第一話 エナミは呆れる 1
今日から第四章開始です。宜しくどうぞ。
楽しすぎたサイテカ連合国での3ヶ月ものバカンスから帰ってきて、ダンジョン管理事務局のダンジョン攻略課の仕事に戻ろうとして早々に、ダナン課長からいきなりナランシェ連邦のスパイとして国家反逆罪の容疑と言われて、動けないエナミだった。
ダンジョン攻略課のトップであるダナン課長が自宅待機と言った以上は冒険者相談窓口の仕事に戻る事はしばらくの間出来なくなったが、エナミは直ぐに落ち着いて、いくつかの疑問を抱き、いつものスタイルで机に肘をついて手を顔のの前で組む阿修羅を背負った男に質問を投げかける。
「ダナン課長、質問がいくつがありますが、答えてもらえますか?」
「勿論だ。エナミ君がこのダンジョン管理事務局に帰ってきた際、最初に私が君の容疑と対応を通達させられる役回りだったからね。答えられる範囲の物なら答えるし、答えられない事は、間違いなく後で答えられる者が答える事を、ダンジョン管理事務局を代表して約束しよう」
「分かりました。ではダンジョン管理事務局の対応に感謝して、いくつか質問させてもらいます」
このやり取りの間もダナンの後ろの阿修羅像の表情は冷酷さが前面に出したままだったが、エナミには全く動揺は無くなっていた。それよりもダナン課長がこちらの質問に対してどれだけの準備がされているのかを、先程のやり取りで痛感させられた。
恐らくエナミが何を訊いても想定問答の準備が網羅的にされており、彼からこちらが欲しい情報を引き出すのが難しいと判断せざるを得なかったからだ。そんな事を益体もないと感じながらも考えつつ、エナミはダナンに問う。
「まず、私のナランシェ連邦のスパイという話は誰から出されたものなのでしょうか?実際にはイーストケープでジエ・パラマイルとのやり取りがあった際はラミー・レバラッテ第一外交課課長が同席していたのですが、彼が私に対して容疑をかけたのですか?」
「君なら分かっていると思うが、当然彼が君に容疑をかけた訳では無い。しかし、それ以上の話が誰から出されたものかは私には答える権限は無い」
「分かりました。では次の質問を。今回の私の容疑について、同行したサイテカ連合国のダンジョン調査団の面々にも同様の容疑がかけられているのでしょうか?」
「君以外の人間には全く容疑はかけられていない。寧ろエナミ君の情報を積極的に集める為に査問委員会に早い段階から調査をされている。ミヤ・ブラウン調査主任とラミー・レバラッテ第一外交課課長は調査に非常に強力的な対応をしていたと報告されている」
「分かりました。では他の二人、レラ・ランドール第一保安課課長補佐とプラチナランク冒険者のサーヤ・ブルックスについては?」
「それが……」
調査経過についての事実確認に当たる事で簡単に答えるであろうと考えていたエナミは思いの外早い段階でダナン課長が質問への回答に詰まるのを疑問に感じた。実際に阿修羅像は何故かエナミを見ずに、そっぽを向いていた。
「どうしたんですか、答えられない質問の範囲でしたか?」
「いや、実は彼女達には査問委員会は調査をしていない」
「はっ?何故ですか?」
「非常に政治的な判断だとエナミ君には伝えるしかない。これ以上は先程の約束した中では対応出来ずに他の者でも答えようがないのは申し訳ない」
「止めて下さい、ダナン課長。周りの職員も見ていますから、誤解を生みます。」
急に頭を下げるダナン課長を止めようと動くエナミだったが少し遅くなってしまい、周りのデスクにいたダンジョン攻略課の職員もエナミに頭を下げるダナン課長を目撃してしまった。
ダナン課長がエナミに促されて頭を上げる時には、既にダンジョン攻略課の中では非常に間違った見解が広がってしまっていたが、エナミには止める事が出来なかった。
「……何の為の偽装ですか?課長は予め結界を張って、僕とのこのやり取りを周りに聞かせない様にしてますよね?」
「こうする事で私の力が君を守るのに不十分だという事と、私が君に対して、今回のダンジョン管理事務局の査問委員会対応に対して申し訳ないと考えているという印象を与えるという2つの事がなされた形になる」
この段階でエナミの中でのある推測は確信に変わった。その為、この場でのダナン課長との質問のやり取りを必要最低限にして、早めに切り上げる判断をする。
「課長、今回の私の容疑についての件は何処まで情報が広がっているんですか?」
「……非常に管理されている。因みに先程君の質問にあったダンジョン調査団の二人の女性陣は状況を全く知らない」
「分かりました。ではこれ以上は査問委員会の方々の対応を待ちます。自宅待機については何時からが望ましいですか?」
「……私が君にこの件について通達したのを多くのダンジョン攻略課の職員が目撃されている。この場から君が立ち去ると直ぐに監視がつくと思った方が良い」
「分かりました。では大人しくダンジョン管理事務局の方針に沿った対応をさせてもらいます。課長、」
「何かね?」
「休みが延びて、申し訳ありません」
「全くだよ、帰ってきたら更に励み給え」
「はい。では、エナミ・ストーリー、ダナン課長の指示に従い、自宅待機させていただきます!!」
最後の二人のやり取りだけで周りの職員も聞こえるように結界をダナンが外すと、高らかに自宅待機を宣言したエナミは内心の思いなどは全く表に出さずに速やかにダンジョン攻略課を立ち去った。
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