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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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第二十四話 レラ 2

 ひとしきり次の階層であるメリダダンジョン八階の資料を確認した後、ミゲルは「レラさん、次は一週間後に。九階を攻略する時に相談をお願いします」と笑顔を見せてダンジョン攻略課の出入口から去っていった。


 レラはミゲルを見送った後、相談窓口の机の手元を見る。そこには先程まで説明していたマニュアル「大剣を何も考えずにぶんぶん振り回して戦う、ただの脳筋への適切なアドバイス集」が置いてあった。


 本当に失礼な言い方だが、ミゲルでも分かるように、アニメ調のデフォルメされたイラストをふんだんに使い、言葉も分かりやすく平仮名をなるべく使うように書かれており、十階までの道のりはこのまま行けば、もはや到達したも同然だった。


 だからこそレラは感じてしまう。これだけの資料があったら、別に冒険相談窓口の担当として、私のサポートじゃなくても後一ヶ月でミゲルは十層にたどり着いてしまうだろうと。


 レラはかつて冒険者相談窓口に着任して半年で、危うく冒険者を身元不明者にしそうになった。その時もちょうど、このブロンズランクからシルバーランクに上がりかけの冒険者であり、十一層でいきなり転移トラップに引っかかるという洗礼を浴びたのだ。


 その時も結局、自分の指導担当としてエナミが作っていた「あれっ?と思ったら、要注意!!シルバーランク転移先マップ一覧」と彼からの素早い保安部第二保安課への申請手続きの指示と、その後の第二保安課の探索で、約一日で直ぐに発見され事なきを得た。


 それでもその冒険者は発見後一ヶ月近くはメリダダンジョンに潜ることなく、ダンジョン管理事務局が設置しているカウンセリングルームにて、メンタルケアを行った後に、漸く復帰していた。


 何がゴールドランク間近の冒険者を二人抱える優秀な冒険者相談窓口なもんかと、かつての失敗を思い出していたレラは項垂れてしまう。今だに全てエナミ先輩のサポートが無ければ一つも上手くできないじゃないかと、自暴自棄になりそうな自分を落ち着かせるように、目を閉じ深呼吸をして十秒程、間を取る。


 目を開け、落ち着いた自分を理解し、切り替えるようにまずは目の前にある「脳筋への適切なアドバイス集」をしまおうと散らばった紙を纏め、窓口のデスクの足元にある自分専用の収納スペースにマニュアルを仕舞う。


 そしてその収納スペースから以前エナミにもらった「これで安心安全アドバイスが出来る冒険者相談窓口の手引き」を取り出すと、先程の対応に間違いが無いか確認していく。


 手引きをチェックして漏れが無い事を一つ一つ確認して、ようやく自分の対応に納得できると、それを待ってたかのように、いつの間にか隣の窓口に戻って、別の冒険者の対応をしていたエナミがそれを切り上げ、こちらに声をかけてくる。


「レラ、少しいいか?このままでいいから、話があるんだけど」

「はいぃ、先輩ぃ。次の冒険者の方が来るまで後30分くらいはありますからぁ」

「そうか、ならそのままで良いから聞いてくれ。ミゲルの件はあの対応でバッチリだ。流石レラ、よく俺の考えが分かったな。成長したと思うぞ。ここまでの2年半とちょっとは決して無駄じゃなかったと俺は思ったよ。ただな、今回は十階までではなく、十一階クリアまでアイツを導いてやれ」

「えぇ、それってぇ……」

「そうだ、ミゲルだけでなく、お前自身の挑戦だ。担当冒険者ミゲルの一週間で約一階クリアと、前にレラが失敗した転移トラップへの対応策を、ちゃんとミス無くスムーズに案内する事が出来るかをダナン課長はご要望されてるんだと」

「私も試されてるんですかぁ?」


 レラはエナミをじっと見つめる。ここまで自分が2年と約半年で培ってきたものはエナミにつけてもらった仮初めの自信で、言わばハリボテのようなものだと思っていた。


 ただレラが見ていた目線の先のエナミは、ボサボサな前髪越しに優しい眼差しで彼女を見つめ返すと、柔らかく口角を上げ、少し微笑んでは楽しげな声で呟く。


「馬鹿だな、お前は俺の自慢の後輩だろ?」

「自慢の?」

「そうだ、お前は俺がここに来て12年の間で、初めて1からちゃんと指導した唯一の後輩だ。その厳しい指導に耐え、お前自身の努力のおかげで、ここに着任して2年と約半年で、ゴールドランクまで後二階の冒険者を二人担当し、シルバーランク担当も他に九人いる才能豊かで、前途有望な冒険者相談窓口になったんだろ。ミゲルでちょうどシルバーランクを十人にゴールドランクを二人にして、次の異動届けで何処でも好きな所に昇進して行けよ。そして地下の食堂で俺に飯を奢ってくれ」

「エナミ先輩…」


 レラは半ば突き放すような、冗談のようなエナミの言い方に、逆に彼の不器用な優しさを感じ、うっすらと瞼に涙を溜めてエナミを見ていた。エナミは困ったように苦笑しながら頭をかくと話を続ける。


「ミゲルとさっき揉めてたジュリアーナもこれからメリダダンジョン九階に行くタイミングだ。このままだと、間違いなく彼女が先に十階に行き、シルバーランクに上がる。ただし神官の彼女は慎重で、その先のオークの対応を出来るようになるまでは修行と攻略への情報収納に励むだろう」

「はい」

「そのタイミングで、ミゲルに彼女の階層を抜くチャンスが出来る。アルミナダンジョン国では、基本的には同一ダンジョンで同じタイミングで同一階を攻略するのは御法度だからな。彼女が十一階も攻略しようとすると、ミゲルの十一階攻略は一ヶ月では間に合わなくなる恐れがある」

「じゃあ」

「そうだ、そのタイミングでミゲルがオークを倒せるようにこの三週間でしっかりと準備しろ。そして俺の担当冒険者のスピードを超えてみせるんだ」

「…そんな、先輩。私には自信が」

「おいおい、涙流して、化粧も落ちて、さっきから口調まで直ってるぞ?相談窓口対応してる時以外は、鼻にかけた感じでわざと甘えた言い方で、周りを誤解させるんだ、わざとバカッぽくギャップを作って、相手の対応の違いを冷静に見極める目を養うんだと、最初か2回目の指導の時に言っただろう?」

「…はいぃ、先輩ぃ、本気なんですかぁ」

「その調子だ。あぁ、それと恐らく、これが俺からお前にしてやれる最後の指導課題だろうからな、ちゃんと頑張ってクリアしろよ」


 エナミは優しく笑いながら、同じように笑ってはいるものの、溢れる涙がつたう彼女の頬を、ポケットから取り出したハンカチで化粧が落ちないように繊細に拭いてやり、レラにそのままハンカチを渡して、隣の窓口へと戻った。


 レラに手渡されたエナミのハンカチからは、うっすらとベルガモットの香りがした。








 何度も書いてますが、あまりラブコメはやるつもりはありません。


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