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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第十三話 グレン・オッペンハイムは思い知る 2

 ダンジョン管理事務局の修練場で授業を終えたイシュタル・タランソワの前にやってきたオッペンハイムは、エナミがかけた「 ―時の道標― 」と言っていた古代魔法が勝手に発動するのを眺めるしかなかった。


 オッペンハイムはエナミが自分がどんな魔法をかけられたかをその時初めて知った。この「 ―時の道標― 」はエナミがよく使う時間魔法を古代文字を用いてアレンジした古代魔法で、イシュタルがいかにしてオッペンハイムに対してエナミのスパイ容疑を固めさせるのかを指令させていた場面が、空間にスクリーン投映するように映し出された。


 スクリーン投映された場面としては王立アカデミーの教頭室で窓際に立ち、外を見ながらデスクの前で直立不動のオッペンハイムに語りかけるイシュタルの姿が映し出されていた。


「グレン・オッペンハイム君だったね?楽にしてくれ給え」

「ハッ、失礼します」


 元気良く返事はしても、直立不動の姿勢を全く変えないオッペンハイムに満足したようにイシュタルはニヤリと笑い、窓際から離れてゆっくりと椅子に座る。そして机の棚から封筒を机の上に出して、オッペンハイムの方に滑らせる。


「それの中身を見てくれ」

「ハッ、拝見させていただきます」


 そこにはダンジョン管理事務局に入ってからのエナミ・ストーリーの写真に映った姿や経歴が全て網羅された書類が入っていた。何も訊かないままにオッペンハイムはその書類を一通り見てからイシュタルに尋ねる。


「このエナミ・ストーリーをどうしろと?」

「……彼は今、サイテカ連合国のライン地方にある「海鳴りの丘」で起きたダンジョンブレイクの解決の為に、ダンジョン調査団の一員として派遣されている」

「国外では我々の介入が難しいのでは?」

「まぁ、話の結末を待ち給え。サイテカ連合国のダンジョンブレイクは無事に彼と「ダンジョンマスター」ミヤ・ブラウンの活躍で解決したそうだ。彼はその解決ついでに有給消化をするようで、向こうに3ヶ月近くはいるらしい」

「それでは査問委員会にはかけられないですが……」

「そう、そこで彼は一人の女性に会ったらしい。誰だと思う?」

「誰なんですか?」


 イシュタルの焦らす様な話っぷりにもオッペンハイムは表情を変えずに続きを促す。イシュタルはこの事実を初めて知った時と同じ顔で大柄な男に答えを伝える。


「ナランシェ連邦の「魔女」ジエ・パラマイルだ」

「はっ?本当にあのジエ・パラマイルなんですか?確認は取れているんですか?」

「あぁ、うちのサイテカ連合国に潜入させた者も確認しているし、エナミがジエ・パラマイルに会った場にいたダンジョン管理事務局の外交部の人間もハッキリと正体を見ているから、ほぼ確実だろう」

「……それは大事ですね」


 人事部のスペシャリストである査問委員会のオッペンハイムといえど、外国の事に精通しているとは言い難い。しかし、あまりの大物であるナランシェ連邦の「魔女」については情報は十分に把握していた。


 ジエ・パラマイルが近年のナランシェ連邦の国内情勢の安定と、周辺国の武威をコントロールしていると言われて早半世紀以上。その幼い容姿からは想像出来ないほど悪辣な外交手腕で、周辺国と緊張関係を維持させていた。


 少しでも相手に隙が有れば、そこをついて自分の立場を良くするのは当然の交渉上でのやり取りだが、それ以上にあからさまに容赦なく仕掛けてくる「魔女」のやり方はそれとは一線を画する物で、何をやってくるか分からない恐さが常にある。


 そんな大国の外務大臣と、国外で何らかの接点を持ってしまったエナミが、ただのダンジョン管理事務局の一職員な訳がない。


 オッペンハイムはそれまでの穏やかな視線から急に鋭くなり、手にしていたエナミの資料を見直していく。その姿に満足したイシュタルは手を机の上で組み、一言大柄な男に伝える。


「オッペンハイム君、君には査問委員会の人間として、このエナミ・ストーリーにかけられたナランシェ連邦のスパイとして国家反逆罪の容疑の確認をしてくれ給え」

「……その結果はどうすれば?」

「いや、何、自然と彼の容疑を固めてくれる情報が上がってくる筈だ。君がその優秀さを活かしてその流れに逆らわなければ、自ずと我々が望むべき結果が分かるであろう」

「分かりました。今回の仕事を努めさせていただきます」

「宜しく頼むよ。この件を無事に解決した暁にはちゃんと君のステップアップを検討しているからね」

「ご指名、ありがとうございます」


 頭を下げて嬉しそうにやる気満々で教頭室を出ていくオッペンハイムの後ろ姿と、それを満足気に眺めるイシュタルの二人を最後に映して、空間上の映像は終わった。


 オッペンハイムはその古代魔法の終わりに唖然としていた。まるでちゃんと何処かで撮影でもされていたかの様に事実が流されていたからだ。そしてその映像終わりにちらりとイシュタルの方を見る。


 イシュタルは他人には見せた事の無い程に顔を引き攣らせ、額に血管を浮かせて真っ赤な顔をしていた。エナミの目論み通り、古代魔法である「 ―時の道標― 」は王立アカデミーの教頭であり、タランソワ家の次期当主のプライドを著しく刺激して、激怒させるには十分なものだった。









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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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