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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第二十六話 グレン・オッペンハイムは逃げられない 1

 メリダダンジョンで予期せずに出会ってしまった、レラ・ランドールの逆鱗に触れたグレン・オッペンハイムはダンジョン管理事務局に一目散に戻り、査問委員会の上司への報告もそこそこに、すぐにそのまま隣接する王立アカデミーの教頭室へと向かった。


 元々このエナミへの査問の件は非常に制約が多くあり、その大きな制約の一つがレラ・ランドールとサーヤ・ブルックスには決してエナミ・ストーリーが査問を受けている事を知られてはならないというものだった。


 今回は最早査問が終わった後の為に、この制約はある意味でノーカウントかもしれないが、自分達査問委員会がエナミに対して非常に強迫的に対応しているのを、レラに目の前で見られてしまった事がどの様な影響を今回の件に与えるのか分からない彼としては確認をするために、イシュタルの下へと急いだ。


 オッペンハイムは最早慣れてしまった王立アカデミーの教頭室に着き、ドアを慎重に2回ノックする。しかし中からの反応は無く、誰かが動く気配も無かった。


 オッペンハイムはこの場にいないイシュタルに軽く舌打ちをしそうになりながらも王立アカデミーでの古代文字・古代魔法の授業中かとも考えて、教室に行くか、修練場に行くか迷いながらその場で振り返る。


 しかしそこには、自分の待ち人では無く、分かりやすい悪夢が段々とやってこようとしていた。


「貴方は……」

「おや、会った事がありましたっけ?人事部査問委員会所属のグレン・オッペンハイムさんで宜しかったでしょうか?」

「……はい、ジョージ・タナカ保安部部長」

「そうですか、人違いじゃなくて良かったです。こんな所で奇遇……って訳じゃないですよね」


 いつもの様にロマンスグレーの髪をキッチリと整えて、スーツとコロンが似合う優雅な姿勢で、きれいな廊下を革靴でリズム良く足音を立てながら、オッペンハイムに近づいてくるタナカはにこやかに挨拶してくる。


 ジョージ・タナカという人物は保安部部長としての有名さは元より、それ以前に人事部査問委員会に所属していた時期がある。本来であればこの様に内部の人間を裁くような立場になると人事部内での昇進が一番の選択肢だったが、彼は違った。


 タナカはその高潔な精神性と実直な行動力で、その時のダンジョン管理事務局の職員への不正に対しての苛烈な姿勢が一部の上層部にも及んでしまい、査問委員会内でも問題視されその上司達を懲戒免職へと追い込むと共に自分自身も査問委員会を出る事になった。


 本来であれば、この様な組織の中をかき回すような人間は爪弾きにされるものだが、タナカの場合はそもそもの高潔な精神性とダンジョン管理事務局への忠誠心が見られた為に人事部長が周りの反対を押し切り、第一保安課課長に抜擢し、今の彼の立ち位置を確立する礎となったのだ。


 そんな査問委員会内部でもタブー視されている人物を目の前にしてオッペンハイムが構えてしまうのはしょうがない事だろう。彼はいつも以上に大柄な身体を小さくしてタナカとの会話を続ける。


「奇遇では無いと?」

「はい、少なくとも私にはね。それでオッペンハイムさん?こちらに来られたって事はイシュタル教頭先生に用があったんですか?それとも「始まりの七家」のイシュタル・タランソワに用があったんですか?」

「……そんな事に違いがあるんですか?」

「まぁまぁオッペンハイムさん、そんな警戒なさらずに。そのリアクションで十分に分かりましたけど、あなたは今回の件ではあくまでも傀儡みたいなものですからね」


 オッペンハイムはタナカの穏やかさに会話のペースを乱されるも、あまりにもその発言内容の辛辣さと嗅覚の鋭さに顔が歪みそうになるのを必死に堪らえる。


「……タナカ部長、貴方こそあの人に何の用ですか?イシュタル様は所属がダンジョン管理事務局でも無く、ご自身の家でも外国に出ない限りは警護対象では無いんですよね?」

「その通りです。私がここに来たのは単純に「始まりの七家」のイシュタル・タランソワその人に用が有ったんですが、いらっしゃらないならまた後日って話になりますね。出直して来ますよ」


 タナカはそう言って来た道へと振り返ると

再び足音をコツコツと軽快に立てながら去っていく。そして、オッペンハイムが警戒を解こうとしたその瞬間に振り返る。


「あっ、そうそう。オッペンハイムさんに一言言っておかないといけないんだった」

「何でしょう?」

「これ以上、エナミ・ストーリーに踏み込まないほうが身のためですよ。彼はあなた方査問委員会には荷が重すぎる。今回の件で十分に思い知らされたんでは?」

「……ご忠告感謝します」

「いえいえ、老婆心と言うより我が身可愛さですから」

「どういう意味ですか?」

「ちょっと喋り過ぎましたかね。もしあなたがイシュタルさんに会ったら、彼に私が用が有るみたいだったとお伝え下さいね」


 そう言い残し、タナカは振り返ると手を振り去っていく。そんな査問委員会のタブーの背中を見つめるオッペンハイムには不吉さしか無く、背中にはじっとりと冷や汗が流れていた。










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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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