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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第十六話 エナミは冷や汗をかく 2

 お昼休みも半ばを過ぎて、食事も一通り手を付け終わったエナミはゆっくりとお茶を飲みながら、楽しそうに会わなかった3ヶ月間の状況を話すレラを見ていた。


 彼女が第一保安課の人間として、今までしてこなかった日々の厳しいトレーニングを積んでいるのは、エナミの護衛についていたタナカ保安部部長からも聞いていたし、ライン地方のバカンス時でも、魔法のペンによるレラとのやり取りで知っていた。


 それでもこうして実際に会って話すレラの言葉の端々に自信を感じる事が出来たのは、エナミがのんびりとイーストケープでのバカンスを過ごしていたこの期間中に、余程自分を追い込んでそれが形になったんだろうとエナミは強く思った。


「それでどうだったんだ、自分の能力を上げて、五大ダンジョンの攻略でもしたのか?」

「はい、メリダダンジョンなら四十階まで行けました。フロアボスのバジリスクはまだ手を付けてないですけど、恐らく倒せると思います」

「そうか、そこまで……。もう、お前がろくに戦えないとか馬鹿に出来ないな。これでバジリスクの討伐が成されて、それがダンジョン管理事務局に認められて晴れて世間に周知されれば、お前の自衛能力も分からしめられるし、無事にそこまでいけば親父さんも安心だろう」

「はい、エナミ先輩にも安心して貰えるように頑張ってバジリスク倒します!!」


 個人の武力でいえば、五大ダンジョンの四十階到達はプラチナランク冒険者相当と言う分かりやすく人間を辞めてしまっている力を持つ者として、この中央大陸の中では誰にでも伝わるものだった。


 レラがメリダダンジョンの四十階攻略が広まれば、今までランドール家の息女として彼女の事をつけ狙っていた人物や組織もこれを知る事で、対応を変えざるを得なくなるのに想像は難くなかった。


 当然の事だが、彼女の父親であるグラハムランドール共和国大統領がこの事を知れば、最大限の喧伝を行い、レラの安全を担保していくだろう。


 それがどんな流れによって引き起こされたかをグラハムは知らなくとも、可愛い娘を人質としてアルミナダンジョン国に置いていったかいがあっただろうと、エナミは不思議な感覚で感じていた。


「それで、大統領には伝えたのかい?」

「いいえ、父はそういう私への干渉は極力したがらないから、こちらが伝えなければ表向きは知らないと言うと思います。だからこそちゃんとバジリスクを倒してから手紙を書こうと思ってます。まぁ、倒したらダンジョン管理事務局の広報部からインタビューも受けると思いますから、この中央大陸中に知れ渡りそうですけど」

「確かにな。抑止力としては最高に効果的だとは思うがな」

「まぁ、私の近況はそれくらいにして、エナミ先輩はいつサイテカ連合国から、こっちに戻って来たんですか?今日ダンジョン攻略課の仕事復帰って事は、もう少し前には戻って来てたんですよね?」


 レラからすれば当たり前の質問だが、エナミはどう答えようか逡巡する。ここの答え方一つでこの後の展開が大きく変わる事が想像できてしまったからだ。


 レラにはイシュタル・タランソワが配慮して今回の査問委員会の件を隠そうとしていた節があった為に、エナミが何に巻き込まれていたかを今だに知らなかった。


 当然エナミとレラの関係性を知っている周りの人間も、査問委員会の人間達もそういう対応をしていると知っていた為に、エナミのスパイ容疑については一切の情報を遮断していた。


 ダナン課長もエナミにアルミナダンジョン国に帰国直後にその旨伝えていた為、彼としてはこの場を上手くやる必要があった。ただし、嘘に嘘を重ねれば何処かで破綻する為、査問の話以外の真実を淡々と話していく。


「俺は一週間くらい前に帰ってきて、官舎で少し仕事をしてたんだ。急に向こうから帰ってきた影響があって、ちょっとダンジョン攻略課の受け入れがまだ調整出来てなかったんだよ。それに俺もバカンスで3ヶ月向こうにいた為かこっちの気候に身体が慣れなくて少し体調崩したからな」

「そうだったんですね……。今はもう、体調は大丈夫なんですか?」

「あぁ、平気だよ。だからダナン課長に相談して、今日からダンジョン攻略課に復帰したのさ。レラから見てもピンピンしてるだろ?お前に会わなかったし心配かけたくなかったから言わなかったけど、もう大丈夫さ」

「本当に良かったです。そうしたら明日からも前みたいにこうやってお昼はここで一緒に食べられますね?」

「そうだな、明日からは完全に業務に戻るだろうし。今日から暫くはダナン課長に言われたサイテカ連合国のダンジョンブレイク対応の報告書作成業務がメインだろうけど、冒険者相談窓口の業務も徐々にやっていくだろうしな。あ〜あ、俺のダンジョン管理事務局の仕事の日常に戻ってしまうな」

「ふふふ、残念でした。でもエナミ先輩らしいですね、安心しました。明日からもあんまり態度が悪いとダナン課長に怒られちゃいますよ」

「ダナン課長に3ヶ月のバカンスから帰ってきて、いきなり怒られるなんてたまったもんじゃない」


 エナミはレラとのお昼休みのこのやり取りで、漸くアルミナダンジョン国に戻ってきた事をちゃんと実感する事が出来てきた。








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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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