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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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第二十三話 レラ 1

「ミゲル様…」


 ミゲルが隣の窓口での大立ち回りの後、こちらに戻ってきて、椅子に座って1時間近くになっていた。しかし彼は目の前の冒険者廃業届けの用紙を眺めているだけで、こちらの声かけには全く反応はしなかった。

 

 先程の騒動の後、隣の相談窓口で九階の攻略相談に戻っていたジュリアーナは、エナミにやる気を見せつつ、隣のミゲルの事を何事も無かったかの様に、全く気にする素振りも見せずに嬉しそうに帰っていった。


 エナミは彼女を見送った後、自ら窓口から一度離れて奥のデスクに向かい、今も一番奥のデスクの前でダナン課長の元で、阿修羅像のオーラと差し向かいながら真面目な顔で話している。


 レラとしてはミゲルのこの状況に対して、自分自身が招いた責任がある事を理解している為、現状の彼の冒険者を廃業しかねない状況に対して、救済になりうる対応を言葉が届いているかどうかは分からないミゲルに淡々と案内する。


「ミゲル様、今回のケースは冒険者相談窓口としては最大限の対応をするケースとなります。このルール違反は、ダンジョン管理事務局に対しての敵対行為と見なされる為、先程隣の窓口のエナミが説明したように、基本は冒険者ランクの自動降格と1年間の冒険者相談窓口の利用停止となります。ブロンズランクの冒険者に関してはランクの降格が出来ない為、廃業となります」

「廃業…」

「通常、冒険者の廃業はブロンズランクの段階では起こる事が少ないのですが、大きな怪我での冒険者としての復帰困難の場合や、冒険者自身のメンタル、体調の不調により、再起する状況にならない場合、または年齢により継続が困難な場合はこちらの廃業届けを出していただく事が通例となります」

「俺は…」

「通常と申し上げたのは、今回のような罰則による廃業もあると言う事ですね。罰則による廃業は、今回のようなダンジョン管理事務局に対しての規則違反とアルミナダンジョン国に対しての犯罪行為があげられます。そちらは殺人などの重犯罪が対象となります」

「俺は…」


 レラはただただ事実を積み重ね、冷静に感情を乗せずに言葉を紡ぎ、説明していく。頭を抱えだすミゲル。彼はいきなり突きつけられた現実の重さに翻弄され押し潰されそうになっていた。


「ただし、ここで追加で説明いたしますが、今回のダンジョン管理事務局に対しての規則違反には例外事由があります。今回はそれについても説明させていただきますので、ミゲル様、ちゃんと聞いて理解して自分の選択に対して責任ある行動をしてください」

「えっ、レラさん、それはどういう意味?」


 レラは表情を和らげ、いつも彼に見せるような仮初めとはいえ笑顔で話しかける。レラの笑顔と言葉に、頭を抱えて蹲っていたミゲルも段々と落ち着きを取り戻して、彼女の方を見る。


「今回ミゲル様の罰則に対しては、例外事由が2つあります。一つは冒険者としてミゲル様が十分な実績をあげる余地があるのをダンジョン管理事務局に示す事。もう一つは」

「もう一つは?」

「担当窓口の対応の誤りをダンジョン管理事務局の監査部に認めさせる事です。しかしこれはお薦めしません」

「身内だから、どんな奴でも守るっていうんですか?」

「いえ、そうではありません。実質的に不可能だからです」

「不可能?あんな悪い噂が多い優男を糾弾するのがかい?そっちの方がよっぽど速く済みそうだけど」


 ミゲルは勢いを少し取り戻したように、彼女に噛みつく。レラは首を振り、ダンジョン攻略課の部屋の上部にあるカメラを指差す。


「ミゲル様がどのような噂を元にそのような事を言ってるのか分かりませんが、あくまでも今回の窓口対応はダンジョン攻略課の監視カメラにも録画されています。勿論これは手続き上確認しますので、一方的にどちらかの立場で監査部が判断する事はありえません。ただし、記録されているものを元に判断しますので、今回の件はどう考えても一方的に隣の窓口に行ったミゲル様に不利になります」

「じゃあ、どうすれば良いんだよ!!」

「落ち着いてください、ミゲル様。これからそれを分かりやすくご案内します」


 まだまだ落ち着いて判断できないミゲルは少しの事ですぐに神経質にパニックになり、つい激昂気味に発言するが、レラは慣れたように受け流しミゲルに語りかける。


「ミゲル様は現在、冒険者廃業届けを出すように促されてますが、それはブロンズランクだからです。この処分には執行期限が1ヶ月あります。なのでその間に十階まで突破し、シルバーランクに昇進してしまえば、ブロンズランク落ち、実質は九階までの階層突破者扱いになります」

「そうしたら俺が今八階を攻略しているから後1か月で三階層攻略すれば…」

「そうです。ミゲル様は冒険者を続けられます。私はそちらに力を入れる事をお薦めします。何故なら才能あるミゲル様なら、十分に達成出来る可能性があるからです」

「…分かったよ、そうと分かったらこうしちゃいられない。レラさん、後三階層分の攻略情報を教えてくれ」

「はい、こちらをどうぞ」


 ミゲルの目に力が戻り、いつもの自信に溢れた顔でレラに言う。レラは半分苦笑しながらも、以前エナミにもらったマニュアル「大剣を何も考えずにぶんぶん振り回して戦う、ただの脳筋への適切なアドバイス集」の十階までの部分をタイトルを隠してミゲルに見せる。


「これは…なんて分かりやすいんだ!!どうして、俺の為にここまで準備をしてくれてるんだ。やっぱりレラさんは俺のことを…」

「以前から申しておりましたが、過去のメリダダンジョンの担当がこういった資料は纏めております。ちなみにこちらを纏められたのは隣の窓口のエナミです」

「あ、あいつが…」

「はい、ちなみにこちらは大剣使い用の資料となりますが、彼は今までバラバラに個々人で作成されていたメリダダンジョン冒険者への各種資料をまとめ上げ、その膨大な資料を元に、各種攻略マニュアル作りに最も関わり、評価と実績を上げている冒険者窓口担当になります。その為、歴代でも彼よりこのメリダダンジョン攻略に詳しい人間はおりません」

「そんな奴に俺は噛みついたのか…」


 レラが誇らしげに本物の笑顔で言うその言葉に、ミゲルは自分がさっきからエナミに吐いていた言葉を思いながら、ただただ呆然と先程自分が賞賛していたマニュアルを眺めるしか出来なかった。









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