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閑話2 相談窓口の人は後輩とデートする

 ダンジョン攻略部が誇る、美女二人組から不穏な情報を無責任に渡され、気づいたらミズキにだいぶ責任重大な約束をさせられたエナミは、約束した時のマリーの少し寂しげなな表情の奥の感情と同じような、憂鬱な週末のレラとのデートを迎えようとしていた。


 しかも今回のレラとの夕飯の約束については自分から言い出したために、急な日程の変更など言える筈もなく、逆に何故か「ちょっとウチの両親に挨拶してもらわないと、その日は出れないんです」と強く真面目な声で彼女から言われた為、彼女の家まで迎えに行くハメになっていた。


 ここでレラの過去を振り返るが、彼女は自身の生まれたランドール共和国から二十年前にアルミナダンジョン国に亡命してきたランドール家の長女である。亡命した当時は2歳で、彼女の中に共和国の記憶は朧気な事しか残っていない。


 アルミナダンジョン国から丁度真西に向かう交易路のはるか先(馬車で行くなら一月、魔石を使った車でも半月はかかる)にあるランドール共和国の首都トールタイプ。


 西に海が臨むように作られたランドール共和国の首都トールタイプの大統領府から、晴れた日に見える無限に広がる美しいコバルトブルーの絨毯のような景色をレラは一度も見た記憶がなかった。


 亡命した後のランドール家の人々は、元大統領のグラハム・ランドールの持ち前のカリスマ性とランドール共和国から亡命以前にアルミナダンジョン国にやってきていた人々のサポートもあり、ランドールの名を必要とする職にもありつけ、自立した生活を送ることが出来ていた。


 その為、アルミナダンジョン国としても過剰に保護する事なく、レラもランドール共和国の要人と言うよりは、普通のアルミナダンジョン国の人間として王立アカデミーで教育され、就職まで公正に評価されてダンジョン管理事務局で出来、彼女自身もすっかりそういう意識でここまでやってきていた。


 そういう長い年月の背景を知っているエナミとしては、今回の一件のレラの立場に対して、非常に同情的になっており、どういう風に持っていくと彼女の為になるかを日々熟慮していた。


 一方でその事を知らないレラからすると呑気に自分とのデートプランをエナミがめちゃめちゃ悩んでるのかも、とある種困惑と期待が入り混じった感情を持て余しながら、仕事に集中出来てないのをダナン課長から注意されることもあった。


 そして迎えた週末のデート(あくまでもレラ視点)当日。何故か向こうから指定されたお昼過ぎにランドール家の門の前にエナミはレラのリクエスト通りに小綺麗な格好でやってきて門番に声をかけた。


「すいません、レラさんと約束したエナミ・ストーリーと言います。確認をお願いしても良いですか?」

「エナミ様ですね。レラお嬢様からこの時間に来られる事は伺ってます。どうぞお通り下さい」

「ありがとうございます」


 中々してもらう事が出来ない丁寧かつ笑顔で迎え入れる門番の対応に違和感を若干覚えながら、門から玄関までの道のりを歩く。


 両サイドに広がるきめ細やかな配慮の行き届いたランドール共和国風の庭園を歩きながら見て、この辺が成金とちゃんとした権力者との差だなと約第ない事を思っていると玄関にたどり着いた。


 エナミが一度ネクタイを締め直して、ノッカーで叩こうと手を伸ばしたその先でドアがゆっくりと勝手に開いた。中からはいつもの制服姿とは違い、いかにもお嬢様っといった白基調のドレス姿のレラが出てきた。


「エナミ先輩。ようこそ、我が家にいらっしゃいました」

「お呼ばれしたからな。今日は宜しく。これは手土産のお菓子の詰め合わせ」

「わざわざありがとうございます。私の好きなお店のやつじゃないですか!ニール、こちらを」

「はい、レラお嬢様」


 ニールと呼ばれた若い執事がエナミから手土産を受け取る。他にもエナミの出迎えの為に、何故かメイトや執事が十人程並んで頭を下げている。そしてその奥にこの屋敷の主役たる仲睦まじい五十代の元大統領夫妻が佇んでいた。エナミはランドール共和国の最大限の礼をした挨拶をする。


「お初にお目にかかります、大統領閣下。エナミ・ストーリーと申します」

「あぁ、もう元大統領だよ。君の事は娘からよく聞かされてるよ。私がグラハム・ランドールだ。私の横にいるのが、最愛の妻のメアリー」

「はじめまして、エナミさん。今日は娘をお願いね」

「ハッ、お嬢様には一つの危険も無いように努めてエスコートしてまいります」

「流石、我が娘の騎士だな。嬉しいね。宜しく頼むよ」

「もう、お父さん、からかわないで!!エナミ先輩とはそんなんじゃないから!!先輩も父の悪巫山戯につき合わないで下さい!!」


 顔を真っ赤にして怒るレラをニヤニヤとからかう父親を見て、何処の家も一緒だなとエナミは枯れた事を思っていた。


「まぁ、娘の事以外でも君には個人的に興味があったから、こうして会えて良かったよ。これ以上引き止めるのは野暮だと分かっているから、娘と楽しい時間を過ごしてきてくれたまえ」

「ご期待に添えるかは分かりませんが、微力を尽くします」

「うん、じゃあ朝までに帰してくれれば良いから。宜しく頼むね」

「レラ、頑張るのですよ」

「もう、お母さんまで!!」


 悪ノリの程度で言うと、ブルックス家より酷いな、と冷静に判断してはいけない領域を考えながら、エナミはまだ怒って顔を赤らめているレラを連れて、街へとくり出す。


 昨夜は著しく睡眠時間を減らすほどの元々の緊張感を両親からにべ無く消されてしまったレラはエナミとの週末デートを想像していた以上に楽しめた。二人の趣味が合うことはこの2年半で分かっており、夕飯までの時間もウインドウショッピングや美術館での一時など、穏やかに且つゆっくりとした時を存分に満喫した。


 夕飯もレラのリクエストで、エナミ自身がが王立アカデミーの頃に同期と行っていた、今もごく偶にフラッと行く洋食屋「comida preparada」に連れて行ってもらった。


 雑多な店内とは裏腹に、洗練された料理に満足した二人はデザートの後のコーヒータイムを取り留めのない会話をしていた。


「それで、レラは何処に異動届けを出すつもりなんだ?」

「まだまだ考え中です。先輩は何処が良いと思いますか?」

「う~ん、まだ行ってない保安部とか、外交部とか?」

「どっちもバリバリの体育会系じゃないですか!!私は王立アカデミーでも鈍臭くて、攻略階層低くてギリギリゴールドランク行くかどうかくらいだったんですからね。ここからプラチナランク行こうってノリは絶対無理ですよ」


 レラは元々は資材部にいた為、転属先の選択肢としては資材部とダンジョン攻略部以外になるが、穏やかに過ごせる所としてはダンジョン開発研究所という部所もダンジョン管理事務局にはあるにはあったが、あそこはあそこで天才と何とかは紙一重という人間ばかりを管理する側になり、武力以外の力も必要となった。それ故に人によっては昇進では無く左遷先として認識されている面もあった。


「まぁ、まだ半年以上はあるから、ゆっくりと考えろよ。相談には乗るからさ」

「はい、その時は宜しくお願いします」

「よし、それでこそ俺の一番弟子だ」


 油断していた為か、素の笑顔で答えるレラは、気がつくと下げた自分の頭を隣に座ったエナミに撫でられた事に動揺していた。


 顔を真っ赤にしたまま、俯くレラに気付いたエナミは撫でる手を止め、心配そうに声をかける。


「レラ、大丈夫か?何か食べ物がアレルギーでもあったか?」

「いえいえいえいえ、大丈夫大丈夫です!お気になさらず!!」


 レラは高速で首を振り、エナミの方を見ないように顔を若干逸らしつつ、アイスカフェオレの入っていたグラスを空ける。


「まぁ、お前が大丈夫なら良いけどな。それじゃあ、これからどうする?もう帰るか?」

「えっ、もうそんな時間ですか?」

「いや、俺にしてはまだまだ早い時間帯だけど、お前を連れて遅くなると、あの二人を敵にまわすだろ?俺にはそんな気概はないよ」

「そうですね、では送ってもらいます」


 少し残念に思いながらも、大事にされている事が分かり嬉しくなるレラ。一方でエナミは出掛けに見たランドール家の一コマを思い出し、ついぞ言えなかった言葉を飲み込んでいた。


「お前は国と家族、どっちを選ぶんだ?」


 これほどに残酷な一言を、眼の前で楽しそうに話しかけてくるレラにはエナミはとても言えなかった。そんな店を出て一緒に歩く二人に突然強い風が吹き、運命を大きく動かしてしまう。

 

 ちょうどその頃、メリダダンジョン五十階を攻略したサーヤは直ぐにダンジョンを引き上げ、上機嫌でブルックス家の屋敷に戻ろうとしていた。


 四十階の攻略時とは違い、今回は慌ててダンジョン管理事務局に向かうほど衝動的に動くような事はせず、翌週のダンジョン攻略課の午後のエナミの担当日の冒険者相談窓口が開いた時に準備万端で彼の元に行き、ご褒美をねだって、約束をこちらから言おうと決めていたからだ。


 しかしそんな想像しうる全ての幸せが降ってきたような未来が見えていた時間を満喫して帰っていた、最大限に上機嫌だったサーヤは見てしまう。


 強風から転びそうになったレラの肩をとても大事そうに(あくまでもサーヤ視点)抱いて守るエナミの姿を。


 抱き合うほど近くに寄り添う(あくまでもサーヤ視点)二人を見てしまったサーヤは、先程までの上機嫌から一変、谷底に落とされたような気分を味わい、当然のように我慢出来ずに全身を強張らせたまま、凍えて震えたような声をエナミにかける。


「……エナミさん」


 エナミは転びそうになったレラを支える事に集中していて、まだサーヤには気付いていなかったが、人間がここまで冷たい声を出せるのかと驚きながら自分が呼ばれた先に振り返った。


「……あれ?サーヤ様、こんばんわ。こんな所で奇遇ですね…」

「……エナミさん、あなたは私が懸命にメリダダンジョンの五十階でアンデッドキングドラゴンを討伐していた間に浮かれて何をしていたのかしら?」

「……えっとサーヤ様、史上最速の五十階攻略おめでとうございます。……ところで何か壮大な誤解をなさってませんか?」

「……ありがとう、今のお祝いの言葉だけ受けとるわ。それで?壮大な誤解ですって?あなたは今の状況を何らかの大きな誤解があると説明する用意があるというのね。ならその誤解とやらをじっくり聞かせてもらおうかしら。そう、じっくりとね。今夜はまだまだ長いのだから」

 

 エナミの絶対絶命の夜はこうして始まってしまった。







 あれ、閑話っぽくなった。

 

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 気にいらなかったら、貴重な時間を使わせて申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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