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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第二十二話 エナミは約束を守る 4

 四十階のフロアボスであるバジリスクの前に一人立つレラは初めてプラチナランク冒険者への壁として有名なモンスターに対峙したとは思えない程に落ち着いており、集中もしていた。


 ついさっきダンジョン攻略課にいた時の冒険者相談窓口の隣の席でエナミがサーヤに説明していた事を思い出していたくらいなので最早バジリスクの実際の姿を確認して、エナミの冒険者相談窓口での説明と資料が詳細かつ正確だった事に感動する位の心理状態だった。


 一方でレラにそんな感動を与えていたとはつゆとも知らないエナミはこのバジリスクがいるフロアにはおらず、一つ手前のフロアでレラの行動を逐一観察していた。


 普通の冒険者による五大ダンジョン攻略時は一人一階層しか攻略出来ないが、今回はこの階層を既に攻略していたエナミが同行するというダンジョン管理事務局の職員でも限られた人間しか知らない抜け道を使う事で、二人ともダンジョンから強制的に追い出される事無く、存在出来ていた。


 建国して暫くしてから最初にこの五大ダンジョン攻略の抜け道を発見した者は、そこに五大ダンジョン特有の意思の様なものを感じていたが、現在でもこの抜け道が使えるという情報を知っている人間は非常に限られており、ダンジョン管理事務局の人間でも普段からダンジョンブレイク対策で駆り出されている、エナミやミヤなどの現役でダンジョンに潜っている者以外は部長クラスでも知らない人間が多いくらいだった。


 つまりは先程の駐在所にいたダンジョン管理課の人間でも知らない事である為、エナミ達が二人でメリダダンジョンにやって来て入場許可を取っても、あくまでも別々の階層に目的があって、一緒にやって来ていると理解していた。


 その為、駐在所の外で待っているオッペンハイムにもその様に駐在所の職員は説明しており、オッペンハイム自身もそういう理解で待ち構えていた。これが後に大問題になるのだが、そこは閑話休題。


 話をメリダダンジョンの四十階に戻すと、この階層のフロアボスのバジリスクは相手の攻撃を必ず受けてから動き出す。これはサーヤが攻略しようとしていた際に、前もってエナミが作成したメリダダンジョン攻略マニュアルにも掲載されており、バジリスクの攻略ページを見るとその見出しに「先手必勝!!二撃は使うな!!」と書かれていた。


 実際サーヤには「春雷」の二つ名の通りに強力なスキルである「神々の怒り」が使えた為に二撃は必要無く、準備を整えてこのスキル一撃で倒していた。


 しかし、今回フロアボスを攻略しようとしているレラにはバジリスクを一撃で倒せる程のスキルは無かった。バジリスクは一撃を喰らい生き残ると、反射的に石化魔法を使ってくるので単独で討伐をする冒険者としては面倒な状況になりやすかった。


 そこまでは冒険者相談窓口の担当の頃に、しっかりと理解している筈のレラが、どういうアプローチでバジリスクに一撃でやっつけようというのかエナミとしては興味深く観察していたのだ。


 しかし、レラはその様なエナミの期待とは全く違うアプローチでバジリスク討伐を考えていた。その為の準備としてのバジリスクへの初撃は誰が見ても一撃で倒せるだけの威力のある魔法でもスキルでも無かった。


 レラは王立アカデミーでも最初のうちに学習する単純な魔法を簡単に詠唱して放つ。


「クロスファイア」

「ほう?」


 バジリスクはエナミの攻略マニュアルの想定通りにちゃんと避けずに一発受けると、何のダメージも与えられる気配もなく、当然のように直ぐにレラに対して、石化魔法を反射的に放ってくる。


 レラはこれを待ってましたと言わんばかりに飛んでくる石化魔法に対処する。レラは初撃の魔法を撃った後に直ぐに自身の目の前に薄い結界のようなものを張っていた。


 エナミはこの結界にバジリスクの飛ばしてきた石化魔法が触れると反射され、フロアボス自身に当たり、徐々に石化していくのを眺めて一頻り感心していた。


「リフレクションか……。詰みかな?」


 レラはバジリスクが完全に石化するのを観察してから、自身の武器である僧杖からスキルを繰り出す。


「三連撃」


 レラの十分に修練されたそのスキルが当たると、石化したバジリスクは頭を残して砕け散っていった。元々発動速度に特化した石化魔法による攻撃が脅威としてあるだけで、その身体の強度や攻撃の強さには特筆すべき点が無いバジリスクは自身の魔法によりアッサリとやられてしまった。


 頭以外が砕けてしまったバジリスクはその命が尽きた事で石化魔法が解けてしまった様で、頭だけがゴロンとフロアに柔らかい音で転がった。その様子をレラは見て、それまでの緊張感がゆっくりと解けていくのを感じていた。


 そうして暫くの間、自身の呼吸だけが聞こえる場所でレラは充実感の中でやり過ごしていると、ゆっくりと拍手して近づいてくるエナミに気付いた。


「おめでとう、レラ。これでプラチナランクだな。いつでも部長クラスに昇進出来るぞ」

「エナミ先輩、ありがとうございます」

「それにしてもフロアボスの力を使う事を考えたのか……、その決断は中々冒険者には出来ないな」

「私にはサーヤさん達みたいな自信も能力も無いのは分かってましたから、こういう選択肢を取らざるを得なかったんです」

「その点はちゃんとダンジョン攻略課で冒険者相談窓口やってた意味があったな。冷静に自分の強みの判断が出来る様になったって事だからな。それじゃ、ちゃんと下に降りてから地上に戻るか」

「はい!!」


 二人はのんびりと話していたが、エナミがバジリスクの頭を自身の魔法「収納」でしまい、メリダダンジョンの四十階から四十一階へと降りていった。







 

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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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