第二十一話 相談窓口の人は後輩を助ける 2
「先輩ぃ、何ですかぁ?」
「レラ、お前の現状でのミゲル様への対応で悪い点が2つある。分かるかい?」
「えっとぉ…、ちょっと分からないですぅ」
「一つはミゲル様に自分に隙があるように見せている点、もう一つがお前がミゲル様を自分よりも下に見ている点だ」
「えっ?」
二人が窓口から離れて、デスクとのスペースで小声で話している内容は誰にも聞こえないようになっていた。それはダナン課長が気を利かせて、彼の持つスキルで周囲には聞こえないように結界を張ったからだ。
結界を張る事はいつもの事なのでダンジョン攻略課のデスクの職員達には、あぁ、またエナミがレラに新人指導してるんだなと分かるが、相談窓口にいるミゲルにはまるでエナミが自分の立場を利用して、レラを虐めているのをわざわざ自分に見せつけているかのように見えた。
「でもぉ、先輩はずっと隣にいて分かってると思うんですけどぉ、私は冒険者相談窓口のプロとしてミゲルさんに接してますぅ。ただどうにもこうにもあの人のプライベートには全く興味が無いのを分かってもらえないんですぅ。どうやったらミゲルさんにその気が無いのが分かってもらえますかぁ?」
「はっきりその気が無い事を伝えるのも手だけど、ここまでくるとがミゲル様も逆上しかねない。まずは彼の事を対等に見て、ちゃんとミゲル様の事をミゲル様と呼びなよ。彼はあくまでも我々のお客様だよ。さん付けがレラとの距離を近づけていると誤解させている面は否めないし。お前が彼に必要以上に興味が無く、プロとして適切な距離を取るなら、譲れない一線をちゃんと示す事が最も大事だからね」
レラにはこの2年半で普段は担当冒険者への態度も悪いエナミが、彼女の立場をちゃんと分かってアドバイスを言ってくれてるのが身に染みている為、すんなりと言葉が入ってきた。
「はいぃ、まずはやってみますぅ」
「レラなら出来るからやってみな。駄目だったらフォローするから」
「気楽に頑張りますぅ」
レラは笑顔で頷くと、気持ちを切り替えてミゲルの元に向う。エナミはその元気な後ろ姿を一瞥すると、自分の席の方にゆっくりと向かっていく。
自分の席に戻ったレラはそのまま窓口対応を再開しようとミゲルに声をかけるが、彼は硬い顔のまま、ゆっくり席に戻るエナミを睨みつけながら話をする。
「ミゲル様、お待たせしました。では八階の攻略についてこちらから…」
「レラさん、あいつになんか酷い事言われたんだろ」
「はい?どうされましたか?アイツとは?」
「あの隣の窓口の、ほら何とかの物語ってみんなに言われてる奴。あの男が君を虐めてるんだろ。分かってるよ、さっきも本当は嫌味を言われたんだろ。あんまり担当の冒険者と距離を近づけて仲良くならないようにとか、余計なお世話を」
ミゲルはエナミが隣の相談窓口に戻るのをじっと見たまま、小声でレラに話しかける。レラはこの男の注意力がこういう時だけしか向かないのが、今一歩ダンジョン攻略が捗らない原因だろうと考えながら、話を戻そうとする。
「いえ、そのような事はありません。エナミ先輩からは適切な指導をいただいてます。今回もミゲル様のメリダダンジョン攻略についてスムーズに行くようにアドバイスをいただいたのです」
「分かってるって、そんな事ないって事は。あの男はどうせ君の頑張りや手柄が妬ましくてグチグチ難癖つけてただけなんだ。今までも我慢していたけど、もう許せない。ここは僕に任せて。ガツンと言ってやるから!!」
「ミゲル様!!」
レラが手を伸ばし、止めようとするのも構わずに、嫉妬に燃えたミゲルは立ち上がり、ようやく固い木製の椅子に座ったエナミを確認してから、隣の相談窓口で次のメリダダンジョンフロアの資料の確認に励むジュリアーナに声をかける。
「すまないね、そこのお嬢さん。君の担当窓口に話があるんだけど。ちょっと席を外してもらえないかな」
「はっ?なんの御用ですか?まだこちらもダンジョン攻略への相談の用が済んでないのですが。用件をおっしゃっていただいても?」
「いや何、君の担当窓口のそこの男が、俺の担当にちょっかいかけてて迷惑してるんだ。それについて僕が指導をしないとねって」
「あなた、自分が何を言ってるのか、分かってるのかしら?エナミさんがそんなちょっかいなんてかける訳ないじゃないですか。彼は彼女の指導役なんだから、お話をするのは当然でしょ?」
「いや、だからあいつはその立場を利用して彼女にちょっかいをかけてるんだって、君にも分かるだろう?」
「いいえ、一向に理解できませんが。それにあなたは冒険者相談窓口のルールを知っていらして、そんな事おっしゃってるの?」
「窓口のルール?そんな事より、君は何で分からないんだよ!!」
「まぁ、呆れた?!こんな冒険者なら当たり前のルールも知らずに冒険者を名乗るなんて、なんて人なの!!」
「何を!!」
窓口の向こうで揉める二人を眺めて、眉間に皺を寄せ、ため息をつきそうになるのを堪え、エナミは解決の道を探る。自分自身が厄介の種を蒔いたかもしれないが、流石にミゲルの独りよがりな正義を振り回した振る舞いは、この段階で止める必要があると考えたのだ。
「ミゲル様、宜しいですか?」
「なんだ、何とかの物語?陰湿な貴様がレラさんにどうでもいい事にケチをつけて、しょうもない事を吹き込んで、彼女をイジメてるのは分かってるんだぞ!!」
「まずは私の名はエナミ・ストーリー。隣の窓口にいるレラの指導係を務めております。ミゲル様、以後お見知りおきを。あぁ、ヒメネス様、せっかくのメリダダンジョンの資料が床に落ちてしまってます。貴重なものなので、拾っていただいても良いですか?」
「「うっ…」」
エナミに丁寧に名刺を出された事で、一息つかざるを得なくなるミゲル。ジュリアーナも興奮していた自分を恥じるように資料を拾い、席に戻る。そんな二人を見て、エナミはすかさずミゲルに話を続ける。
「さてミゲル様、先程ヒメネス様からもお話がありましたが、どの様な事であれ、この冒険者相談窓口では最低限、守らなくてはならないルールが1つある事をご存知ですか?」
そう告げるエナミの冷たい視線と声に、頭に血が上っていた筈のミゲルは瞬時に冷静さを取り戻した。彼にはこの場は本当によく考えて言葉を発する必要があると無理矢理にでも感じさせられていたのだ。
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