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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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第三十三話 相談窓口の人は立ち会う 2

エナミの長い一日がやっと終わりを迎えます。

 ヤミールは先程のエナミがやっていた短剣の素振りの型の流麗さを見てもなお、正直彼とこうやって向き合うまではこの痩せた姿勢の悪い男は本気で俺とやり合おうというのかと半信半疑の気持ちだった。

 

 しかし今まさに10メートル先で木の短剣を右手にだらりと軽く持ち、構えすらせずにこちらを右前の半身でいるエナミを見て、見えてくるはずの隙を探しながら、全く付け入る隙のなさに、見た目ではなく非常に警戒すべき対象である、と頭ではなく身体が理解せざるを得なかった。


「どうした?構えろよ、ヤミール。じゃないと直ぐに終わるぞ」

「お前こそちゃんと構えたらどうなんだ。それにそんなヨレヨレのネクタイしたままで、立ち会うなんて舐めてんのか?」

「はっ、安い挑発になってるぞ。ハンデにもならねぇよ。どうせこのネクタイにすらお前の突きは当たらないからな。」

「本気でいって良いんだな?」

「当たり前だろ。ここで試されてるのはお前であって、俺は試験官なんだよ。ある程度お前がこの場で能力や武技を見せられないと、俺もマリーもわざわざ残業している意味がないからな。それにあのカメラで冒険者候補の能力測定するのも、ただじゃないんだ。お前には全力でやる以外の選択肢はないんだよ」


 エナミは飄々と緊張感無く、ヤミールを煽る。ヤミールは修練場の各所でズーム・アウトする複数のカメラの音を少し意識した。二人に開始の合図をした後はだいぶ離れて見ているマリーは、そのカメラの確認を手元のタブレットでしており、エナミにやや大きめの声をかける。


「エナミ君、こっちはいつでも良いよ」

「分かった。それじゃあ、本当に始めるか。ヤミール、まずは少し講釈を垂れるが、これは国営冒険者アカデミーの入学試験でやる立ち会いと同じ形式だ。武器や道具はこの修練場にある物を使って、どんな能力があるのか、どんな武技、魔法をアカデミーの担当職員相手に見せる事が出来るのか、が試験内容だ」

「じゃあ、なんで俺は試験前にアンタと今やるんだ?」

「それは俺の趣味だ」

「あぁ、舐めてんのか?!」


 激昂して槍を構えるヤミールに、ニヤリと笑って受け流すエナミ。マリーはため息を一つつく。


「冗談さ。そんなに始める前から熱くなるなよ。ランドール共和国の千人隊長が安く見えるぞ。これからやるのは通常の入学試験とは違って、お前の各ダンジョンに対しての適性を見極める為のものだ」

「ダンジョンの適性だと?」

「あぁ、お前は知らないだろうが、5大ダンジョンにはそれぞれ地形による特徴がある。まずは俺が担当するメリダは森林、ヤーガーラは火山、ライカは水辺、パルミッドは草原、ドンクは雪山って具合にな」

「それが俺の能力となんの関係がある?」

「さっき測ってもらったお前の能力は「武器強化」だ。簡単に言えば、お前の持つ武器の威力と強度を向上させる。そしてお前は当然のように槍を選んだ」

「……随分と昔から使っているからな」

「そうだろうな。アルミナダンジョン国に来る前から、お前はそうやって、馬上だけでなく、地上に立ったままでも槍を気の遠くなる数振ってきたんだろ。その全く隙のない構えからだけでもよく分かるぞ、だからな」

「だから?」

「全力でかかってこい」


 エナミは何も考えてないように、右前の半身を解き、町中の散歩でもするかのように歩いて間合いを詰めてくる。


 ヤミールは動揺しそうになる自分をコントロールする為に一つ息を吐くと、エナミが自分の槍の間合いに入る瞬間まで構えを微動だにさせなかった。


 そしてエナミが無造作にヤミールの槍の間合いに入ってきた瞬間、電光石火の突きがエナミの顔面を捉えたかのように見えた。しかし実際にはエナミはそこにはおらず、ヤミールの首すじにエナミの短剣がヒタヒタと触れる。エナミは何ていう事でも無いように呟く。


「まずは一本な」

「何で…」

「良いな。一日中、油断なく今の槍の突きの速度が出せるならメリダダンジョンか、パルミッドダンジョンなら、いきなりシルバーランクでもいけるな。ただ…」

「何だ…」

「どうして能力を使わない」

「くっ!!」


 ヤミールは槍を手元に引き戻すと、軽く追い払うようにエナミに振り、間合いを取り直す。しかし現実は、エナミの方が目の前から消えたように下がり、最初と同じ10メートルの間合いを取っていた。

 

 ヤミールは居酒屋で出会ったタナカを振り返って見つけてしまった時と同様の静かな怖さを感じた。


「さっきも言ったよな、ヤミール。全力でかかってこいってな。能力も武技も使ってこいよ。じゃないと永遠と同じ結果だぞ?」

「なめやがって!なら、見せてやるよ!!」


 エナミは先程と同じように散歩でもするように気軽に間合いをつめる。ヤミールは今度は目を離すまいと、視線をエナミの上半身の軸と重心から離さないように注視する。


 ヤミールの槍の必殺の間合いである5メートルまで近づいた瞬間、先程の倍の速さで槍の穂先がエナミの顔面を捉えた筈だったが、次の瞬間には結局、またヤミール自身の首すじにヒタヒタと短剣のあたる感覚があった。


「良いねぇ、二本目。今度の突きが放てんならさっき言った2つだけでなく、ヤーガーラでも、ゴールドランクはいけるんじゃねえかな」

「クソ、何故当たらない?!」

「そりゃあ、こっちは全部お前の突きの軌道をしっかりと見てから避けてるからな。理屈の上では簡単な事だろ?それにしてもお前、本当にスムーズな能力と武技の発動だな。両方とも突く瞬間だけに発動させて無駄な疲労を抑えるって、不断なる努力と天賦の才ってやつか。このアルミナダンジョン国に来るまでに、どれだけの研鑽を積む時間があったんだろうと考えさせられるね。そんな奴がこうやってこの国に来てくれてるんだ。ランドール共和国のお偉方はみんな歯ぎしりしてるだろうよ」


 エナミがペラペラと何故突きが当たらないのかという解説と、ヤミールへの賛辞ともつかないコメントを喋る間も、ヤミール自身は持ち前のしなやかな下半身が生み出すスピードと独特の歩法で一瞬でエナミを槍の間合いにもっていきながら、連続で高速の突きを放ち続ける。


 連撃から三連撃、フェイントも交えながら四連撃、頭から胸、腹、足と、アルミナダンジョン国に来る前にランドール共和国での約十五年の修練と戦闘で築き上げた槍の技術とその能力を遺憾無く発揮していた。


 しかしエナミは彼の言葉通り、全ての突きが見えてるかのように極力小さな動きで避け続け、ヨレヨレのネクタイやシャツにすら、ヤミールの突きの一つもかすりもしない。


 エナミは逆に小さな動きで、槍の間合いから外れるとともに近づき、自分の間合いでヤミールの首すじや脇、足の付け根、足首に何度も短剣を当て、軽い火傷の跡のようなミミズ腫れだけ残していった。


 マリーの始まりの声から三十分も二人で演舞のような立ち会いをした後、ヤミールは一旦距離をとり、構えを解く。身体の疲労はまだぎりぎり問題無かったが、気持ちの上では絶望感が強くのしかかってきていた。


 彼自身が持ちうる全ての槍の武技と能力を見せてもなお、エナミに触れる事すら出来ず、もはやヤミールが出来る事はただ一つ以外は何も無くなったからだ。


 互いに距離を取ったために、短くリズムを刻むような呼吸音だけがドームに響く。長い槍を片手に持ちながらも俯き、したたる汗を拭くことすらしないヤミールを尻目に、エナミはふーっと顔を上げ、深呼吸を一つして落ち着いてから、正面を向き、タブレットをいじっていたマリーに声をかける。


「いやぁ、ホントに久しぶりに良いストレス発散になった。つきあってくれてありがとうよ、ヤミール。マリーは見ていてどう思う?俺はもはやこいつはプラチナランクもいけるんじゃないかと思うんだが?」

「そうですね。現段階では先程挙げた3つのダンジョンなら、アカデミーの研修終えたら3年以内にゴールドランクに行けそうです。こちらのカメラで測定したデータからもそういう判断が出来ます」

「だそうだ。良かったな、ヤミール。国営冒険者アカデミーでの前途は明るいぞ。それで今日はこれくらいで切り上げるか?それともまだとっておきの武技でも勿体ぶって隠してるのか?」

「……あぁ、こっちはお前には一発打ち込まない事には納得行かねえよ」

「そうか、正直本当にこれ以上残業してると課長に怒られるからな。次の一撃が最後でも良いか?」

「ありがてえぜ、こっちも次の武技を放つくらいの余力しか残ってねえ」

「んじゃ、さっさと構えろよ。俺の服に槍をかすらせでもしたらご褒美をくれてやるよ」

「よし。忘れるなよ、その言葉」


 深く息を吸い、目に力強さを取り戻したヤミールは今までと違い、構えのスタンスを縦により広くとり、後ろ足の左足に体重をかける。エナミは飄々と右前の半身で立つ。お互いの息が同期した刹那、爆発したように二人の周囲に砂煙を起こして、ヤミールの身体が一瞬にしてエナミの前にたどり着く。


「アンタ死ぬなよ、これがお望みの龍槍だ」

「おっと、やばいかも」


 エナミにはヤミールの持っていた槍が今までより随分と長く見えた。その槍が縦に横に薙ぎ払うように連続で振り回される。彼が避けようと前ではなく距離をとる為にバックステップを踏もうとするも、今までと違い、うまく下がることが出来ない。


 エナミは魔法による引き寄せを疑うも、ヤミールにはそんな魔法を使いこなす技量がない事は百も承知だった。事実として龍槍という武技には、槍が普段よりも長くなるかのように見せる為に、槍を握る両手とも普通より端の方を持ち、高速で縦横に振り回す事により、その槍の間合いでは敵を引き寄せるかのような錯覚を起こさせるだけだった。


 その為、集団対個の戦闘になりがちな、地上の騎馬戦の切り込み隊長をしていたヤミールとしては、龍槍は非常に重宝する武技だった。事実その武技名を二つ名として、彼はランドール共和国の中で名前を馳せ、騎馬隊の千人隊長へとのし上がっていったのだ。


 砂煙がようやく収まると、エナミはきっちり槍の間合いを外した所に不満げな表情を浮かべているものの、特に目立った外傷は無く立っていた。ヤミールは両手で槍につかまりやっとの事で立っていた。エナミは微かに傷がついたネクタイに触れながら、呟く。


「流石千人隊長は伊達じゃないな。見事にネクタイを傷つけられたよ」

「こっちは全身ボロボロにやられて、息も上がってるのにそっちはネクタイ一つの傷か。やってらんねーぜ」

「お前もそう言うなって、ちゃんとご褒美があって良かったじゃねえか。俺に槍をかすらせた事実により、これでお前は特待生で国営冒険者アカデミーに入学出来そうだ。後の書類申請はマリーの方で宜しく。これ以上は俺残業してダナン課長に怒られたくないから、お先ね」

「はいはい、エナミ君お疲れ様。後はこっちの仕事だから、やっとくわ」

「ありがとう。んじゃ、龍槍のヤミール君、またな。今度はちゃんと自分から冒険者相談窓口に来いよ」


 そう言い残してエナミは木の短剣を元々立てかけられてあった入り口横の壁に戻し、修練場を後にする。


 ドームの中はまだ整わないヤミールの浅い呼吸音とマリーのタブレットを叩く音だけがしばらくの間、響いていた。呼吸が落ち着いてからヤミールは尋ねる。


「アイツが言ってた特待生ってどういう意味なんだ?」

「…ヤミール様はプラチナランク相当のダンジョン攻略課職員に対して、彼が防御を要する攻撃をする事が出来ましたので、国営冒険者アカデミーの特待生の対象となりました」


 マリーはタブレットを脇に挟み、ヤミールに3本指を立てる。


「特待生には特典として以下の3つがあげられます。まず先程例にあげた3つのダンジョンなら十階、シルバーランクからの攻略開始が可能になります。また研修期間もスキルの獲得状況次第ですが、アカデミーが認めた基準を超える場合は通常の一年ではなく、半年間で終了する事が出来ます。最後に収入に関しても通常の冒険者候補とは違い、ブロンズランク相当の収入を国営冒険者アカデミーが保証します」

「それをアイツは趣味だって言ったのか…」

「気分屋な彼の気持ちなのではっきりとは言えませんが、ヤミール様のプレッシャーとならないように配慮されたんだと思います。…エナミ君はそういう人ですから」


 マリーはエナミの出ていった扉を、少しのあいだ見つめていた。









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 気にいらなかったら、貴重な時間を使わせて申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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