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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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第三十四話 相談窓口の人は決着を見る

 エナミにとって非常に長く、イレギュラーな事ばかりの一日が終わりを告げると、そこからの約一ヶ月はジェットコースターのように怒涛の流れで過ぎていった。


 ジュリアーナは予想通りに十階まで順調に行きシルバーランクになるも、オーガ対策には慎重になり、自身の能力とスキルを伸ばす為のトレーニングの時間を十分に取り、修練場も使って対応を万全にしていた。


 その間にミゲルがレラの抜群のサポートもあり見事にジュリアーナの十階の攻略階層を追い抜き、シルバーランクになった勢いそのままに転移トラップも難なく対応し、十一階の最深部にたどり着いていた。


 そしてその直後に処分発令の猶予期間である一ヶ月が経過した為、正式に冒険者相談窓口での妨害に対する処分として、シルバーランクからブロンズランクへの降格と九階層からの再出発要請を受けた。


 これには本来あるべきもう一つの窓口利用の1年間の利用禁止という処分に関しては、冒険者ランクの低さから恩赦という形で免除された。このミゲルに対しての処分の軽減の裏側では、エナミが根回しとしてダンジョン管理事務局の上層部にだいぶ譲歩を引き出す交渉をしたらしいという噂が、まことしやかにダンジョン攻略課の中で広がっていた。


 これについては事実ではあるが、エナミ自身が噂を自らあえて流して、彼自身の悪い噂や誹謗中傷に対して、もし誰が発信しているか特定されたら、どんな処分になるかも分からないという恐怖でコントロールするというやり方を選んだ事で、周りが行っていた彼へのネガティブな印象操作というものは一定以上の落ち着きを見せていた。


 ちなみにブロンズランクへの降格処分だけだという報告をレラから冒険者相談窓口で聞いた時にミゲルは泣いていたが、隣の窓口にてちょうどジュリアーナに対応しているエナミをチラチラと何度か見ては、彼に何かを言おうとして、その度に口を閉じてレラとの会話に戻っていた。


「なんですの、あれは?気持ち悪い」

「さぁ、本人では無いのでその心情は私には分かりかねますが、ただ言えるのは…」

「言えるのは?」

「もう彼にはこちらに全く敵意が無さそうだということです」

「確かにそうですわね、あったらまた何かにつけて噛み付いてきそうですもの。もしくは先に十一階に到達したって事で私にマウントを取ってきたでしょうし」

「まぁ、そんな終わった事よりも、ヒメネス様はオーガの討伐の準備はお進みですか?」

「馬鹿にしないでくれるかしら?あなたにあれだけ言われたから、ちゃんとオーガと戦うように装備と能力の向上は出来ましたわ」

「分かりました。では目標の十三階の攻略に向けて、まずは十一階以降に見られる転移罠の対応を中心に戦略を練りましょうか」

「そうですわね」


 眼の前で見せるやる気以上に、ジュリアーナはこの一ヶ月のオーガ対策の準備がしっかりと出来たという自信を漲らせながら、エナミのアドバイスと攻略法に聞き入っていた。


 その隣では、再度の十階攻略に向けて熱心に確認作業するミゲルが、以前のようなプライベートの方にアプローチをかける態度を改めて、レラに接していた。


「レラさん、今度また十階にチャレンジするとなるとフロアボスは現れるんですか?」

「はい、今回あくまでもミゲル様はダンジョン管理事務局の便宜上、ブロンズランクへの降格処分となっているだけで、ダンジョン内での攻略状況には何ら影響はありません。その為、十階でも当然モンスターはリポップしますので、フロアボスとの戦闘は起こります。ただし、その際に特別な亜種モンスターなどは出てこないのは、以前に複数回あった降格事例でも検証されています」

「それじゃあ、今まで通りにどんどん攻略を進めて構わないんですね」

「はい、ただ…」

「ただ?」

「お隣のジュリアーナ様が先に十一階に入られるのは間違いないので、後追いみたいになるのは諦めて下さいね?」


 レラからすれば、ミゲルは出会った当初から、自分の戦闘能力に関して非常にプライドが高い男だった。それ故に、自信満々にエナミに絡んだのは大失敗と言えるのだが。しかし彼も今回の降格を含めた経験で変わった面を見せる。


「そんな些細な事ですか。レラさん、それは僕にとっては大した事では無いですね」

「えっ?」

「僕は自分の力量が今回の事でつくづくよく分かりましたから。あくまでも十一階まで順調に来れたのは、レラさん始めダンジョン攻略課の皆さんのおかげだと」

「…急にどうしてそう思われたんですか?」

「だっておかしいでしょ。僕は国営冒険者アカデミーの成績では、座学も実技も下から数えた方が早い人間だったんですよ?それがアカデミーの同期の卒業生で、他のダンジョン攻略している奴らと比べても、何ら遜色無い階層をクリア出来てる」

「それはミゲル様の力量がアカデミーでは十分に発揮を…」

「いいえ、レラさん。こう見えても僕はアカデミー生の時は身の丈を知っていたんです。自分の力量は上手く行って、三十になる頃にゴールドランクに到達出来たら最高だと。それくらいに考えてました。だからこそ、一番容易だと言われているメリダダンジョンを選んで、攻略を始めたんですから。それがトントン拍子で階層を攻略していて、気づいたらアカデミーの同期の中ではトップ前線で攻略している…」


 ミゲルは今迄見せていた、過剰なプライドの高さなど微塵も感じさせない等身大の自分の言葉で話していた。


「僕はね、きっとレラさんの言う通りにしてたら、何処までも行けると勘違いしたんですよ。だからこそ女神のようにあなたを讃え、惹かれていった。でも今回の件でよく分かったんです。僕はその段階で間違ってたんだって」

「ミゲル様…」


 ミゲルは普段の彼からは全く想像もできないくらいに傲慢さのかけらもない落ち着いた眼で、レラを見る。彼女はその真摯な視線から寒気や嫌悪感を感じる事無く、正面から向き合う事が出来た。 


「この一ヶ月の攻略をしていない間に他のダンジョンを攻略している同期の連中に、冒険者相談窓口について訊いたんです。どんな風に相談窓口のアドバイスを受けてるのかって、階層攻略はアドバイスを受けたらトントン拍子にスムーズにいくものなのかって?」

「…皆様なんて仰ってました?」

「みんな言ってましたよ。お前はそんな所までもサポートしてもらえるのか、どんな階層攻略も楽勝じゃないか、それなら俺もメリダダンジョンの攻略をすれば良かったって。しまいには成績の悪かったお前でそこまで進めるなら、俺ならもっと先に進めるのにって」

「そうですか…」

「その言葉で思い出したんです。前にレラさんが言ってた、このメリダダンジョン攻略マニュアルはダンジョン攻略課の叡智の結晶、先人達のおかげだって言葉を。何の事は無い、俺は才能があった訳でもレラさんだけに助けられた訳でも無い、みんなの経験の上に乗っかって、ただただ、本当に、本当に運に恵まれてただけなんだってね」

「ミゲル様…」

「だからレラさん、安心して下さい。僕はもう無理はしませんし、調子にも乗りません。ダンジョン攻略課の相談窓口の皆さんからのアドバイスの元、身の丈に合った階層攻略をしていきますよ。それでゴールドランクまで行けるなら、僕にとっては最良でしょ?何せ危うくブロンズランクの冒険者でも居続けられそうにない状況を、このダンジョン攻略課の方々に何とかしてもらった程度の人間ですから」

「……ミゲル様、そんなにも卑下する必要はありませんよ」

「いやレラさん、僕はその程度の人間だったんですよ。だからこそダンジョンの持つ魅力に飲み込まれそうになったんです。これからは本当に真剣に自分自身とダンジョン攻略に向き合います」


 ミゲルは寂しげな笑顔で、この一ヶ月で気付かさせられた事実を淡々と語る。レラは揺れ動く自身の感情を見せないように、ただただ笑顔で彼の話の続きを聞いてあげる事しか出来なかった。


 







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