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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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エピローグ 相談窓口の人はまたついつい余計な一言を呟いてしまう

今回で第一章は終わりです。

 レラ自身がミゲルの処分の件でバタバタしていた日々が過ぎていき、ようやく落ち着いて来た1ヶ月半後、「週末に夕飯でも食べにいくか?」とエナミに誘われた。


 昼休みにいつもの地下食堂で、二人でご飯を食べた後の窓口への帰り道、いつものぼんやりしたやる気の無い顔のまま、エナミに自然と言われたレラは、不意をつかれた為か「良いですよぉ、美味しい所に連れてって下さいねぇ」と気軽にOKの返事をしてしまった。


 窓口に戻って、さて午後の仕事も頑張るかと、切り替えようと机からダンジョン攻略マニュアル「これで安心安全アドバイスが出来る冒険者相談窓口の手引き」を取り出し、気になった所を確認しようとして、ハタと気づく。


 あれ?これはいわゆるエナミからのデートのお誘いというやつではなかったか、と。彼とはよくお昼を一緒に地下食堂に食べに行っていたが、それは新人指導も含めた業務の範囲内だし、買い物をしに外に出かけた事も無かったし、遊びに一緒になんて行ったことも無いし、ましてや夕飯なんて、その後もしかして…。


 勿論、レラは自分に今までにこういった男性経験がまったく無い訳では無かったが、エナミとはあくまでも先輩後輩として指導してもらっているだけで、そういう男女の関係が適切かどうかとは考えてもみたことがなかった。


 エナミには性格と普段着ている野暮ったい格好がたまの傷だが、それ以外は男性としての魅力もあるし、収入も国家公務員で安心だし、変な趣味も無さそうだし、コーディネートは自分がしていけばいいし、とどんどんドツボに嵌って、妄想の世界にいってしまいそうなレラを尻目に、隣の窓口のエナミは珍しく真面目に、午後一番のサーヤの五十階の攻略の資料準備に励んでいた。


 サーヤはこの3ヶ月位の間で、順調に四十階層後半を攻略していた。一時のエナミから見たメンタル面の不安定さは影を潜め、非常に攻略に集中している様子が相談窓口に来る度に見せられていた。その為、一ヶ月で一階層をクリアしてくるというプラチナランクでは考えられない高速のスピードで階層を更新していたのだ。


 いよいよメリダダンジョンの五十階のフロアボス、アンデットキングドラゴン相手の攻略準備が今回の目的になっており、エナミとしても久しぶりの大物相手の攻略のアドバイスだった。


 エナミが準備万端に背もたれに寄りかかった状態で午後一番の始業を待っていると、レラがシャッターのボタンを押すと同時にバンと勢いよくドアを開けて、サーヤはダンジョン攻略課に入ってきた。


「ご機嫌よう、サーヤ様。今日も気合が入ってますね」

「……貴方、相変わらずふざけた態度で迎えるのね。まぁ良いわ。今日はフロアボスのアンデッドキングドラゴンについてよね?」

「とうとうここまで来てしまいましたか。随分四十階層後半から攻略のテンポが速い気もしますけど、これもプラチナランクになって遂にサーヤ様の能力が開花したと思えば、これからの活躍が非常に楽しみです」 

「まぁ、貴方でもそんな歯の浮くようなお世辞をいう事があるのね。とてもじゃないけど皮肉にしか聞こえないわ。気持ち悪いからいつものように対応してもらえるかしら?」


 サーヤが文句を言いながらも、満更ではないのは口角が少し上がっているのを無理矢理顔に力を抑えようとしている事で、エナミには分かっていた。しかしそんな事をツッコもうものなら、また感情の大爆発が待っているので、用意したアンデッドキングドラゴンの資料を粛々と見せながら、ドラゴンの攻略法を伝え、サーヤからの質問に答えていく。


 1時間ちょっと使って、サーヤが十分にアンデッドキングドラゴン攻略の説明に納得出来た所で、彼女は立ち上がり去ろうとするものの、それまでの集中していた姿とは違って急にモジモジしだした。


「あのね、それでね、前にした約束の事なんだけどね……」

「あぁ、覚えてますよ。何でも私が一つ約束叶えるんでしたよね?こんなにも順調に行くとは考えてなかったですけど、ちゃんとご褒美も準備してます」

「?!忘れてないなら良いのよ。それじゃあドラゴン倒したら、また来るから!!」


 足早に去って行くサーヤにエナミは後ろから声をかける。


「いやこちらじゃなくて、資材部にアンデッドキングドラゴンの討伐証明の素材の角か牙は持って行ってくださいね〜、って聞こえてないか……」


 エナミはどうにもこの約束の話になると、サーヤが変なテンションになるなぁと思ってはいても、別段自分自身に大きな決断が必要になりそうな話とは考えていなかった。


 その辺は鈍感というよりも大抵の事は何とかなると考えていて、何とかしてきてしまっている過去の事実が、ダンジョン攻略では冴え渡る危機管理が本人の適当さとなって、非常にネックとなっていた。


 午前中もジュリアーナがメリダダンジョンの十三階で遂に聖なる夜の灯りを見つけられた為に、泣きながら窓口にやってきたのをダナン課長に見咎められ、エナミの責任じゃないかと、とばっちりで説教を食らうというイベントをうまく捌いていたが、説教から帰ってきた後は、偶にはこんな日もあるな位の軽いノリでケロッとしていた。


 勿論これはお昼休み中に週末に夕飯を誘ったレラについても同じ事で、そろそろ行っておかないと彼女が人事異動の事で忙しくなるし、課を上げての送別会でもどうせ自分は偉いさんに絡まれて、レラと話す時間取れず、後で彼女に文句を言われそうだと判断しただけで、エナミとしてはレラが考えるような他意は無く、自分自身の保身の為の動きだったりする。


 そんな日々これ平和が一番という座右の銘で生きているエナミもサーヤの事が一段落して資料を纏めていると、デスクワークしていたミズキから声がかかった。エナミは彼女の元に向かう。


「エナミ君、この間の夕飯の約束だけど、明日とかどうかな?」 

「えっと、ミズキさん、僕の方は良いですけど。急に何かありました?」

「それは君の事で相談したい事があるって、言ったら分かるかしら?」

「いやぁ、心当たりがあるような、無いような……」

「じゃあ、当日のお楽しみね。お店はまた明日の勤務時間中に教えるわね」

「はいはい、お財布として、お支払い出来る準備だけしておきますよ」


 エナミは手を振り、受付に戻ろうとするも再び阿修羅像のせいで威圧感たっぷりのダナン課長に呼ばれた為、首を傾げながらのんびりと奥のデスクにやってきた。


「課長、お呼びでしょうか?」

「うん、エナミ君、ちょっと君に確認したい事があってね」

「確認ですか?あぁ、2ヶ月前のミゲル様の件ですね。あの方との交渉では比較的スムーズに条件に乗っていただけたんじゃないかと思いますけど。課長にもご迷惑をおかけしました」

「ありがとう、その件は私としてもあの方とのやり取りは非常に円滑に運べたと思うよ。ただ今回君を呼んだのは違う理由なんだ」


 他に身に覚えがないエナミとしては困惑するしかなかった。デスクで手を前に組み、俯くダナンとは目が合わないが、まるで浮気でも疑われる遊び人の彼女のように、阿修羅像は冷ややかな眼で彼にプレッシャーをかけてきていた。


「…申し訳ありません、課長。私自身に他に思い当たる事が無いのですが?」

「エナミ君、よく自分の胸に手を当てて考え給え。冒険者相談窓口不介入と君自身の風聞の良化という2つの大仕事を簡単にやってのけた君の事だ。今回の事も直ぐに思い至る筈だ」


 阿修羅像の瞳の冷たい圧力が増していく。エナミは特に何をしたという後ろめたさがないにも関わらず、背中と額に勝手に冷や汗が流れていた。


「課長、大変申し訳ありませんが…」

「そうか、分かったよ。エナミ君、非常に残念だ。君ほどの優秀な人間でも、まだまだその若さから男女の感情の機微という世界には思い至らないと見える」

「はい?男女の感情の機微?一体何の話ですか?」

「君にはサーヤ様という婚約者がいるという事は分かっているね?」

「……はい?」


 ダナンは立ち上がり、外の窓を眺めるように背中をエナミに向ける。しかしその背中の阿修羅像はくだらない言い訳は一語一句許さないとばかりにエナミを睨みつける。


「君は若いが故に、色んな誘惑に目移りするのはよく分かる。私も若い時分は君と同じような経験をした事がある。」

「課長、仰ってる主旨が全く見えてこないんですが…」

「いいかね、エナミ君。年上の後輩も、年下の後輩もそりゃあカワイイもんだろう。実際どちらも魅力的な人間だ。先輩として、指導役として、目をかけてきた君の目からはそれはそれは大切な存在だろう」

「……はぁ」

「だがな」


 ダンジョン攻略課の一番奥にあるデスクから、地獄の底から響くような声がまるでゴゴゴッと片仮名の字幕があるかのように聞こえてきた。阿修羅像は完全に憤怒の顔になり、その圧力でエナミの冷や汗は滝のように流れるだけだった。あまりの恐ろしさに無意識に結界を張ってしまった。


「私は許さないぞ。何股もかけるような人間にサーヤ様を任せるという事を!!」

「……」

「この期に及んでだんまりか!!エナミ君、サーヤ様が君との結婚を夢見て、あんなに健気にメリダダンジョンを攻略しているというのに、午前中のジュリアーナ譲、午後は年上の後輩のミズキ君、そして年下の後輩のレラ君、更に噂では冒険者求人課のマリー君と浮名を流しているようだね」

「課長、誤解です?!」

「5回?何が5回だね、えぇ?!浮気は文化と言うのはケビン様と私の前では通用しないドラゴンズ思い給え!!どう今回の事を釈明するつもりかね!!」


 その後、エナミは次の相談冒険者が来るまでの間、理不尽な阿修羅像からの圧力の洗礼を浴びながら、自分に勝手に纏わりついてくるトラブルさえなければ、本当にいい職場なのにな、と心の奥底で呟いていた。









 いかがだったでしょうか?前書きでも書きましたが、第一章はこんなエナミのやるせない理不尽な日常で終わりになります。


 ここまで拙作を読んでいただきありがとうございます。


 一応、あとがきっぽい事を書くと、異世界であろうと、馬鹿げた力を持っていようと、あまり何も起こらない日常はあるし、組織の中にいて、うだつの上がらない日々もある筈と思って書きましたが、いかがだったでしょうか?


 読まれていてメインの筋から脱線が多過ぎじゃないと思われたかと思いますが、どうかご容赦を。


 そのせいで普通ならイベントが起こるきっかけをことごとく無視して、肩透かしみたいに三十話以上までいって、初めて戦うノリを書くみたいな所に、ストレスを感じられるようでしたら申し訳ありません。作者の力不足です。他の方の作品を読まれる事をお薦めします。


 第二章以降も大体のプロットは考えていますが、勢いで書き始めた作品なので、また更新で修正やら追加やらが色々と入るかと思います。ちゃんと完成するのは各章終わりになればいいかなと思っています。


 この後、間章が入りますが、人間関係がゴタゴタしますが、ちゃんと話も進みますので、タイトルに騙されて軽く読み飛ばす事の無いようご注意を。



 こんなバタバタな作品ですが、もし気に入ったら、ブックマークや評価をいただけると文筆の励みになります。実際評価していただいてる方も本当にありがとうございます。

 気にいらなかったら、貴重な時間を使わせて申し訳ありません。ただそんなあなたにも読んでもらえて、とても感謝しています。

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