第四話 イシュタル・タランソワは忘れない 1
昨日は更新出来ず、すいませんでした。繁忙期のため、偶に更新出来ない日もあるかもしれません。予め理解していただければ幸いです。
「始まりの七家」の情報を扱う商家タランソワ家次期当主イシュタル・タランソワは、エナミ・ストーリーにナランシェ連邦のスパイ容疑をかけるような目に合わせているものの、エナミに対して最初から酷い心象や態度をとっていた訳では無かった。
むしろ王立アカデミーの頃は彼と親しくなろうと必死になっていた時もあった程だ。そう、イシュタルとエナミの出会いは振り返れば王立アカデミーの頃になる。
エナミ・ストーリーが王立アカデミーに入学試験で満点で首席として入ってきた際、イシュタル・タランソワは王立アカデミーの教員とダンジョン研究所の首席研究員として勤めていた。
イシュタルは当時、タランソワ家を将来的に継ぐ気はあったが、まだまだ自分自身の研究が楽しく、王立アカデミーの教員を辞めてダンジョン研究所の所長としてトップに立つかどうかまだ迷っている時期だった。
そんな時にエナミ・ストーリーという満点で入学試験をクリアーした怪物が現れ、入学式でその姿を見た時は興味の対象だった。しかし、その後の関わりを考えると彼に対してイシュタルは興味を持つべきではなかったのかもしれない。
エナミが王立アカデミーに入った時、丁度イシュタルは授業として自身の研究する古代文字・古代魔法を教えていた。アルミナダンジョン国が建国して300年以上になるが、中央大陸に国が出来上がり始めた以前の約800年前には途絶えたと言われている古代文字・古代魔法をイシュタルは研究していたのだ。
当たり前の事だが当時の古代魔法についてはまだまだ伝説的なものの領域を出ておらずましてや再現されたものも無かった為、現代魔法を研究している人間からすれば眉唾物でしかなかった。
そんなものをイシュタルが一部とは言え再現した為、中央大陸の他の国の中でも古代文字・古代魔法研究の第一人者として名前が知れ渡っていた。
そんな王立アカデミー、ダンジョン研究所が誇る教員であり、研究員だったイシュタルだが、決してそれを鼻にかける事なく授業も真面目にやる者にはその能力に問わず、熱心に接していた。
しかし、エナミは王立アカデミーに入学してすぐの頃は決してイシュタルにとってはいい生徒とは言えなかった。彼はまだまだ五大ダンジョンを攻略していく自分の力を身に付けるために「瞬動」を習得している時期で、決して他の事に目を向ける余裕は無かった。
その為に難解で知られる古代文字、古代魔法の授業に全く出てくる事なく、欠席を2ヶ月に渡って続けていた。イシュタルとしては最初の入学式で受けた期待はだいぶ無くなっており、エナミを問題児として見始めた頃についに授業にやってくる。
エナミが授業に出てきたのは、丁度、古代魔法の実技研修で修練場にてイシュタルが披露する日だった。ここでしっかりと今まで授業には出てこなかった彼にガツンとカマそうと準備万端で修練場で待ち構えていた。
「では本日は古代魔法の最初の実技研修を始める。ここまでの古代文字・古代魔法の座学の授業では何だか伝説の確認やら、聞いたことも無い話や荒唐無稽な事ばかりで退屈だっただろう。しかし、今日の授業でその君達の退屈なものを見る目がどうなるか私は楽しみにしている」
高らかにそう宣言したイシュタルは、エナミをチラリと見るが欠伸混じりにこちらを見ているだけで、何の敬意も感じないその態度に更に目にものを見せてやろうと、普段の実技研修のデモンストレーションとは違った意気込みで古代魔法を詠唱する。
「 」
間違いなく何かを呟いているイシュタルだが、授業を受けている王立アカデミーの生徒達には全く何を言っているのか聞こえなかった。
これは予めこれ迄の座学の授業でも言われていたが、普通に現代語しか知らない今の中央大陸の人間には古代文字は理解する前に聞えない音だった。
ましてや古代魔法はその古代文字の中でも聞き取れない音の繋がりで構成されていた。これは間違いなく当時の他民族への魔法の漏洩を避ける為とイシュタルの論文でも書いているが、その説を十分に保証するものと言えた。
実際にはちゃんと意味がある事を言っているイシュタルが十秒ほどかけて魔法を唱え終えると、手を前に突き出す。すると予め20メートル先に置かれた的が突如として崩れ、砂のように粉々になった。
最初、その現象をボーッと見ていた王立アカデミーの生徒達は誰が何をしたかを確認出来ると、キラキラした目で、イシュタルを皆が見ていた。
古代魔法が無事に発動し、威力も上々で、分かりやすいデモンストレーションを出来た彼はこれで古代魔法の凄さを理解してもらえ
ると鼻を高くして、エナミを見る。
しかし、そこにはイシュタルが期待した笑顔ではなく、注意深くこちらを見てブツブツと何か独り言を言っているエナミ・ストーリーがいるだけだった。
そして彼はイシュタルと目が合うと手を上げて質問してくる。
「……イシュタル先生で合ってましたっけ?質問をしても?」
「あぁ、私がイシュタル・タランソワだ。質問とは?」
「ではイシュタル先生、何故そんな無駄な詠唱をしているんですか?」
エナミの不躾な発言はイシュタルだけでなく、他の王立アカデミーの生徒を黙らせるにも十分に一言だった。
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