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閑話5 ヤミールは戸惑う 1

 最速のメリダダンジョン二十階攻略者「龍槍」のヤミールは、今日も今日とて国営冒険者アカデミーの修練場とメリダダンジョンとの往復をしていた。


 自身の冒険者相談窓口担当が3ヶ月もの国外の長期バカンスに出てしまった事も有り、予めエナミから指示されていたメニューを修練場でこなし、その上で更に負荷をかけながらメリダダンジョンの深層へと潜っていた。


 実際にエナミがバカンスでいない間でも、トレーニングを欠かさないのにヤミールは直ぐに三十階に届きかねない二十八階まで潜っていた。


 この短い間で効率良くここまで来たのも、魔法のペンを使ってエナミに随時訊きたい事を確認していたという利点があった事は否めないが、彼の努力と才能を否定するものは一つも無かった。


 そして今日もダンジョンブレイクの騒動が落ち着きつつあるメリダダンジョンの中へとヤミールは入っていく。プラチナランク以上の冒険者達の行動制限は変わらないものの、ゴールドランク以下、つまりは四十階までのダンジョン攻略をする冒険者達は今までと変わらぬダンジョンの利用が出来た。


 ただ一つリスクと呼べるものがあるとすれば、ダンジョンブレイク後のダンジョンには時々レア種であるモンスターがフロアボスと違って徘徊している恐れが万が一程度にはあることだ。


 これはダンジョン管理事務局の中でもダンジョン調査部が必死に調べて遂に見つけたものだが、それを体系づけて解明したのはエナミとミヤのコンビだったのは、ダンジョン調査部の中では一致した見解だ。


 しかし、その謎を解明した力が科学ではなく、彼らの才能とスキルに偏った特殊性が鑑みられて、ダンジョン調査部の外には全く漏らせない状況だった。


 それ故、ダンジョンブレイク後の低層階でも危険性は謳うが、彼はそんな事は百も承知でメリダダンジョンを攻略していく。


 彼が何の敵であろうと片っ端からその龍槍でやっつけ、メリダダンジョンの二十九階にたどり着いて暫くすると、地面が振動すると共に一匹の巨大な怪物がやってくる。


「こいつは……アイツの情報提供やマニュアルには無かったモンスターだな」


 ポイズンサーペントと呼ばれる、その地上を這う巨大な蛇は普段はパルミッドダンジョンの四十階以降に現れるモンスターだ。その巨大な身体を使いこなし、一方的な攻撃を繰り出す攻撃力と、硬い鱗で被われたその防御力を破るには高い魔法やスキルを使いこなす必要があった。


 明らかにこのフロアで出会うには強すぎるモンスターとの接敵で、しかも情報不足で不利しかないこの状況では本来なら彼は戦うべきではなかったが、そんな事を気にする男ではヤミールは無かった。


 ヤミールは喜々として相手を迎え撃つべく「龍槍」を構えると、獲物を見つけ鎌首をもたげ、今にも襲い掛かろうとしているポイズンサーペントに立ち向かう。


「はん、喰らえ」


 先手を取ったヤミールの突きの連撃は、圧倒的強者である筈のポイズンサーペントの硬いはずの鱗を難なく突き破り、次の瞬間にはこのモンスターの動きは明らかに止まっていた。そしてその巨大な図体はズシンと音を立てて、横たえた。


「まぁまぁの硬さのヤツだったな。俺がこのメリダダンジョンの中であったモンスターの中じゃあ、一番だったな。ただ何処が討伐の確認部位か分かんねえし、ほっとくか」


 そう事もなげに呟き、ヤミールは残心を解くと、次の階層に向けて歩き出した。ポイズンサーペントの討伐確認部位はその巨大な牙で、プラチナランクの冒険者の武器の材料にもなる希少な物だったが、そんな事はお構いなく、彼はただ突き進んだ。


 二十九階への階段を見つけて、無事に降りた彼は今回はここまでとダンジョンリングに触れ、メリダダンジョンの一階に戻る。いつもの様にダンジョン調査部ダンジョン管理課の駐在員に軽く手を上げて、挨拶する。


「お帰り、ヤミール。無事で何より」

「あぁ、戻ったよ」

「今日は何処まで?」

「二十九階だよ」

「おいおい、スーパールーキー。半年で何処まで踏破記録を伸ばすんだ?エナミの担当冒険者はヤバい奴らばかりだな」


 軽く訊いたダンジョン管理課の駐在員は目を丸くする。当然ヤミールが何者かは把握していたが、軽くハイキングに行ったようなテンションで帰ってきた彼を見ると事前に知っていた情報と一致せず、ついつい確認してしまった。ヤミールは肩を竦めて、何とはなしに先程遭遇したモンスターの話をする。


「そう言えば、そのエナミから聞いてないモンスターが二十八階で出たんだけど」

「エナミから聞いてない?そりゃあどんな奴だった?」

「でかい蛇だったな、黒くて硬い鱗の奴」

「そりゃあ、お前、ポイズンサーペントじゃないか!!どうしたんだ、そいつを!!」

「えっ?倒したけど」


 緊急事態を他の冒険者に伝えなくてはと焦る駐在員に肩を掴まれ、揺すぶられたヤミールは呆気なく話す。駐在員の男は呑気な男の肩を掴んでいた手の力を抜き、ため息をついてから質問する。


「……倒したって、どうやって?」

「いや、槍で突いただけだよ」

「……やっぱりエナミの担当冒険者はおかしな奴ばっかりだな。どうせポイズンサーペントの討伐部位なんて持って帰って来てないんだろ?」

「あぁ、知らないモンスターだったからな、放っておいた」

「なんてこった」


 頭を抱える駐在員も放っておいてヤミールはメリダダンジョンを出ていった。そしてアルミナダンジョン国の都市部に戻ると、いつもの様にダンジョン管理事務局に行き、修練場へと向かおうとして制服姿の大柄な男に捕まる。







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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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