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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第一章 相談窓口は一言多い
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第十六話 相談窓口の後輩は肩身を狭くする。

 何故かスラム街の近くの安い居酒屋で偉い人達に絡まれるという災難にあった翌日からしばらくの間、エナミはダンジョン攻略課の定例会議と研修資料の作成、冒険者相談窓口の事務作業の為にデスクに張り付いていた。


 勿論その間には公務員らしく、しっかりと休み時間も消化するが、キッチリと仕事を勤務時間通りに終わらせて「お疲れ様〜」と片手を上げて定時で帰る彼の姿を同僚達は半分妬み、半分嘲笑で見送っていた。


「末成り君はまた定時あがりか。本当に仕事やる気あるのかね?」

「冒険者相談窓口に長くいても上に昇進出来ないんだから、この仕事続けてるのにもうモチベーション無いんですよ、きっと。そもそも本人に昇進する気自体ないんじゃないですか?」

「ダナン課長は最低限の仕事しかさせないようにしてるみたいだし、上は飼い殺しにするつもりかな?」

「そんなんだったら、僕らのモチベーションが下がるから天下の冒険者相談窓口なんかには置かずに、よそに早く異動させて欲しいですよね〜」

「そうは言っても王立アカデミー卒の15才で直ぐにここだからな。当時選んだ人事部長も本人のプライドから、よその部署にはおいそれと動かしにくいんだろうよ」

「馬鹿、その方は今のダンジョン管理事務局の参事だぞ、気をつけろ。何処かで聞かれてて、噂だけでダンジョン開発研究所の閑職に飛ばされても文句言えないぞ!!」


 ダナン課長も会議で席を外していたので、エナミへの誹謗中傷を話し続ける彼らに注意出来る役職の者がおらず、同僚達は残業でデスクに向かいながらも、定時で早々に帰った彼に言いたい放題である。この日はレラもデスクでの事務作業を残業でしていた為、エナミへの悪口に気持ちがモヤモヤしながらも肩身が狭い思いをしていた。


 レラの気持ちが彼ら同僚達に共感出来ずに落ち着かないのは、彼らが当たり前のようにエナミについて言ってる内容が、新人指導してもらっている彼女には的外れで全くピンと来なかったからだ。特に何故あんなにも実績を積み上げているエナミに対して、全く実績が及ばない彼らが何故腐せるのか、理解に苦しんだ。

 

 彼女がこの部署に転属したこの2年半と少しで分かった事は、他の相談窓口担当者は受け持ち冒険者が一人でも三十階のゴールドランクまで到達したら、大喜びで周りにそれを言いふらし、いつもは強面のダナン課長からも笑顔で握手してもらい、次の人事異動の際に課長補佐として希望部署に昇進していく、というパターンしかないという事だ。

 

 サーヤのように4年という期間でプラチナランクまで上がり、今では五十階、もしかしたらその先の六十階のオリハルコンランクを目指しているケースの窓口担当者など他に見た事も無いと言う点で、エナミより優れた冒険者相談窓口が現時点のこの部署には居ないのは明らかだった。


「相手にしちゃ駄目よ、レラ」

「えっ?」

「彼らも本心ではエナミ君には敵わないって分かってるけど、そんな現実から目を逸らしたいのよ。エナミ君はとても優れているというより、この中では明らかに異質だから。それでも張り合う方が馬鹿らしいって考えるにはプライトが邪魔してるんでしょ」


 隣のデスクで事務作業している、自分より1年早く転属してきていた、メガネ美人のメリダダンジョン担当4年目のミズキが作業の手を止めないまま、レラに声をかけてくる。


 彼女は25才でこの部署に来ており、アカデミーから直接15才で冒険者相談窓口についた当時23才の、年下とは言え既にプラチナランクの冒険者を育成していたエナミとゴタゴタする気はなく、自身もそこそこのポストアップが出来ればと考えていた為、冷静に周囲を観察していた。そして自身の担当冒険者もつい先日メリダダンジョンの三十階を攻略して、ゴールドランクに昇格した。


「……ミズキさんは次で異動ですよねぇ」

「そうよ、ここみたいに変なプライドの高い人達がいない、冒険者からの素材を取り扱うだけの穏やかに過ごせるダンジョン第一資材課の課長補佐に希望を出して、他に希望を出したライバルがいないからほとんど決まりでしょうね。3年もしたら課長でしょうし」

「おめでとうございますぅ」

「それは皮肉?」

「えっ」

「うーん、レラの指導担当がエナミ君だからそういう視点が抜けてるのはしょうがないかな」

「どういう事ですかぁ?」


 レラは自分よりもエナミが馬鹿にされたようにミズキの発言を受け取り、少し声を硬くし気色ばむ。ミズキはそんな彼女の言葉を苦笑いしながら左手の人差し指を顎の側にやりながら受け流すが、軽く謝罪する。


「私にはあなたにその気が無いのは分かってるけど…、レラはもうすぐゴールドランクの冒険者を二人担当してるでしょ?」

「はい、お二人とも優秀ですからぁ」

「他のダンジョンの相談窓口担当には気を付けないと勘繰られるわよ。この子、そんなものの言い方で私を馬鹿にしてるのかって」

「そんな気なんて全くぅ…」

「エナミ君を普段から横で見てると分からないと思うけれど、ここは本来そういう部署なの。王立アカデミー卒のトップエリート達が駆け引きをして相手を蹴落とす事が正義の職場よ」

「…私はそんなつもりで勤めてないですぅ」

「分かってるわ。その素直さがあなたの一番の魅力だもの。そういうレラだからエナミ君が指導担当で上手くいくようになってるの。ダナン課長は優秀な上司よ、人の適性をよく分かってるから。この冒険者相談窓口の成績自体もダナン課長になってから、前任から上がってるはずよ」

「それにエナミ先輩は自分から異動する気は無いってぇ」

「これ位は分かってると思うけど、本来組織は彼がどういう意向かは関係無いのよ。ただこの12年でメリダダンジョンの攻略が著しく進んだのは明らかで、且つ彼を選んだ当時の人事部長がそれに後押しされたように昇進したとすれば、後は誰がどう見てもエナミ君にはあまり選択肢が無いわよ」


 レラにはエナミのメリダダンジョン攻略に対しての功績という所はよく分かっていた。この部署に12年もいて、他より探索が進んで居なかったメリダダンジョンを八十階層を超えて、更新し続ける状況に関わっていない訳が無いと。


 それにメリダダンジョンの冒険者の被害を減らし、上位ランクの冒険者の層も厚くしているのは、彼の冒険者相談窓口マニュアル「ダンジョンから帰ってきたら、また必ず行ける!!決定版」を参考に、適切なアドバイスを送れるようになった他の冒険者相談窓口であるミズキのような担当者達の功績も大きいと。


「あなたはまだ知らないと思うけど、エナミ君は定例会議や研修の後に各部署の部長達とご飯言ってるのよ。何処まで断り続けられるものかしら。もしかしたら彼が何処かに異動する時は、私の上司になってるかもね」


 ミズキは苦笑いしながら、作業のし終わった書類を纏めてデスクにしまい、ヒールの音を響かせながら帰っていった。








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