩の後押しをしてほしい」と頼まれて、十分に人為的と思われないようにチャンスを見計らって、タナカ自身のスキルを使って起こしたものであった。


 その為、このタナカが想定していた甘いシチュエーションと呼ぶにはあまりにも物騒になってしまっている状況に対しても一定の判断を下す必要がタナカには生じていた。そしてその判断は、今回のハプニングは急に自然が起こした現象で、自分の介入については何も無かった事にするという完全なバックレという事だった。


 タナカはこのエナミに突如として降りかかった、今ここにある危機に見て見ぬふりは出来ぬと、護衛として当たり前のような顔をして、ゆっくりと静かに、しかしわざとらしく見えないように驚く振りをしながら、相手に分からせるためにコツコツと足音を立てて、内心はワクワクしながら状況に参加した。


「エナミ様、このようなプライベートの場での危険な状況は私としては誠に遺憾に存じます。私共の介入が必要でしょうか?」


 自身の後ろからくる保安部部長の姿を確認したエナミは、救う神を初めて見たような顔をして歓喜に震えながら安堵の笑みを浮かべて、タナカに普段とは全く違った助力を求める。


「あぁタナカさん、助かります。今まで護衛で僕たちを見ていたなら分かると思いますが、こちらのサーヤ様に、現在の状況に非常に誤解が生じている事を説明してもらえますか?」


 もう安心とばかりに最も優秀だと信じて疑わない護衛に下駄を預けてしまったエナミは、次のタナカの真顔での発言に悪魔を見る。


「誤解?本日はお昼過ぎに職場の同僚であるレラ・ランドール様のお屋敷にわざわざ伺って、先方のご両親に挨拶をされた後、午後から仲睦まじくウィンドウショッピング、美術館での一時、そして夕食と、普段のエナミ様の怠惰な生活からは考えられないほどちゃんとしたデートをされているのを護衛としてお見受けしていましたが、何処を詳しくご説明させていただければ宜しいでしょうか?」

「……ご両親に挨拶して、お昼過ぎから仲睦まじくデートですって……」

「タナカさん!?何故!?この状況に火に油を注いでどうするんですか!?」

「いえ、エナミ様のご要望であった現在に至る状況についてはご説明させていただきましたが?」


 タナカは悪びれもせず、本当に分からないとばかりの困惑した顔をして、抱き着くレラのせいでまったく動けずに何とか田中の方に片手を伸ばし、助けを懇願するエナミに答える。


「タナカさん、何故ここにきて裏切りを!!僕が希望した事とはまるで」

「……どうやら、あなたの言う壮大な誤解の結果は出たみたいね……」


 サーヤはあまりの怒りに、急に現れた身なりの整ったロマンスグレーの中年の男の言葉を全て鵜呑みにして、自身のスキルである「神々の怒り」と呼ばれる雷を人為的に発生させる戦略兵器に等しい魔法の準備をしようとし始めた。

 

 またもう一人の当事者であるレラに関しては、エナミがあまりの状況に恐怖を感じていた為につい彼女を抱き寄せる力が強くなってしまい、しっかりとエナミの胸に顔を預けたままになっており、こういったシチュエーションに慣れていなかった彼女は自身の出来心とは裏腹に恥ずかしさで固まってしまい、周囲の状況が全く見えておらず、この危機的状況を把握していなかった。


 勿論この場でどんな言い訳をレラがしても、荒ぶるサーヤには届く筈も無かったが。


 流石にわざとここまでの惨事を拡大させてしまっていたタナカは、お遊びはこれくらいにするかと、状況を終息させようと動く。


「もしかしてエナミ様がお求めになっているサーヤ様が勘違いなさってる事とは、今の今までエナミ様が新人指導役としてレラ様の仕事であった若い冒険者が起こした騒動への慰労の為に、心を折って準備された場所の案内役をされてましたが、たまたま先程強い風が吹いた為に、エナミ様が優しくレラ様が転ばないように支えている場面を目撃しただけという事でしょうか?」

「……両親に挨拶って言うのは?」

「レラ様はランドール家ですからね。要人警護の観点で今回の慰労の件にエナミ様が適切な相手かどうかを見られただけで、ご令嬢のプライベートな相手とは考えられたやり取りは無かったかと」


 タナカは当然ランドール家でのやり取りを把握した上で嘯く。しかしその淡々とした彼の語り口に一定の冷静な判断を取り戻したサーヤは、この区画だけでなく周囲500m四方がこの世の終わりを迎えそうなスキル発動の準備を止め、暗雲が立ち込め始めていた空は、星と月が明るく輝くただの夜空に戻ろうとしていた。


「ふーん、まぁ私がほんの少ーし間が悪く、この場に来てしまって壮大な誤解とやらをしたみたいね。いいわ、今回の件はそこのロマンスグレーの人の言葉に免じて、そういう事にしてあげるわ」


 この短い間に起きた色々な事に、信じられない気持ちでいっぱいになったエナミは自然と肩の力を抜く。抱き寄せられていたレラも少し離れて、恥ずかし気に髪を直して始めた。サーヤはそんな彼女の仕草を少し睨みながら言葉を続ける。


「その女もそう言えばいつも隣の相談窓口にいたわね。今後は少し泥棒ネコに気にかけるわ。それにランドール家って事は色恋沙汰なんかに現を抜かしている場合じゃないでしょうしね」


 少し意地悪に言ったサーヤの一言に、現実に引き戻されたレラは恥ずかしさで染まった赤い顔のまま、顔を上げてサーヤを見て反応してしまう。


「えっ、どういう事ですか?」

「あら?ご両親から聞かされてないの?それとも蚊帳の外に置かれてるのかしら?あなた達狙われるのよ。自分達の祖国ランドール共和国から」








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 気にいらなかったら、貴重な時間を使わせて申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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