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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第ニ十九話 エナミは空気を読まない 4

 ラミーに領主館の一角にある天幕に誘われて、エナミら三人も続けて入っていくと先程挨拶したムスカリ以外にも何人か同じ地方方面軍の軍服を着た面々が待ち構えていた。


 三人が天幕に入って、入り口の幕を閉めるとムスカリが彼らをジロリと初めてちゃんと見て、ラミーに声をかけてくる。


「ラミー殿、彼らでアルミナダンジョン国のダンジョン調査団は全員ですかな?」

「そうですね。ライアン様に事前にご案内したメンバーを用意して来ましたので、これ以外は来ませんし、追加要請の予定もございません」

「ほう、随分と自信がお有りのようですな」

「そうですね、そこはアルミナダンジョン国らしく少数精鋭とお考えいただければ……。それに今回はダンジョンブレイクの早期解決と知らされましたから、急を要しましたしね」


 ラミーは肩を竦めて、ムスカリが言葉と態度でかけてくるプレッシャーを軽くいなしながら、笑顔で話の続きを促す。彼ら地方方面軍の面々はその姿勢に段々不穏な空気を発してしまっていたが、それでも領主が迎え入れた人間に最低限は言い繕うだけの度量を見せる。ムスカリは何とか笑顔と呼べる表情で続きを話す。


「まぁ、我々としては今回のダンジョンブレイクに対して十分な準備が出来ていると自負しておりますが、態々アルミナダンジョン国から遠路遥々サイテカ連合国の最東端であるイーストケープまで来ていただいたんですからな。こちらが作成した「海鳴りの丘」のダンジョンブレイク調査の資料を検分いただけますか?」

「ムスカリ殿、ありがとうございます。早速それぞれ担当が検分しますね」


 ムスカリから受け取った調査資料をラミーは右から左へ流れるようにミヤに渡す。受け取った資料は50枚を有に超える枚数だったが、彼女は30秒程度パラパラと捲ってため息をつくと、後ろでボンヤリしていたエナミに渡す。


 エナミはボンヤリとしたまま受け取った資料を見るが、段々と焦点が合わさっていくと肩が自然と震えていた。ムスカリはそんな態度を一切気にせず、先に資料を見たミヤに声をかける。


「いかがですかな、えっと……」

「ご挨拶が遅れました、ムスカリ殿。アルミナダンジョン国でダンジョン管理事務局でダンジョン調査部ダンジョン調査課調査主任をしていますミヤ・ブラウンと申します。以後お見知りおきを」

「あぁ、貴方があの「ダンジョンマスター」ですか!!お噂は兼ね兼ね」


 ミヤが名乗ると態度を一変させるムスカリ達だったが、そんな事は歯牙にもかけずに彼女は資料への疑問を述べる。


「この資料には全くダンジョンブレイクに対して必要な情報がありませんが、どなたが纏めたものですか?」

「はっ?」

「聞こえませんでしたか?それとも理解できてないのかしら。この資料は我々が5年前程に編纂して、近隣の各国に提出した「ダンジョンブレイクへの対策ガイドライン」を全く守られて無いのですが、どなたが作成されたものですか?」

「……私達が総力をあげて纏めたものだ」

「分かりました。では皆さんの中でウチが作成した対策ガイドラインを知ってらっしゃる方はいらっしゃらなかったんですか?」

「……その様な物がある事は我々は知らなかった」

「お話になりませんね。この資料では現時点で我々はダンジョンブレイクの概要すら把握できていない事だけが分かりました」


 屈辱にまみれた顔で俯くムスカリ達にミヤはため息をつくだけにして、エナミに視線を送る。肩を震わせて資料を見ていた彼はついに我慢の限界を迎えた為に吹き出して、笑い転げてしまう。


「ハハハハハハハハッ、今時こんな古い書き方で書面一つで俺を殺すつもりかよ。こんなの王立アカデミーの悪い見本でも使えない書内容と書式だぜ。ライアンは良くこれを見て指摘しなかったな?いや俺等任せに最初からするつもりだったから、丸投げか。いつも笑顔だけど、部下にも厳しい奴だな」

「ぐっ、貴様、一体何者だ!?そこまで我らと領主様に好き勝手言って、ただで済むと思うなよ!!」

「はっ、こんな酷い旧時代のメモ書き一つでさっき迄散々自慢げにしてた奴が言う言葉とは思えないが、まさかムスカリ殿は俺を挑発したのか?良いぜ、俺はその喧嘩買ってやるよ」

「舐めるのもいい加減にしろよ。その言葉後悔させてやるからな!!」

「舐めてるのはどっちか分かってないな?まさか今だに俺が誰だか分かってない事は無いよな?因みに俺を相手にしたければ、ここの地方方面軍をみんな出して来いよ。それでも足りないが、力の差は分かるだろうさ」

「貴様の名など知る筈も無かろうが!!」

「そうか、無知は罪って知ってるか?お前みたいな奴を言うんだよ。なら俺は馬車で鈍った身体を温めるから、失礼するよ」


 ムスカリが天幕から楽しさげに出ていくエナミを睨みつけて見送ると、ラミーは相も変わらぬ笑顔で声をかける。


「ムスカリ殿、心からのアドバイスですが本当に彼と手合わせするなら、ここの警備の人間以外はみんなでやるべきでしょうね」

「……ラミー殿は身内びいきですな。彼がそこまで強いと」

「はい、今回のダンジョン調査団で彼が最大の戦力ですから。因みにここに連れてきている人間は最低限でもゴールドランクの冒険者相当ですが、彼は頭2つ抜けてます」

「それほどであると信じろと?」

「いえいえ、あくまでも私が出来るのはアドバイスだけですから」

「……ならばそんな彼がこの手合わせで不慮の事故を迎える様な事はありえませんな?」

「万が一にも」

「ラミー殿、その言葉、努々忘れられるな」


 歪んだ笑顔で天幕を出ていくムスカリを変わらぬ笑顔でラミーは見送った。







 

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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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