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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第四章 相談窓口は犯罪者扱いされる
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第二話 エナミは呆れる 2

 ダンジョン管理事務局から自身の寮に戻ろうとしたエナミは、ダナン課長に言われた通りに自宅待機の準備の為に食料や身の回りの物を買い物していた。


 普段なら昼はダンジョン管理事務局の食堂「来るもの拒まず」、夜はスラム街の飲み屋「その力は何時の為に」で管を巻く為に、食事の用意をしない彼からすれば悩ましいのは食事をどうするかだけで、今回買い出しする際にバンバン「収納」していく。


 こんな事ならイーストケープでもっとお土産代わりにライン地方特産の食べ物を買い占めておけば良かったと思いながらも、自身の好きな物やら何も考えず食べ物をひたすらにランダムに買い込む。


 エナミは何処まで買い占められるか、そしてそんな金が何でそんなにあるのか不安に感じている食料品店の引き攣る笑顔の店主を余所に、思考の海に潜る。


 ダンジョン攻略課で聞かされた自分の国家反逆罪の容疑に最初は驚かされたが、ダナン課長との会話の中で、おおよそのダンジョン管理事務局の上層部の意向は把握できた。


 これは明確に誰かを釣ろうとする意志が働いているのは間違いないと分かった為、エナミは慌てる事も、上層部の理不尽を非難する事もなく、淡々と自分に与えられた役回りをこなそうと考えていた。


 ただこの件に関してはそれぞれの役回りを与えられている者に対して十分な説明は与えられていない事も分かった為、レラやサーヤの暴発には十分に注意が必要なのも理解できた。


 恐らく今回の件が想定と違った形で彼女ら二人に入った際に、現状を自分以上に把握しているであろう権力者の親達はどうするかも分からないし、それがダンジョン管理事務局の手から離れた所で起きる問題として、非常に当局が介入し難いものになる事も分かった為、自分からは触れない様に気をつけねばと考えていた。


 しかし、そんな彼の決意とは裏腹に、いつもの様に運命はエナミには優しく微笑んではくれなかった。


 買い占めが終わった食料品店「売れる物がある幸せ」から出たエナミを待っていたのは約3ヶ月前にイーストケープの駅で見送った時と比べて、少しやつれて見えるレラ・ランドールだった。


「エナミ先輩、お帰りなさい」

「……ただいま、レラ」

「どうしてここに?って訊いてくれないんですか?」

「どうしてここに?」

「フフ、先輩はバカンスから帰ってきたばっかりで忘れちゃったかもしれませんが、私は今、第一保安課課長補佐ですよ?要人の秘密裏の警護が専門ですからね。先輩がライン地方から帰ってくる予定や、ついさっきまでダンジョン攻略課に行ってたのも、ちゃんと把握してますよ」


 ゾッとさせられる告白をするレラの得意げな顔に、ブラフなのか本気なのか全く分からないエナミは真顔で話題を変えようとする。


「やつれて見えるけど、どうしたんだ?保安課のシゴキがきついのか?」

「違います!!自分で頑張ってるんです。エナミ先輩のこの前の活躍に私なりに追いつこうとして、この3ヶ月近くメチャメチャ鍛えたんですからね!!」

「そうか、偉いな。流石は俺の唯一の教え子だ」

「エヘヘ、存分に褒めて下さいね」


 レラ相手には上手く誤魔化せたようで、彼女の頭を撫でて満足させるエナミは内心ホッとしていたが、同時にそのリアクションから彼女が自分のスパイ容疑を把握していない事も理解出来た。


 そうなると、この後の自宅待機について誰かのサポートが必要ではないかと強く感じていたエナミは、頭を撫でられ満足げなレラに都合が良いとばかりに、そのまま手を頭に置いて彼女の髪に触れたままで質問をする。


「レラ、タナカ部長はどうしてる?」

「しばらくの間、エナミ先輩の警護から外れるって言ってましたよ?だからこそ私が志願して、こうして先輩の側に付いてるんです」

「そうか……」


 間違いなく自分を囮として蠢いているダンジョン管理事務局の上層部のサポートがこの件に関しては期待出来ないと悟ったエナミは更に撫でてもらおうとウットリしながら頭を押し付けてくるレラに打開策を提案する。


「レラ、一つお願いがあるんだ」

「何ですか?私、今ならエナミ先輩の大抵のお願いは聞いてあげますよ?」

「一つで十分だよ。俺はさっきダンジョン攻略課でダナン課長から指示されて、しばらくの間今回のサイテカ連合国のダンジョンブレイクについての書類を纏めなくてはならなくなった。間違いなく国家機密が多いからな、漏洩を警戒して纏め終わるまで寮の自室でやる羽目になったんだ」

「それは大変ですね。それで私にお願いって?」

「そんな状況だから、俺が寮にいる間は警護には付かないで欲しいんだ。お前が側にいると、何かしているんじゃないかと逆に怪しまれるからね。2週間もしたらこっちは終わるから、それまでは保安課の別の任務についていて欲しいんだ。頼めるかな?」

「え〜、どうしようかなぁ」


 エナミは少し機嫌を害した風のレラに頭を撫でていた手を止め、耳元で囁く。


「頼むよ、レラ。お礼に何をして欲しい?」

「えっ、お礼?」

「あぁ、何がして欲しいんだ?」


 いきなり耳元でそう言われたレラは自分がして欲しい事を妄想してボーッと逆上せた様な顔をする。その表情にエナミはついつい彼にとっては余計な事を口走ったと後悔した。


「そうしたら、先輩のその仕事が終わったら私とデートしてもらえますか?それなら私、別の任務を頑張ります!!」

「……分かった。お安い御用だよ」

「約束ですからね!!じゃあ、ここから先輩を寮まではしっかり送ります!!」

「……頼んだ」


 その後、エナミは寮までレラと腕を組んで無理やり引きづられる様に連れられていったが、二人の表情のコントラストがハッキリとしていたのは、誰が見ても明らかだった。










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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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