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閑話6 ヤミールは戸惑う 2

 ダンジョン管理事務局の修練場へと向かうために、冒険者求人課の方から行こうとしたヤミールの前に現れた、ダンジョン管理事務局の制服を着た誰から見ても大柄な男は、非常に丁寧に頭を下げて、名刺を彼の前に出して挨拶をする。


「こんにちは、シルバーランク冒険者の「龍槍」のヤミール様ですね。急な挨拶ですいません。私、こういう者です」


 全く警戒していなかったとはいえ、突如として視界を遮るように現れた男に「ダンジョン管理事務局人事部査問委員会所属グレン・オッペンハイム」という名刺を渡され、ダンジョン管理事務局の内部の事など何も知らないヤミールは戸惑った。


「いったい何の用なんだ?おたくみたいな立場の人間に挨拶される心当たりが全く無いんだが?」

「申し訳ありません。私は貴方に用というよりは貴方の知り合いに用があるんです」

「俺の知り合い?一体全体、誰の事だ?」


 それまでの戸惑いが強かった二人の間の空気がピリピリと緊張感をはらむ。ヤミールからすれば、ランドール共和国の知り合いであるアデルやエンリケを全く売る気は無く、目の前の男が急に敵に見えてきた。


 しかし、オッペンハイムは大柄な身体を敢えて小さく使って卑屈なほど否定する。


「いやいやいやいや、決して貴方のランドール共和国の頃の知り合いではなく、貴方のダンジョン攻略課冒険者相談窓口の担当者であるエナミ・ストーリーについて訊きたいだけなんですよ」

「はぁ、エナミ?アイツの事ですか?」

「そうです。彼には今、ある疑惑がかけられています。その点に関連して、彼の担当冒険者であるヤミールさんにちょっとお伺いしたいんです」


 ヤミールは非常に戸惑っていた。エナミとはその出会いからだいぶ変わった形であったが、今ランドール共和国の亡命者である自分がこのアルミナダンジョン国でシルバーランクの冒険者をやっていられているのは彼のおかげでしかなかった。


 そんなエナミがサイテカ連合国という外国にいる間に、自身の組織の査問委員会なる、どう考えても彼にとって不利な事を調べている人間に対して、自分が密告するような事はしたくなかったからだ。


「俺に訊かれてもエナミの事は何も答えられないですよ?アイツの事なんてプライベートは全く知らないし」

「そんなそんな謙遜なさらずに。貴方と彼の出会いがスラム街の居酒屋で貴方の方が集団で絡んだからだって聞いてますから」

「えっ……」


 オッペンハイムは大きな身体を卑屈に小さくしたままニコニコしながら、軽く言う。今となっては笑い話のようだが、エナミとヤミールが出会った当時の事を知る人間はダンジョン管理事務局側ではあの場に居たタナカ保安部部長くらいしかいない。


 しかし彼は、そんな事を態々この査問委員会なる内向きの敵とも言えそうな組織に言うような人間とはヤミールには思えなかった。むしろ自分の周りにはなるべく彼の様な人間を近づけないように気をつけているように感じた。


 だからこそ、ヤミールにはこのオッペンハイムの発言が薄ら寒く感じられた。誰からいつこの出会いの事を聞き出したかが全く分からないからだ。当然それから先で起きた事も知っている事が十分に想像できた。


「……オッペンハイムさんよ、俺からアイツの何を訊き出したいんだ?」

「あぁ、ヤミール様、素直に聞いていただいて助かります。私が貴方に訊きたいのはただ一つです」

「たった一つかい?」

「はい、私が訊きたいのはダンジョンブレイクの時に貴方がスラム街で彼と戦った時の事です。彼は貴方を殺そうとしてましたか?」

「……その答えはノーだ」

「そうですか、分かりました。ご協力ありがとうございます」

「それだけで良いのか?」

「はい、私の方はそれだけで十分です」


 オッペンハイムはそのやり取りだけで本当に十分であるように、帰ろうとする。その様子に拍子抜けしたヤミールが慌てて彼に声をかける。


「オッペンハイムさん、俺からも訊いていいかい?」

「ヤミール様、スムーズにご協力いただきましたから、私に答えられる事ならば、お答えしますよ」


 帰ろうとしたオッペンハイムは振り向きながら答える。その顔は相変わらずニコニコとしたままだったが、眼光は鋭くなっていた。


「アイツ……エナミには一体何の疑惑があるんだ?」

「申し訳ありません、ヤミール様。それについては貴方にお答えする権限が私にはありませんので、お答え出来ません。ただ……」

「ただ?」

「この疑惑が解消されるまでは、エナミ・ストーリーはダンジョン攻略課の冒険者相談窓口には戻れないでしょうから、そのつもりで貴方も動かれる事を推奨します。私が言える事はそこまでです。では」


 オッペンハイムはヤミールに非常に事務的にそう伝えると、彼は一方的に会話を打ち切り、今度は振り向く事無く、大柄な身体を小さくしてダンジョン管理事務局の何処かへと去っていく。


 その場に取り残されたヤミールはオッペンハイムに言われた言葉を噛み締め、戸惑いを隠せぬまま、予定を変えて修練場に直接向かうのでは無く、冒険者求人課で自分の質問の答えを持っていそうな人間に会いに向かうのだった。








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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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