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閑話9 ケビン・ブルックスは動き出す

 エナミ・ストーリーがダンジョン管理事務局人事部査問委員会にナランシェ連邦のスパイ容疑をかけられたとブルックス家の執務室で執事より報告を受けた時、ケビン・ブルックスはそれがあくまでもダンジョン管理事務局内部の政治的な動きで、エナミ自身にそのような疑いがかけられる要素が一ミリもない事は分かっていた。


 何故ならケビンこそが娘サーヤを使って、エナミをあのタイミングでサイテカ連合国のダンジョンブレイクを解決に向かわせた張本人だからだ。ワラジアン地方の領都であるミシャールで行われた一夜のナムト・レインハートとの茶番劇も、大物領主マーカス・シュテルンビルトとの邂逅も、全ては彼が画策し、実際に彼がその場にいない状況で作り上げたものだった。


 そして、現地領主館での朝食時にシュテルンビルトとの会話の際にエナミに言わせた「我がストーリー家は「平和の象徴」ですからね」という言葉を、現場に送り込んだ人間と後から聞かされたサーヤからの報告の両方でブルックス家の執務室で聞かされた時、ある確信に至った。


 それはエナミが自分自身をストーリー家の「器」として十分に認識している事と、この事をシュテルンビルド個人のみならず、サイテカ連合国始め、その他の国に知れ渡っても構わないという宣言であるという事だ。


 この事にエナミのスパイ容疑の話が表沙汰になる2カ月以上前に理解する事が出来たケビンは、サーヤが報告を上げてから暫くの間、娘とエナミの甘いバカンスの一時の話(あくまでもサーヤ視点)を聞かされた後、彼女が満足して退室してすぐに執事に声をかけ、長男のウィリアムと三男のテリーをここに連れてくるように伝えた。


 二人の息子は突然の父親の呼び出しに心当たりも無いままに執務室に馳せ参じた。実際の所、ブルックス家の商売の現場の指揮をピーターも含め三人の息子にケビンが託すようになってから、このような急な呼び出しはほとんどなく、非常に緊急性が高いものと理解させられた二人は取るもの取らずで息が落ち着くのも待たない内に執務室のドアの前に立ち、ノックする。


「お父様、ウィリアム、テリーとも参上しました」

「入れ」

「「はい」」


 二人ともケビンの声に集中していたが、いつもと大きく変わらない抑揚で返事があった為、一先ず自分達が責められる事は無いと理解して、少し安心して執務室に入る。そこには執務室のソファーに背中を預けてブランデーの入ったグラスを回して何処か一点を見つめるケビンと、傍に控えるいつもの執事がいるだけだった。二人はその父親の態度に戸惑いながらも、アイコンタクトを交わして、ウィリアムが声をかける。


「急なお呼び出しでしたので、二人とも特に準備はしておりませんが何用でしょうか?」

「二人はエナミ・ストーリーが今サイテカ連合国にいる事は知っているな?」

「はい、勿論です。サーヤも楽しそうに我が家に帰って来た時にその事を話していましたから」

「ええ、ウィリアム兄さんと違って、僕の方はサイテカ連合国は自分の管轄地域ですから、もう少し詳しく把握していますが、エナミが帰ってくるのは2カ月以上先の話では?彼は話すのが上手いから、楽しい話を聞くのが待ちきれないですけど…」


 ケビンが呼び出した理由がどうやら自分たちの話では無く、将来の妹の婿の話と分かり、二人は緊張感を露骨に消して、父親の話に返事をする。この辺は商人として幼少期より叩き込まれた交渉事と会話のテクニックの真骨頂とも言えた。しかし二人が想像する愉快な方向では、当然ケビンの話は進まなかった。


「そうだな、サイテカ連合国担当のテリーでさえ、現地の部下から詳しい報告を聞かないと、これから先の話が理解は出来ないだろうから心して聞け。エナミ・ストーリーはライン地方現地のスラム街でナランシェ連邦の「魔女」ジエ・パラマイルと遭遇した」

「「はっ??」」

「もう一度簡潔に言おう。エナミ・ストーリーがジエ・パラマイルとサイテカ連合国で遭遇したとサーヤと部下から私の所に報告が上がった。これを私が把握したのはつい先ほどの事で、現段階でダンジョン管理事務局が把握している情報と大差ないだろう」


 さも当たり前の事のようにブランデーのグラスを回したままケビンは二人に言うが、どう考えても国際問題となりえる情報を聞かされた息子達のリアクションは当たり前とは程遠いものだ。


「……お父様、テリーも知らない情報だと思いますが、どういう事ですか?」

「ウィリアム兄さん、別に僕が知ってる知らないは構わないけど、ジエ・パラマイルがナランシェ連邦から出国して、サイテカ連合国に入っていたなんて世界に知られたら大事だよ。いきなり戦争になってもおかしくない」

「確かにあの「魔女」の動きは読めない所がある。しかしエナミ君とどうしてもアルミナダンジョン国以外で会いたかったと考えたら、彼女の動きは前もって準備されたものとも言える。現に彼女は手勢を連れて、エナミを暗殺しようとしたらしい。逆にエナミ君に簡単に排されたらしいけどね」

「……お父様、どう考えればいいのですか?」


 ケビンはグラスを回す手を止め、一気に中に入ったブランデーを飲み干す。そして一言だけ呟く。


「私にも分からない。ただ一つ分かるのは我々も動かないといけないという事だけだ。お前達エナミ君が帰ってくるまで、暫く休めないと思えよ」









 後2話で間章終わりです。


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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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