第三十一話 マリー・カルフロール
マリーは冒険者求人課の受付で、申請書類に奥の部屋でキタリの測定した身体測定等の記録を記載した後、ヤミールにそれを持たせて送り出した。
やはりエナミがスカウトしてくる人間は将来有望だなと、身体測定と能力確認のデータを確認する。身体は健康そのもので、頑強。能力も「武器強化」と所有する武器の耐久度と威力をあげるもので、ダンジョン攻略や戦闘に対しては申し分ないものだった。
年齢が23才と冒険者候補生の平均入学年齢20才を3つ程超えてるのが多少気になるが、冒険者としてのピークは40代中盤になるので、二十年くらいゴールドランクで活躍してくれれば、なんの問題もない。
エナミのスカウトなので、うまく能力と国営冒険者アカデミーで獲得するスキルが噛み合ってプラチナランクまで手が届いてもらったら、もはや何も言うまい。
その為、マリーにはしばらくした後でエナミが冒険者求人課の受付にヤミールを連れてやってきた時もその理由がハッキリと分かったため、特段の驚きは無かった。
「やあ、マリーさっきは電話で話したけど、会うのは久しぶりだね。以前と変わらずお淑やかだね。元気にしてた?」
「はいはい、お久しぶり。そうね、2年半ぶりくらいかしら。こっちは元気よ。さっきの電話はびっくりしたわ。レラさんだっけ、ここの所は、新人指導で忙しかったんでしょ?今日は何しに来たの?」
「つれないねぇ。そりゃあ、この冒険者求人課に俺が来たって事は用は一つしか無いんだから、分かってるでしょ?修練場を借りに来たんだよ」
「またなの?前の時とウチも課長替わってるんだから、そんなにいつまでも融通利くと思わないでよ」
「悪い悪い。でも俺が2年半ぶりに満を持して新しいプラチナランク候補者を見つけてきたって言ったら、そっちの課長も修練場くらい貸してくれると思わない?」
それを言えばウチの課長も間違いなく貸してくれるだろうとマリーは思った。何せ冒険者求人課は日々、優秀な冒険者候補を探しているのだ。ヤミールのような有力候補の気分を害する理由がない。
しかもエナミの以前スカウトした何人かのプラチナランクの人材のおかげで前任の課長が出世したのは事実であり、もっぱらの噂になっていた。マリーは腕を前で組み、顎を片手に載せながら敢えてため息をつく。
「もう、エナミ君のそういう所、組織の中の人には嫌われてるんじゃないかな?」
「そうかなぁ。ちゃんと仕事はしてるし、他人の邪魔なんてしてないんだけどな。何が悪いんだろう?ちなみにマリーも俺を嫌ってるの?」
「そういう混ぜっ返す所はね。そうしたらウチの課長に確認してくるから、ちょっとここで待ってて。あっ、ヤミール様はお待ちになってる間、そこのソファーに座ってお待ちくださいね」
「あれ、俺は?」
冒険者求人課の課長に会いに受付の椅子から立ち上がり、奥のデスクに向かおうとしたマリーは、振り返ってにっこり笑う。
「ダンジョン管理事務局の職員なんだから、ちゃんと立ってお待ち下さいね。ストーリーさん」
「マリー、頼むから昔みたいな呼び方は止めてくれよ」
エナミは苦虫を潰したような顔で、その場に立ち、ヤミールはニヤつきながら受付のソファーに座った。マリーはエナミの声掛けを無視して、踵を返すと、奥の課長のデスクに向かいながら、初めて彼と出会った頃を思い出していた。
マリーがエナミと初めて会ったのは、まだお互いに王立アカデミーに入ったばかりの入学式の事だった。15年前の当時は12歳で世間の事など右も左も分からない、ただ夢と希望に溢れる少年少女でしか無かった。
五十音順では間違いなく隣に座らない席次になる筈だが、彼らは王立アカデミーのその代の首席と次席として、入学式を迎えていた為、隣同士で座っていた。
マリーにはカルフロール家の次女という、このアルミナダンジョン国では「始まりの七家」の一つとして名の知れた家の人間であった。その家中でもここ最近では一番優秀な才女として両親にも期待されていた彼女は、当然王立アカデミーの入学試験も自分が1番だと試験当日の手応えから感じており、合格発表の張り出しの日を非常に楽しみにしていたほどだった。
しかし結果は残酷にも満点に1点足りず、次席。一つ上の首席の所には満点のエナミ・ストーリーという名前が記されていた。三番手以降とは50点以上差をつけていた為、圧倒的な1番2番ではあったが、発表当日悔し涙で枕を濡らしたのは今では良い思い出だった。
その為、首席の席にだらしなく座っていたエナミが挨拶文を黙って読んで練習しているのをマリーとしては非常に面白くなく、ついちょっかいをかけてしまった。
「あなたがエナミ・ストーリーさん?私の事はご存知でして?」
「えっと、どちらさんかな、僕は会った事ある?」
「まぁ!首席の方は次席以下なんて目に入っていないのですね。それとも自分は満点だから、それ以下は今更相手にする事などないとでも?とても傲慢な振る舞い方ですね」
「いやぁ、たまたま採れた満点だからね。肩身が狭いよ。君が次席の子?何なら挨拶文を代わりに読んでくれないかな?どうもこういうのは苦手なんだ」
「なんですって!?あなた、馬鹿にするにもほどがありますわ!!」
「ごめんね、何だか怒らせたみたいだね。前から両親にも言われてたんだ。お前は一言多いって。でも僕からしたら、この王立アカデミーに入れただけでとても光栄な事なんだ。そして君みたいなかわいい子が隣の席に座っていたのも奇跡みたいなものだと思う。仲良くなりたいから、改めて自己紹介をするよ。僕の名前はエナミ・ストーリー、気軽にエナミって呼んでよ」
エナミは困った顔から何とか笑顔を取り繕うと、そっと右手を出し、マリーに握手を求めた。彼女としては自分が努力しても得られなかったものを簡単に取れたように見える彼の事が悔しくて、彼に対してわざと当たるように振る舞った影響で、自分自身が独り相撲をとってるようになってしまった事がよく分かっていた。
エナミはそんな自分に対して理不尽な怒りを見せるマリーを、この入学式という晴れの場で浮かないように、最大限の気遣いを見せてくれていると思い、冷静さを取り戻した彼女はその差し出された右手の先に軽く自分の右手の先を触れる。
「私の名前はマリー・カルフロールと言います。このアルミナダンジョン国で食品系の商家を営んでおります、カルフロール家の次女になります。以後お見知りおきを」
「えっ、カルフロール!?あの、もしかして「始まりの七家」のカルフロール家?」
「あら、当家をご存知でしたの。多少名が知られているみたいで嬉しい限りですわ」
「知られているも何も、それなら先に言ってくれても……」
エナミのとぼけていた顔が急に青ざめ、握手していた手が震えてるのが、マリーの方にも伝わる。彼女は恍けていた彼に一つやり返せた事で少し嬉しくなった。
「自分からおっしゃったんだから、仲良くして下さいね、ストーリーさん」
「えっと、分かったよ。マリーさん。ストーリーって家名は自分が何だかソワソワしちゃうんだ。エナミって呼び捨てで良いよ」
「あら、良い事を聞きましたわ。私はマリーと呼び捨てで構いません。それでは3年間宜しくて、ストーリーさん」
「…マリー、君っていい性格してるんだね」
二人の出会いを思い出してる間に、彼女は課長から冒険者求人課の奥の修練場の使用許可を取り、彼らの待つ受付に戻っていった。
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