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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第十話 エナミは嘲笑えない 2

 ダナンが苦虫を噛み潰す様な顔でお茶を飲んでいる姿を、エナミは呆然と見つめる。イシュタル・タランソワが王立アカデミーの教員以外の所で、そんな「始まりの七家」の次期当主やら、アルミナダンジョン国の諜報を担っていた立場の人間だと全く知らない事ばかりで驚きを隠せなかった。


「……ダナン課長、課長を疑うつもりはありませんが、イシュタル先生は本当にそんな立場の方なんですか?僕が王立アカデミーの在校生だった頃はそんな感じは全く無かったんですが」

「エナミ君がそういうって事は余程彼の偽装は素晴らしいんだろうね。タランソワ家の直系の人間は、アルミナダンジョン国の諜報員として幼少期から教育されているからな。その中でも次期当主となるイシュタルについては相当の隠密、偽装能力なんだろう」


 エナミにはダナンのいうイシュタルと、自分の知っている王立アカデミーの教員として多少プライドが高かった様に見える人間が全く一致しなかった。だからこそダナンによりイシュタル・タランソワという人間について詳細を確かめていった。


「タランソワ家の事は「始まりの七家」としては知っていますが、その詳細がほとんど知られていないのも、アルミナダンジョン国での役割が諜報とか裏側を仕切るという、そういった意味で明確だからですか?」

「エナミ君がイシュタル・タランソワという人間に注意を払わなかったのは当然彼の隠密能力もあるが、タランソワ家自体が非常にその存在感を消してしまってからだろう。彼らはアルミナダンジョン国が建国した300年前の段階で、「始まりの七家」として情報を扱って、周りの四大国を翻弄する力を見せつけていた」

「四大国を翻弄ですか?」

「そうだ。彼らの諜報活動により、我らがアルミナダンジョン国は国としての戦力を整えるまで生き長らえたと言っても過言では無かったのだろう。だからこそタランソワ家は「始まりの七家」として名前は残っていても完全に表舞台からは消えてしまったのだ」

「恐ろしいですね……」

「そうだ、彼らの情報操作の力は本当に恐ろしいものだ。個人の武力や能力では君の方が圧倒しているだろうが、今回の戦いの場はそういった物が全く通用しない。この様な組織力は彼らの分野だ。いかにして君は彼らと戦うつもりなんだ?」


 その一方的な疑問の投げかけにより、真剣に悩んでいるのがダナンからエナミに移り変わった。エナミはいきなりの難題に頭を悩ませる事になり、明日の査問への考えが変わらざるを得なかった。


 少しの間、彼ら二人の間にはお茶を啜る音とティーカップを置く音だけが残る。エナミはカップに残っていたお茶を飲み干す迄には考えを纏めてダナンに話しかける。


「ダナン課長、タランソワ家がこの国でどういった存在だという事は十分に教えていただけたと思います。しかし、それでも僕には僕のやり方しかありませんから、普通に言うべき事を言うだけです。それに……」

「それに?」

「タランソワ家と同様に私の家もこの国では忘れられた存在ですから」

「確かにな、私もそれは忘れていたよ」


 エナミは冗談めかしてそう言うとニヤリと笑い、ホッと息をついたダナンもつられて笑う。このやり取りをきっかけにダナンは重そうだった腰を上げて、帰途へつく。


 エナミは官舎の玄関からダナンを見送ると窓の方に行き、アルミナダンジョン国の夜の帳を眺める。イシュタル・タランソワもタランソワ家についてもエナミ・ストーリーからすれば、大した存在では無かった。


 だからこそ彼らについて今まで何の興味も見いだせず、こんなくだらない疑惑を作り上げられて初めて存在を認識した程度だった。


 そんなエナミがまるで見向きもしなかった細やかな存在だった連中に自分の生き方を邪魔されるとは全く考えてなかった為に、今やこの国の自分の立場が追放か、逮捕まで追い込まれる事態になってしまっている状況に彼の中で不意に笑いが込み上げてきた。


 エナミは王立アカデミーの在籍時からダンジョン攻略課の冒険者相当窓口になっている今まで、五大ダンジョン攻略を今までどれだけ自分が必死になってやってきたかを理解していた。


 しかし、その途中で自分がダンジョン攻略の為の力として手に入れた古代文字・古代魔法がこんなタイミングで人の嫉妬や功名心に影響して、自分を苦しめる事になるとは思ってもみなかった。


 逆恨みや人の嫉妬の怖さをこれだけ痛感する事になるとは思ってもみなかったエナミだが、世界中の何処の国でもありそうな出る杭は打たれるという分かりやすい表現が当てはまるこの状況にただただ笑うしかなかった。


 段々と窓の外で夜の闇が深くなっていくのを焦点も合わせずに眺め、自分自身の自嘲じみた笑いが落ち着くのを待ってからエナミは呟く。


「相手の落とし所は分かっていても、こちらがそれに乗る必要性は感じないな。それに「始まりの七家」がこんな事をするって事は何処か他所も絡んでいる筈って事か……。上は何処までやるつもりなんだか分からないが俺は俺として役割を全うするしか無いみたいだな」


 エナミは窓から離れると、それ以上は考える事も無く、さっさと横になり瞼を閉じた。








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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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