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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第六話 イシュタル・タランソワは忘れない 3

 イシュタルは前回とは違い、今回に関しては本当にエナミが言った言葉が理解出来なかった。念の為、授業が終わり引き上げていく他の王立アカデミーの生徒がいなくなってから、自分の聞き間違いだと確信を持って聞き返す。


「エナミ君少し待たせて済まなかったね。もう一度言ってもらえるかな?」

「はい、僕の古代魔法を見てもらってもいいですか?多分発動出来ると思うので」

「……本当かね」

「はい、この分野の第一人者であるイシュタル先生に見てもらえれば、僕が使えるのが、古代文字を用いた古代魔法かハッキリと判別出来るので宜しくお願いします」


 自分が聞いてしまったエナミの言葉が一語一句間違いがない事が分かったイシュタルとしては、この2ヶ月の間で密かに恐れていた事態が眼の前に突きつけられた為に色々な感情を覚えていた。


 しかし、まずはエナミの言っている事が本当かどうか確認する必要があると思い直してすぐに気持ちを立て直して、エナミを修練場の的があるスペースへと誘う。


「……では、エナミ君。ここでなら君が言う所の古代魔法が使えるだろう?やってみてくれ給え」

「分かりました。では」


 エナミは何の躊躇もなく、魔法の発動モーションをとる。そして詠唱を始め、それが間違いなく古代文字を用いているものと理解出来てしまったイシュタルは耳を閉じてしまいたい衝動を何とか抑え、これから目の前で起こる事に集中していた。


「 ―永遠の回帰― 」


 他の者には聞く事が出来ないその古代魔法の発動キーワードをイシュタルはハッキリと聞いてしまった。彼らが目標にしていた的はエナミの古代魔法の発動と共に、2ヶ月前にイシュタルがデモンストレーションで見せたのと同じ様に砂のように粉々になった。


 エナミとしては納得の出来だったようで笑顔で後ろで見ていたイシュタルに振り返る。振り向かれたイシュタルは茫然自失という言葉が似合う顔で、まだ現実を受け入れていなかった。


「イシュタル先生、どうでしたか?」

「……」

「イシュタル先生?」

「……すまないね、エナミ君。あれは間違いなく、そう、間違いなく古代魔法 ―永遠の回帰― だよ」

「ありがとうございます。本当にこれで合ってるのか少し不安でしたけど、これで自信を持って古代文字の理解が少し進められたと周りにも言えます。イシュタル先生が太鼓判を押したと分かれば、これまで嘘つき呼ばわりしていた連中も黙るでしょうしね」

「……君の周りで古代文字の理解が出来る人間はいるのかね」

「いえ、当たり前ですがイシュタル先生しかいませんよ。だからこそこの2ヶ月は死ぬ物狂いで取り組みましたから。先生にその成果が見せられてホッとしてます」

「そうかね……」


 遂に自分以外に古代文字を理解し、古代魔法を使う者が現れた事に、イシュタルは全く喜ぶ事が出来なかった。何故ならその者は自分の教え子とはいえ、最初から古代文字の聞き取りが出来、僅か2ヶ月で古代魔法の詠唱と発動をイシュタル以上にスムーズに行ってしまったからだ。


 他の者には出来ない事だからこその第一人者であった自分の地位を、著しく脅かす可能性しかない目の前で無邪気に喜ぶエナミを見て段々とイシュタルには今まで感じた事がない感情が芽生える。


 その感情の名は嫉妬。


 イシュタル・タランソワはこの瞬間からエナミ・ストーリーという人間をハッキリと自分の敵だと認知したのだった。近世では他には誰も得られる事が無かった古代魔法の才能があり、「始まりの七家」のタランソワ家の次期当主として、何処でも自分が輝ける場所にいたそれまでの二十年余りの人生の中で人を羨む事など一度も無かった彼は、この時初めて嫉妬を覚えた。


 今までにイシュタルが誰かに嫉妬する可能性があったとすれば、自身が古代魔法の研究を優先したが為に挑んでいない五大ダンジョンの四十階以降を攻略しているプラチナランク以上の冒険者達であった。


 しかしそれにしても、古代文字の理解すら出来ない出来損ないの連中とは自分は違うという事で、プラチナランク冒険者には至らない自分の実力の事は自分には時間が無かったという事で何とか折り合いをつけていたイシュタルだったが、今回の自分の教え子に一瞬で並ばれた事はショック以外の何物でも無かった。


 そんなイシュタルの折れかかったプライドをちゃんと古代魔法が発動した事に喜んでいたエナミは、全く気付く事なく、どんどん折りにいく。


「じゃあ、次の古代魔法を披露しますね」

「はっ?何を言ってるのだね、エナミ君」

「いえ、イシュタル先生、ですから次の古代魔法を披露しますって言ってるんです」

「…まさかとは思うが、 ―永遠の回帰― 以外にも使えるというのかね」

「はい、古代文字はイシュタル先生の授業で一通りは教わりましたから。後は先生が以前言っていた文献の中身と照合して、偶然詠唱と合ったものをこれから披露しますね」

「そんな事が……」

「では、いきます」


 今だに戸惑い、呆然としたままのイシュタルをその場に置いていき、エナミは新しい的へと向かう。そして先程の古代魔法―永遠の回帰―とは違う詠唱を行い、何か全く別の古代魔法を発動する。


「       」

「止めてくれ!!」


 エナミの古代魔法が発動するその瞬間、イシュタル・タランソワはいつもの様に手を前に突き出して叫びながら豪奢なベッドから上半身を起こし、汗をじっとりと流しながら、自室で目を覚ました。


「またこの夢か……」









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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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