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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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第二十六話 相談窓口の人は後輩とお昼を食べる

 エナミは何だか最後はしまらない会話をダナンとさせられた後も、担当冒険者の相談対応や、ミゲルへのレラの対応指導(何故かレラに泣かれて、ハンカチを渡してしまったが)、この先1か月で起こりうるトラブルを考えて対応策を練っていると、あっという間にお昼になっていた。


 お昼ご飯にレラを誘うか一瞬迷うが、迷ってる時点でなんだかなぁと思い直し、普通にいつもの地下食堂「来るもの拒まず」に彼女を誘い、二人でいつもの窓際の席に向かい合わせて座り、日替わり定食の煮込みハンバーグ定食を食べていた。


 エナミは少し猫舌ながらも、冷めるのは嫌な性分の為、口の中をヒリヒリさせながら完食してトレイをテーブルの脇にやり、満足げにお茶を飲んでいた。


 向かい側でレラが真面目な顔をしてプレートランチのキッシュを、ボロボロにならないようにフォークで寄せながら苦労して食べているのを見て、久しぶりに最初に彼女に会った時の事を思い出していた。


 約2年半前の、恒例の春のダンジョン管理事務局の人事異動発表後の初日、ダンジョン攻略課のデスクでダラダラとマイペースで事務作業してるエナミに、奥のデスクのダナンから声がかかった。


「エナミ君、ちょっといいかね」

「はい。少々お待ちを」


 エナミは頭の中で考えても特に注意を受ける心当たりの無いまま、ひとしきりマイペースで焦ること無く書類を整えた後、ダナンのデスクにダラダラと歩いて向かう。


 歩いて向かいながらデスクの方を見ると、ダナンのデスクの横に初々しく緊張したスーツ姿の、恐らくは自分より年下の女性が立っていた。


 身長は160cm程度で少し茶の入った髪を肩より少し長めに伸ばし、後ろに可愛らしいシュシュで一つに纏めた感じにして、ちょっと自信なさげに立つ姿は、まだまだが大人の女性と言うには隙があった。エナミがデスクの前に姿勢悪く立つと、ダナンが座ったまま彼女を紹介してくる。


「エナミ君、今日からウチに来たレラ・ランドール君だ。王立アカデミーからそのままダンジョン管理事務局に入ってきた、今年で5年目の子だ」

「レラ・ランドールです。今迄は資材部の第二資材課に4年ほどいました。エナミ先輩のお噂はかねがね聞いてます。これから宜しくお願いします!」


 やる気無くボーッと隣に立っているエナミに、レラは笑顔でハキハキとフルネームで挨拶し、しっかりと綺麗なお辞儀をする。彼は頭頂部の天使の輪が綺麗だなとどうでもいい感想を思いながら、彼女がゆっくりと顔を上げるのを待って、気軽な挨拶を返す。


「冒険者相談窓口10年目のエナミ・ストーリーです。宜しく。レラさん、何か分からない事があったら聞いてね」

「はい、エナミ先輩、名前はレラと呼び捨てで構いません。宜しくお願いします」


 二人が挨拶を交わしたのを確認してダナンがデスクから声をかけてくる。背中の阿修羅像のオーラは珍しく微笑んでいた。


「エナミ君、珍しく素晴らしい対応だ。もしかして察しの良い君の事だ、ここに呼ばれた理由を分かっていたかね?」

「いえ、まだ何にも分かってません」

「ならば、説明しよう。エナミ君を呼んだのは他でもない、君にこのレラ君の冒険者相談窓口の新人指導の仕事をお願いするためだ」

「はい?課長、なんておっしゃいました?俺の聞き間違いで無ければ、彼女の新人指導を俺にしろと聞こえましたが?」

「その通りだエナミ君。君の耳はちゃんと正常に働いているよ。レラ君は君ほどでは無いが、5年目でこの部署にやって来た優秀な人材だ。前の第二資材課の課長からも事務業務全般は問題ないだろうというお墨付きもいただいている。後はダンジョン攻略課の冒険者相談窓口業務の仕込みだけだ。君ならばそこだけなら、それほど難しくないだろう。宜しく頼むよ」


 ダナンの背中のオーラで出来た阿修羅像は微笑んでいたがその圧力を増し、気が付くとエナミの目の前にいる。エナミは背中に汗を感じるも、多少の抵抗をしようと試みる。


「課長、俺では新人指導なんて無理ではないですか?まだ…」

「何を言ってるんだね。君はここに10年いるんだぞ?他の者は長くとも4、5年で異動希望届けを出して他所に動いてしまって、ダンジョン攻略課の事なんて、十分に分かってないじゃないか?」

「はぁ、でも…」

「ちなみにメリダダンジョンの冒険者相談窓口の担当者は、今の所3人いるが、ミズキ君は去年来たばかりで、もう一人のラミー君は今年中に外交課への転属がほぼ決まりだ。どう考えても君しかいないんだから、適任だろう」


 ダナンはわざわざエナミに見えるように指を折り数えているが、エナミとしては目の前の阿修羅像が圧が強いまま微笑んでいる方が気になって、そちらを見れていなかった。エナミは一筋の頬を伝う汗とともにため息をつくのなんとか堪えて、頭を軽く一回だけ横に振ると、ダナンに頷き、了承の言葉を言う。


「分かりました、課長。不肖エナミ・ストーリー、微力ながらレラ・ランドールの新人指導のお役目、拝命いたしました」

「うむ、宜しく頼むよ」

「これから宜しくお願いしますね。エナミ先輩!!」

「あぁ、1人前になる迄は面倒見るよ」


 その時握手したレラの眩しい笑顔と、阿修羅像の微笑みのコントラストを強烈にエナミは思い出しており、随分とこいつも成長したもんだと、ズズッーとお茶を啜りながら、ぼんやりとキッシュに苦戦するレラを眺めていた。


「先輩ぃ、何か思い出してましたぁ?」

「今日のお前は本当に鋭いな。レラと会った初日を思い出していたんだ。随分と変わったもんだとね」

「えぇ、そんなに変わりましたぁ?自分ではよく分からないですけどぉ」

「ああ、まずは全く口調が違うな。髪もだいぶ切ったしな」

「この口調は先輩が言ったからじゃないですかぁ。それにぃ、今どき髪型の事言うとセクハラになりますよぉ」


 レラはエナミに初めて会った時の半分程度のマッシュボブ位の長さの髪を見せつけるように顔を軽く横に振った後で、下からジト目で彼を注意してくる。


「嫌な世の中になったもんだよ。後輩に髪の長さの変化を一つ話だけで、ケチをつけられるなんて。なんでも過剰に反応して、言葉を狩って、そのうちコミュニケーションがみんな下手くそに成り下がるんだろうな」

「でもぉ、そうしたらぁ、ますます私達みたいな人と人との仲介役をやるプロのお仕事は重宝されますねぇ!!」

「お前、随分と大きく出たな。まるで自分がそのプロの代表みたいだな。さっきは窓口でその仲介役がちゃんと出来るのか自信なさげに泣いてた気がするけど」

「本当にぃ、先輩のぉ、そういう所は嫌いな所ですぅ!!」


 レラが顔を真っ赤にして怒ると、せっかく纏まってたキッシュがポロポロとフォークの隙間からこぼれる。エナミは笑いながら、慌ててまたキッシュをフォークで寄せ集めるレラを眺めて、こいつとの時間も自分にとって大事な一時になったなと感じていた。




 





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