エピローグ エナミはちゃんと報いを受ける
今回で三章は終わりです。後書きは長々と書いてあります。
ダンジョン調査団の中では少しの間一緒に残っていたミヤが帰った後も、なんやかんやとライン地方を3ヶ月に渡って満喫したエナミは、ようやくイーストケープの駅から列車に乗って帰国の途につこうとしていた。
荷物に関しては自身の「収納」で十分に仕舞えるだけのお土産を持ってきており、自身の魔法で必要な処置も施し、万全の準備で帰ろうとしていた。
当然その間にはダンジョン「海鳴りの丘」がダンジョンブレイクを再発させる事無く落ち着いているかの確認といった雑務もあったがあくまでも雑務の範囲内でしかなかった。
ダンジョン管理事務局に入局してから十二年以上に渡って休む事無く働き倒していた自分の半生を、確りと振り返る時間を得たエナミとしてはこんな事は二度と無いかもしれないと後ろ髪を引かれる思いで、見送りのライアンと喋っていた。
「やっぱりアルミナダンジョン国に帰らないと駄目かな、ライアン?」
「そりゃあそうだろ。向こうにはお前を待っている奴が沢山いるだろう?こっちの「海鳴りの丘」はもう問題がないのは十二分に判明したからな。それに俺はお前と昔話をするのには飽きたからな。領主としての仕事もちゃんとしなきゃいけないし」
「お前は相変わらず薄情で冷たい奴だよ」
「エナミに対してはな」
ライアンとエナミは二人して列車の中と外で笑い合う。これからは暫く会うことも無いであろう旧友は笑顔のまま別れを告げる。
「エナミ、今回は本当に世話になった。お前がいなかったら、こんなにもスムーズにダンジョンブレイクは解決しなかっただろう」
「止せよ、ライアン。俺には最高のバカンスだったよ。ダンジョンブレイクの解決はオマケだよ」
「……俺が言うほどの事じゃないけど、アルミナダンジョン国では気を付けろよ。今回の出来事でサイテカ連合国とナランシェ連邦がお前を認識したのを、ちゃんと分かっている筈だろうからな」
「分かってる、今の俺にはちゃんと鈴が付いてるからな」
「……そうか。まぁ、お前が分かってるならいいさ。じゃあな。マリーには手紙を出しておいたから。お前のこっちでの近況もよく分かるだろうさ」
「本当にそういう事は抜かりないな。じゃあな。また来るよ。今度は完全にダンジョン関係の仕事抜きでな」
ライアンとエナミが握手をして、手を離すと二人の別れの挨拶を待っていたかのように駅のホームで発車ベルがなり、イーストケープの駅から列車が動き出す。ライアンは去りゆく列車を見ながら、ホームから出ていくまで手を振っていた。
「……お前が思うようには世界は動かないぞ。エナミ」
そう呟くと、ライアンは公務に戻る為に、イーストケープの駅から颯爽と去っていった。
一方で駅から順調に離れていった列車に乗り、しばらくの間、特別室の車窓からの景色を見ながら、ライン地方を惜しんでいたエナミにドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼します。エナミ様」
特別室のドアを開けたジョージ・タナカがさも当たり前の事のようにエナミの対面のソファーに静かに座る。
「やっぱりタナカさんが僕の鈴だったんですね。いつからサイテカ連合国にやって来たんですか?」
「あぁ、アルミナダンジョン国にレラさんが帰国されるのと入れ替わりですね。やはり管理職の警護がエナミ様には必要ですから」
「だとすると申し訳無いですね。僕があまりにも気にせずライン地方で遊んでいましたから、醜態を晒してたんでは?」
「そんな事は無かったと思いますよ。エナミ様の遊びはあくまでも常人の範囲内ですから」
タナカはライン地方に来てからちゃんとエナミを監視していた為に、彼が本当に何の違法行為もせずにノンビリと普通にリラックスしていた姿を見ていた。
普通に飲み屋で管を巻く姿や酔い潰れるのを微笑ましく思い出しながら、普段どれだけアルミナダンジョン国では監視下に置かれてプレッシャーを受けているかを思い出していた。その為、ついつい余計な事を訊いてしまう。
「エナミ様はアルミナダンジョン国に戻りたくないのでは?」
「タナカさん、急にどうしたんですか?警護役兼監視役がそんな事言うなんて」
「すいません、あくまでも個人的な質問です」
「……うーん、そんな事は無いですよ。ただ仕事が待ってると思うと憂鬱なだけですね。まぁ、こんだけ遊びましたからね。仕事をしないと身体が鈍りそうですけど」
苦笑しながらも、サラリとタナカの質問を躱すエナミはまた車窓を眺める作業に戻ってしまう。それからも二人は会話を交わす事はあれど、アルミナダンジョン国に着くまでに本音での会話は一度もする事は無かった。
数日かけての列車での帰国の旅も大きなトラブル無くアルミナダンジョン国に戻ってきたエナミは、駅に着いて早々にその足でダンジョン管理事務局のダンジョン攻略課に顔を出した。
特段報告する事も無く、翌日でも良かったがお土産も「収納」で持っている為、気持ちを軽くする意味でもダナン達には挨拶をしているおきたかった。
制服には列車内で着替えていた為、外回りからの戻りの様な気軽さでダンジョン攻略課の入り口から挨拶をする。しかし、何故か同僚達はエナミを見ると瞬時に目をそらし、作業に戻っていった。
エナミはバカンスでのんびりしていたからしょうがないかと気楽に考え、ダナン課長が待つ奥のデスクへと向かい、挨拶をする。
「エナミ・ストーリーただいま戻りました。長期の休暇ありがとうございます」
ダナンはいつもの様に阿修羅像を後ろに出し、肘を机に置き手を顔の前で組んでいた。阿修羅像の表情は何故か冷酷さが前面に出されていた。
「エナミ君、ご苦労様。ライン地方での活躍はダンジョン調査団の報告で聞いているよ。良くやってくれた。ただ、私は別件で君を長い事待っていたよ」
「別件ですか?他に何か有りましたか?」
エナミはバカンス以外の件については何も考えずに帰ってきていた。ダナンはジロリとエナミを見る。
「エナミ君、君にナランシェ連邦のスパイとして国家反逆罪の容疑がかかっている。これから査問委員会の調査と決議があるから、それまで自宅待機するように。対応は私の方から追って知らせる。なお逃亡する様な事があれば、指名手配があるからそのつもりでね」
「はっ?」
エナミはただ呆然として、暫くの間ダナンのデスクの前から動く事は無かった。
いかがだったでしょうか?
第三章はエナミがバカンスで良い目にあったバチが当たった感じの終わりで最後になります。
ここまで拙作を読んでいただきありがとうございます。
第三章のあとがきっぽい事を書くと、非常に難産でした。繁忙期の仕事との兼ね合いで何度か急に休んでしまい申し訳ありませんでした。何とか完走しましたが、正直この手の緩い話の流れは苦手で、何処に着地点を作るか非常に悩まされました。なので満足出来る章とは言い難いので、これから仕事が落ち着いたら修正していくと思います。
ただ、文章力が拙い私自身の問題も多分にあると思いますので、どうかご容赦を。
今章は普通にイベントが起こるであろうタイミングでちゃんと進んだので、スムーズに進行したかと思います。それでもストレスを感じられるようでしたら申し訳ありません。作者の力不足です。他の方の作品を読まれる事をお薦めします。
第四章はこの流れでナランシェ連邦との話です。大体のイメージは考えていますが、勢いで書き始めた作品なので、また更新で修正やら追加やらが色々と入るかと思います。気になる方は更新日を見ていただければ、どこで作者が躓いているか分かると思います。
この後、明日は休みますが、またすぐに間章に入って、ちゃんと話も進みますので、タイトルに騙されて軽く読み飛ばす事の無いようご注意を。また第三章までの登場人物紹介が9月30日に入りますので、そちらもご確認下さい。
こんなバタバタな作品ですが、もし気に入ったら、ブックマークや評価をいただけると文筆の励みになります。最近は読んでいただいている方が増えて嬉しい限りです。実際に評価や感想いただいてる方々も本当にありがとうございます。まだまだ続くと思います。
ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、本当に、本当に、本当に感謝しています。