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閑話4 サーヤ・ブルックスは強くなりたい

 サーヤ・ブルックスはアルミナダンジョン国に帰ってきてから直ぐにその足で修練場に向かった。サーヤには自分がエナミの「海鳴りの丘」のダンジョン攻略で見せつけられた静かに戦う姿を目に焼きつけている間に、自分自身の力で試したい事があったからだ。


 修練場に彼女が降り立つと、周辺でトレーニングしていた王立アカデミーや国営冒険者アカデミーの人間は羨望の眼差しで見つめ、同業のプラチナランク以下の冒険者は嫉妬からそっと睨みながら舌打ちをしていた。


 サーヤはどちらの眼差しも気にせず、ダンジョンブレイクの時に見たエナミの「刹那」を思い出す。あれはオリジナル魔法だと王立アカデミーの彼の後輩である「ダンジョンマスター」ミヤ・ブラウンは言ったけれど、自分から見たら「始まりの七家」にのみ伝承されている魔法と発動までの流れに何ら違いを見なかった。


 逆に言えば、あの「刹那」と同じ魔法を自分にも使える可能性があると帰りの列車の中で分かった時に震えそうになった。自分にもあんな2000匹ものプラチナランククラスのモンスターを一瞬で亡き物に出来る魔法が使えると思えば、興奮を隠しきれなくなりそうだった。


 サーヤは修練場の片隅で瞑想できるスペースにて坐り込むと、自分自身の内面に向き合う為、目を瞑り、自身の中の魔力の流れを確認していく。


 元々彼女は小さい頃から活躍できるだけに魔力を扱うセンスは抜群に良く、「春雷」の二つ名を得る頃には魔力の流れを身体の細部まで認識出来ていたが、これから発動しようとしている魔法に関してはその程度ではどうにもならない制御のレベルだった。


 これから使おうとしている伝承魔法は一つの細胞を取り巻く魔力を感じるレベルでの制御が必要であり、彼女はそれを手に入れようと、まずは「神々の怒り」を発動する前段階をスムーズにこなせるように、静かにトレーニングに励んでいた。


 サーヤからすれば、エナミがこれを在学中にしかも2つの魔法を同時発動させるという方法で発見した事はそら恐ろしく感じるが、伝承魔法そのものを知らなければ、そのやり方にもなるだろう事は理解できた。


 エナミが「刹那」と名付けたこの伝承魔法は別の名前が付いているが、サーヤは自分も「刹那」の名で発動するだろうと予想ができた。何故なら元の名前が長すぎるからだ。


 魔法の発動は短ければ短いほど実戦では使いやすいのは誰にでも分かるし、何より名前がこちらの方がより格好良いとサーヤは瞑想しながら、魔力を身体中に駆け巡らせながら考えていた。


 アルミナダンジョン国に帰ってきてから最初の一ヶ月、彼女はひたすらに瞑想し、魔力の把握と循環の改善に励み、何とか「刹那」を発動させられるだけの魔力のコントロールを手に入れていた。


 これは当然エナミが「海鳴りの丘」でこの魔法を発動するのを、分析していた彼女自身の能力の高さによるものだが、それ以上に修練場でのサーヤの鬼気迫る感じを見ていれば彼女に努力できる才能がある事は分かったであろう。


 一ヶ月でそれ程の能力の伸びを見せたサーヤだが、本人はメリダダンジョンに入っていないだけに自分の力をまだ全く把握できていなかった。これはエナミが帰ってくるまではダンジョンに入らないという制約を自身に課してしまっている事からの弊害だが、誰もその事には気付かなかった。


 ただただ彼女はプラチナランク冒険者としては強くなりすぎ、オリハルコンランクに手が届くレベルになっていたが、誰もそこまで来てしまった事を分からないまま、次の一ヶ月も過ぎていた。


 この間に彼女は2つの魔法の同時発動も学習してしまい、エナミほどでは無いものの、スムーズな「刹那」の発動も出来るようになり、代名詞の「神々の怒り」に関しては制御も速度も古代魔法クラスの物に変わってしまっていた。


 当然、レラも修練場でトレーニングしていたので、二人が同時に修練場にいる事はあっても、全く顔を合わせる事は無かった。片隅で瞑想し、魔力の制御をするサーヤと、中央で武力の向上にひたすらに励むレラでは見ている物が全く違っていたのも影響している。


 レラもサーヤも二人ともエナミの側にいる為の努力だが、それぞれに自分の持ちうる能力に合わせて成長しようとしていたのは間違いない事であったが、その力の成長度の違いは残酷な迄に差があった。


 しかし、これはお互いの事を知らないからこそ起きた事である種の残酷さはあるが、二人とも成長した事は間違いない。


 エナミがサイテカ連合国からアルミナダンジョン国に帰ってくるまでの3ヶ月の変化として、レラも十分にプラチナランク冒険者の能力に手が届く迄に成長した事を考えれば、それは僥倖とも言える。


 そして彼女達二人の能力の違いが問題になるのは、これから起こるエナミがナランシェ連邦のスパイとして、アルミナダンジョン国に対しての国家反逆罪に査問委員会に問われるその場に二人が現れる事ではっきりするのであった。


 その問題がエナミに対してなのか、それともアルミナダンジョン国に対してなのか、それともナランシェ連邦なのか、それとも……


 ただ一つ分かっている事はエナミは自分が散々ライン地方で遊んでいる間に、彼女達が自分の努力で怪物じみた力を手に入れていた事を知らなかったという事だけだった。








 一つも会話が無いだと……


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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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