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閑話11 暗躍せし者

 エナミ・ストーリーがアルミナダンジョン国のダンジョン管理事務局の人事部査問委員会にナランシェ連邦のスパイ容疑で国家反逆罪の疑惑をかけられたのは、ラミー・レバラッテが緊急外交部会でフルシュミット国際事務局長を向こうにして何かの決定を促した少し後だった。


 実際にラミーがエナミに対してどの様な決定をフルシュミットを通して上層部に促していたかは分からないが、一つの答えとしてエナミをスパイ容疑で国家反逆罪に問うというのは、分かりやすいプロパガンダであるとダンジョン管理事務局の経緯を知っている者の中では思われた。


 しかし、当然の事ながらそれは極一部の事情を知っている者だけで、大半のダンジョン管理事務局の人間はその容疑にビックリしていた。


 彼ほどダンジョン管理事務局に対して貢献している人間がまさかそんな馬鹿なというある種の驚きと、一方で、あれ程の功績を一個人であげていたのも、何かナランシェ連邦からの便宜があったからだという嫉妬からの意見が分かれて出ていた。


 実際に査問委員会のグレン・オッペンハイムがエナミの周辺調査をしているという噂が広がる頃には、嫉妬からの意見が非常に優勢になり、彼の以前の悪い噂が思い出されたように更に脚色されて実しやかに囁かれる状況になっていった。


 当然オッペンハイムから直接質問されていたミヤやラミー、マリーの様なエナミに近しい人間達は状況に流される事もなく、ダンジョン管理事務局の上層部の判断も考えて反発する事無く沈黙していた。


 しかし、それ以外のエナミに嫉妬していた人間達はここぞとばかりにオッペンハイムに訊かれた事を拡大して吹聴し、間違いなくエナミ・ストーリーはナランシェ連邦からのスパイだと言う物語を真実に変えようとした。


 そしてこの物語がさも真実かの様にアルミナダンジョン国の市井に語られそうになる直前で、この件に関しての緘口令がダンジョン管理事務局の中に出された。


 何故緘口令が出たのかと問いたい人間達は直接の上司達に半ば食ってかかろうとする勢いで問い詰めたが、その上司達もはっきりとした理由は知らず、ただこの緘口令を守らなければ、その者が査問委員会の調査対象になるという分かりやすい脅迫をする為に、誰もこの件を話せなくなった。


 そんなダンジョン管理事務局の中に猜疑心が渦巻く中で、ダンジョン管理事務局の参事官補であるワーグナー・キルステンの部屋をノックする者がいた。


 普段から秘書を置かず自分で全てを対応するワーグナーは慣習として部屋の扉を開けて仕事をしており、ノックされた方をチラリと見て目の前の書き物を止めずに、書いているのと反対の手を使い、入室を促す。


「どうぞ、入って。もう少しで終わる」

「失礼します、ワーグナー参事官補」


 ワーグナーの前に現れたのは、ある種この状況を作り上げたフルシュミット国際事務局長だった。ワーグナーはそんな彼の事を気にする様子無く、目の前の書類確認を終えるまで集中していた。


 漸く書類作業が終わったのは十分ほど時間を要したが、その間もフルシュミットは微動だにせずに直立不動のままで、不満を顔に出す事無くワーグナーの机の前で待っていた。


「待たせて、済まないね。要件は?」

「はい、私が査問委員会に調査を命じていた件です。エナミ・ストーリー本人以外の調査は終了いたしました」

「その件、何だか随分と君等の予想よりも盛り上がっているみたいだけど、収束地点は変えないのかね?」

「はい。そういった調整業務は私の得意分野ですから」

「分かった。国際事務局長が言うなら、そうなるのだろう」


 今回の問題の流れ上、フルシュミットが人事部を動かして査問委員会を使った形だが、勿論このエナミの調査に関しては部長以上が集まる月に一度の定例会議で決議された為、上層部全体がどの様な流れで何をどうするか把握していた。


 予想以上にエナミがナランシェ連邦のスパイという物語が真実になりそうだったのは、一部の人間達の暴走というには背景がありそうだった為に、噂を泳がせてワーグナー以下皆が経過を良く注視していた。


「それで?向こう側の人間は絞り込めたのかね?」

「はい。案外分かりやすく動いてくれてましたので、そこの所は抜かり無くいつでも対応出来るかと。ただ気になる名前が一つありまして……」

「何処の誰だ?」

「イシュタル・タランソワです」

「「始まりの七家」だと?……タランソワ家はエナミがどういう人間か分かっていないのか?そんな筈は無いな。分かっていてやっているのか……」

「私達もだいぶ調査しましたが、背景については如何ともはっきりし難く。ただ何処かと繋がっていないと、この様な動きはしない筈ですし、何処ぞの大国の思惑を感じざるを得ません」


 意外な名前が出て来たが、ワーグナーは格段の驚きも示さず、淡々と確認だけする。一方のフルシュミットは態々ここまで来た本題がこの「始まりの七家」タランソワ家の対応についてだった為、揺らがない参事官補の態度に驚く。


「個別の対応はいかがなさいますか?」

「構わん。放っておけ。余程の事があれば、ブルックス家が何かリアクションするだろう。彼らには彼らのやり方がある。こちらと向こうは基本不介入が原則だ。それにやり過ぎれば、エナミが黙っていないだろう」

「分かりました。その確認が出来れば、対応は進めさせていただきます」


 フルシュミットは頭を下げて、ワーグナーの机の前から去っていく。部屋から出ていく国際事務局長を見送る事無く、彼は事務作業に戻るが、ため息をつきながら呟く。 


「誰のおかげでこの国が成り立っているか分かっていないのか?「始まりの七家」が一つ消えるか……。これも世の常か……」


 開かれた部屋ではあったが、誰もその呟きは聞いてはいなかった。









 いかがだったでしょうか?今回の間章はここで終わりです。第四章はエナミが驚く所から始まる筈です。


 因みに明日より第四章は開始します。風呂敷は広げましたが、正直どう収束させるかはまだハッキリしておりません。生暖かく見守っていただけると幸いです。どうか宜しくお願いします。


 こんなにも何処に着地するか分からない話を多くの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。

 もし気に入ったら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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