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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第十四話 グレン・オッペンハイムは思い知る 3

 魔法による過去の映像が終わりを迎えて、イシュタルが屈辱に慄えている横で、グレン・オッペンハイムはエナミの古代魔法「 ―時の道標― 」に戦慄していた。自分が会議室で何気なく簡単にかけられてしまった魔法だが、その中身は非常に強力なものだった。


 自分の記憶やイシュタルの記憶から再現されたものでは無く、明らかにその状況だけ切り取ってしまえる様な、過去の現象を強制的にそのまま見せられる異常な古代魔法がほぼ準備などなく簡単な詠唱だけで放てるエナミを恐ろしく感じた。


 この古代魔法さえあれば査問委員会の地道な調査など必要なく、真実を暴く事が簡単に出来てしまう事が分かってしまったオッペンハイムは、態々この魔法をエナミが自身にかけた理由も思い当たった。


 これは明らかなエナミからの警告だ。次に何かこちら側が仕掛けてくるなら、もっと多くの人間にハッキリと分からしめるのは簡単な事だぞという非常に恐ろしい警告とオッペンハイムには分かった。


 鳥肌が立ち青褪め、慄える自分を何とか抑えて隣に立つイシュタルに声をかける。


「……イシュタル様、今後のエナミ・ストーリーへの対応はいかがなさいますか?」

「……」

「イシュタル様?」

「エナミ・ストーリーへの査問は今回の召集を持って終了としたまえ。査問の結果もナランシェ連邦のスパイ容疑は晴れ、ダンジョン攻略課の冒険者相談窓口への職場復帰に特に問題無しという通達を直ちに出せ」


 イシュタル・タランソワは先程まで浮かべていた真っ赤な顔で青筋まで額に浮かべていた分かりやすい激怒の顔から漸く立ち直り、周りからも明らかな厳しい表情を浮かべ、冷たい一言で、オッペンハイムによる査問委員会の調査の終了を告げる。


「分かりました。その様に取り計らいます。他にはエナミに対して何か対応いたしますか?」

「ほう、例えば何かね?あの私さえ使う事が出来ない、最早原理さえ分からない古代魔法の目を掻い潜るだけの何か上手いやり方を思いついたか、それとも知っているのかね?」

「いえ、出過ぎた真似でした。何でもありません」

「分かれば良い。次の指示は追って出す」

「ハッ」


 自分自身が使えないとプライドの高い古代魔法の第一人者のイシュタルが認めた以上、あの古代魔法「 ―時の道標― 」を使えるのは、少なくともこの中央大陸ではエナミだけだと理解したオッペンハイムは、王立アカデミーに帰ろうと歩き出すイシュタルに頭を下げながら、あの化け物に暫くは関わらなくて済むと多少の安堵を得たのと、エナミへの静かな恐怖を増大させられた。


 イシュタルは気持ちを完全に切り替えたようで、王立アカデミーに戻る為にオッペンハイムを修練場を置いて、自身の教頭室へと歩き出す。しかし完全には気持ちが切り替わっていないのは、何も無い所で早足で躓いた事からも明らかだった。


「くそッ、覚えておけよ、エナミ。次はこうはいかないからな」


 王立アカデミーに戻ってきたイシュタルは叩きつける様に教頭室のドアを閉めると、暫くの沈黙の後で、何かが壊れる音と絶叫だけがその室内にだけ響いた。


 一方、そんな事になっている原因を作ったエナミはスッキリした顔でダンジョン攻略課に顔を出していた。一応の流れを把握している者はエナミを見つけると顔を引き攣らせて自分のデスクに齧りつくように事務作業を始め、知らない者は気軽に声をかけてくる。


「エナミさん、お疲れ様です。ダナン課長があんまり休むと良い顔しませんよ」

「おう、いい加減休むのにも飽きたから、明日から冒険者相談窓口に戻ってこれると思うから、今から課長に頭下げてくるよ」

「阿修羅像を怒らせないように気をつけてくださいね〜」

「わかってるよ」


 エナミはそんなやり取りを最後に、後ろ手に手を振りながら、ダンジョン攻略課の一番奥に鎮座するダナンの席へと向かう。ダナンはいつもの様に背中に阿修羅像を控えさせて

机で肘をつき、両手を組み佇む。

 

 阿修羅像の今日の顔は滲み出る好奇心を隠そうと必死に無表情を装っていた。


「ダナン課長、ご迷惑おかけしました。エナミ・ストーリー、査問委員会の召集から只今戻りました」

「エナミ君、首尾はどうだったかね?」

「上々かは分かりませんが、明日には査問の結果が分かるんじゃないですかね」

「そうかね」


 お互いに必要最低限の事しか話さない。既に彼らからすれば、前日の官舎でのやり取りで十分に今日以降のシュミレーションを出来ていた筈なのだ。


 その為本来の目的である、エナミがスムーズにダンジョン攻略課に復帰出来そうかを達成可能か否かのみに集中して話を進めた。ダナンの背後の阿修羅像は安堵の顔になり、彼の言葉の続きを待つ。


「これ以降はどうなると思う?」

「うーん、今回の相手の僕への執着の程度次第でしょうけど、それは僕よりも今回の件を裏で調べている皆さんの方がご存知でしょうからね。まだ何かやらかすなら、そっちが早めに動くのでは?」

「その質問には答えられんな」

「はぁ〜、そうしたら僕のピエロ役はまだまだ続きそうですね。本来の業務のみに集中させてもらいたいのですが……」

「そう、こぼすな。君には十分な休みを与えただろう?周りにアイツはまた休みをとって何をやってるのかと思われるぞ」

「しょうがないですね。向こうの意向に沿って対処します」

「うん。では今日はもう帰り給え。本日の結果は分かり次第、私が君に伝えよう」

「はい。ではエナミ・ストーリー、本日は帰ります」


 苦笑いを浮かべながら、質問の切り返しには答えないダナンや背後の阿修羅像を見て、エナミはまだこの囮役を続けるのかとため息をつき、官舎へと帰っていった。









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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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