閑話2 ラミー・レバラッテは疑う
ラミー第三外交課課長はサイテカ連合国からアルミナダンジョン国に帰ってきてから、家族へのお土産が好評だった事もあり、上機嫌でいつも以上にお喋りが止まらなくなり、周りの第三外交課の部下達を辟易させていた。
当然それは部下達に留まらず、ダンジョン管理事務局で彼に会わざるを得ない者達は、皆警戒はしても諦めるしかなかった。何故ならラミーのお喋りはただの無駄口ではなくその才能から必要な事も話す為に、仕事上有益な事が多くあったからだ。
その為、ここ最近のラミーは外交課の仕事を頑張っているという設定で、周りは見ていた。そしてミヤ同様に「ダンジョン管理事務局人事部査問委員会所属グレン・オッペンハイム」の名刺を部下から渡されて、キョトンとしながらも大柄な男に差し向かいで会うのだった。
「やあやあやあやあ、このダンジョン管理事務局に勤めていても中々会えない君達査問委員会の方からやって来てくれるなんて今日は何かの記念日なのかね。違うかね?少なくとも僕は今日帰ったら家族には自慢するだろうからね。今日パパにとってはすごい日だったんだよ、我らがダンジョン管理事務局のレアキャラ、査問委員会の人に向こうから指名されて会えたんだよって」
「初めまして、ラミー第三外交課課長。お噂とご高名は兼ね兼ねうかがっております。私の事はオッペンハイムとでも呼び捨てにして下さい」
「そんなそんな、オッペンハイムさん。それは無理なお願いでしょ?なんせ査問委員会の所属という事は少なくとも課長クラスの役職ですからね。普通に僕と対等な立ち位置ですから呼び捨てなんてしたら気にしてしまいますよ?というかオッペンハイムさん、もしかして僕の事試してます?」
互いにニコニコしているものの、眼光鋭くやり取りをするラミーとオッペンハイムだったが、先に折れたのはやはりオッペンハイムの方だった。
「いやはや、「おしゃべりラミー」の噂以上に貴方は曲者の様ですね。もう少し御しやすいイメージでしたが、侮れないですね」
「何の噂かな?僕なんてうるさいくらいに喋るしか能が無いのはみんな分かっているとは思うけど。それより何の用で僕に話をしに来たんだい?天下の嫌われ者、査問委員会様が全く善良な公僕たる僕に対してなんの嫌疑をかけに来たんだい?」
「あぁ、ラミー課長。貴方に関しての直接の容疑とかではないのですよ。今回は別のダンジョン管理事務局の人間の行動の確認をしたくてこちらに出向いたんです」
オッペンハイムはラミーとのやり取りでも自分のペースを崩す事なく、話を進める。心当たりの全く無いラミーとしては誰の何を訊きたいのか検討がつかずに首を傾げた。
「僕の周りに君達査問委員会の対象になるような人間なんていたかな?それこそ、サイテカ連合国の領主達でも君達の眼鏡に適うのはシュテルンビルト卿位のもんだろう?ましてやこのアルミナダンジョン国の中でってなったら……」
「エナミ・ストーリーにナランシェ連邦のスパイ容疑がかけられています」
「エナミがナランシェ連邦のスパイ?何でまた?」
「ラミー課長、そこで貴方に確認したい事があるんです。これが私がここに貴方を訪ねた本題です。彼、エナミ・ストーリーがジエ・パラマイルとライン地方のイーストケープで会ってたのは事実ですか?」
非常に真剣な眼差しでラミーを見つめてくるグレン・オッペンハイムには強い威圧感があったが、全く気にしないラミーは首を傾げたまま、逆に質問してしまう。
「えっえっ?まさかあの一瞬の出来事を君等査問委員会は問題視してるって事?」
「はい。事実なんですか?」
「まぁまぁまぁまぁ、そりゃあエナミはあの時イーストケープの街の外れのスラム街にほど近いエリアでジエ・パラマイルと会っていたのは僕が現場にいたから知ってるけど、あれをもって彼とナランシェ連邦が繋がってると考えるのはよっぽどだと思うよ?僕にはエナミがナランシェ連邦の「魔女」と会ったのはあれが初めてだって間違いなく言えるし」
「彼らが初めて会ったって言う根拠は教えてもらえますか?」
「だって、ジエは僕が現場に行った時にはエナミの事を暗殺しようとしている現場で、その後は僕を認識してからは二人ともどうにかしようとしてたんだよ?スパイを他所の国で派手に外国の要人共々殺そうとする奴が外務大臣な訳無いじゃない?それに……」
「それに?」
「終始エナミは笑っていたよ。自分が暗殺されるのも、ナランシェ連邦の要人に会ったのも、なんて事は無いって顔でね。スパイだったらあんな豪胆な振る舞いをする訳無いよ。ましてや僕の「危険予知」が彼には全く発動しない理由を教えてほしいもんだね」
「……そこまでおっしゃるという事は、ラミー課長は全くエナミ・ストーリーを疑っていないと?」
オッペンハイムはギロリとラミーを睨んでしまう。ラミーはそんな査問委員会の人間に笑い転げてしまう。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッ、息が出来なくなるよ。もしかして僕を笑い死にさせるのが君等査問委員会の目的かい?それなら間違いなく効果は抜群だったよ。そうだね、エナミにこの国を裏切る理由が特に無いでしょ?彼なら簡単にこの国を手に入れる事も出来るのにしないしね」
「……貴方の評価を解説させていただくと、いよいよアルミナダンジョン国の国家転覆でも狙っている様に聞こえますが?」
「そんなの気分で出来るでしょ?あぁ、「異端なる者」がいるからちょっと時間がかかるかもしれないけど、あれも別にこの国の、いやダンジョン管理事務局については何とも思ってない節があるからなぁ……」
突然、国家危機クラスの情報を日常を語るように話すラミーに、オッペンハイムはつい恐怖心を覚えてしまうが何とか堪えて続きを確認する。
「では、エナミ・ストーリーとジエ・パラマイルには接点は無いと?」
「それは無理だろうね。あの後も僕はエナミと話したけど、僕の才能は囁いていたよ。これからエナミがナランシェ連邦で危険に巻き込まれるってね」
オッペンハイムにとっては決して聞きたくない答えだったかもしれないが、ラミーは朗らかに答えるのだった。
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