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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第五話 イシュタル・タランソワは忘れない 2

 古代魔法を使いこなす自分の力を見せつけたつもりのイシュタルは、憧れでも驚愕でもない、ただただ冷静に分析するエナミの冷たい目に苛立ちを覚え、エナミに訊かれた質問の中身が分かってはいても、ついつい聞こえなかった振りをして、質問に質問を返してしまう。


「エナミ・ストーリー君?君の質問がよく聞こえなかったようだ。もう一度言ってもらえるかね?」

「分かりました。少し小声になっていたと思います。ではもう一度言いますね。イシュタル先生、何故そんな無駄な詠唱をしているんですか?」

「無駄な詠唱?……もしかしてエナミ君、君には何か聞こえたというのかね?」

「はい」

「馬鹿な……ありえない」


 古代文字の理解を出来る人間はそもそもこの中央大陸の国々に何人もおらず、詠唱まで出来、古代魔法の発動までちゃんと出来る人間はイシュタル以外はいない。


 最もこの世で古代文字を理解していると自負しているイシュタルからすれば、エナミの言う言葉は否定するしか無かったが、王立アカデミーに首席で入学した人間は容赦なく現実を突きつける。


「何故あの的を撃つのに、あんな破壊の文言を入れなくてはいけなかったんですか?あの様にわざわざ威力を上げて、的を砂にするような破壊力を知らしめる必要が実技研修のこの場面であったんですか?本来ならあの言葉を入れる必要が無かったのでは?」

「……あの魔法の古代文字の文言が本当に分かったのか……」

「分かっているかどうかは僕とイシュタル様しか分かりませんが、間違いなくあの文言であの古代魔法の威力を上げてましたよね?その理由が知りたいんです」

「……私でもこの文言一つの解読に十年以上かかったんだぞ……」


 実際の古代文字の解読にかかった時間はもっと短く早かったかもしれないが、そんな事は今すぐに聞いただけで理解できてしまったエナミを見てしまったイシュタルには関係無かった。 


 イシュタルは自身の古代魔法・古代文字の第一人者としてのプライドが非常に傷つけられた為に、つい余計な事を言ってしまう。


「エナミ・ストーリー君、君は何故この2ヶ月の間私のこの古代魔法の授業に出なかったんだね?」

「イシュタル先生、すいません。僕はそんなに自分の能力が無いので、一つの事にハマってしまうと他の方には目が向かなくなってしまうんです。今回もちょっとどうしても手に入れたいスキルがあって、それを身に付けるためにだいぶ時間をかけてしまったんです」

「君がそこまでして手に入れたいスキルは何かね?事と次第によっては君に単位を与えられないが」

「「瞬動」です」

「「瞬動」だと?エナミ君、君は私をバカにしてるのかあれは誰も使えないただの幻のスキルじゃないか!!」

「はい。だから中々習得する切っ掛けが掴めないんです。「速動」は簡単だったんで、一週間くらいで使いこなせる様になったんですけど」

「「速動」を一週間だと……この化け物め」


 イシュタルはエナミと話せば話すほど、異世界に来たかのような違和感が広がっていくだけであった。もしエナミが「瞬動」をこの王立アカデミーにいる間に獲得出切れば、周りにいる人間にも当然の利益があると分かっていたイシュタルは最早何も言えない状況になっていた。


「エナミ君、君には古代文字が分かるらしいから答えるが、先程の破壊の文言はあの古代魔法を構成させる為に必要な古代文字なのだよ。私があの魔法を使う際には詠唱にあの文言が無いと、魔法が発動しないからね」

「……そうですか。分かりました。ありがとうございます」

「宜しいかね?では、この後は他の者からも質問を受け付けよう」


 実際、エナミ以外にこの古代魔法の事を理解出来ている人間はいなかった為に、この後の修練場での授業時間中はイシュタルを賞賛したり、感動を伝えられたりする以外には特に何か新しい事は無く、概ね彼の目的であった、古代魔法・古代文字の凄さを知らしめるという事は達成したと考えられるものになった。


 授業後にエナミの方を見れば、彼の友人であろう男女が彼を取り囲み、少し説教をするような口調でエナミに話す女の子を、眉目秀麗な恐らく留学生の男の子が宥めすかすという光景が見えた。

 

 当のエナミ本人を見れば、女の子の有り難い話を全く聞く事なく、20メートル先に置かれた元々的だった砂のように粉々になったものを見つめて、ブツブツと呟くだけであった。


 その光景を不気味に感じたイシュタルはその思いを振り払うように、何事も無かったかのように素早く振り向き、修練場から足早に出ていった。


 それから約2ヶ月の間、イシュタルの古代文字・古代魔法の授業にエナミは真面目に出てくるようになっていた。特に修練場での実技研修の際は、イシュタルに対しても生徒として授業中にも的確な質問をしてくるようになり、彼の自尊心を大いに満足させていた。


 そうして、エナミが授業に出てくるようになって2ヶ月が経ち、この日も修練場での授業がイシュタルの古代魔法のワンマンショーの様な光景になった後、エナミの一言が彼を

絶望へと導く。


「イシュタル先生、この後少しお時間良いですか?」

「何かな、エナミ君?古代魔法についてなら構わないよ」

「ありがとうございます。では僕の古代魔法を見てもらってもいいですか?多分発動出来ると思うので」











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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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