第ニ十八話 エナミは空気を読まない 3
エナミは先に降りたライアンに引き連れられながら、目の前の自信満々に近寄ってきたマッチョな集団に対して醒めた目をして、上から下までゆっくりと観察した。
彼の冒険者相談窓口としての見立てでは、彼らは明らかにアルミナダンジョン国の五大ダンジョンならシルバーランクの冒険者程度の戦闘能力で、しかもどのダンジョンでも二十階を過ぎた当りで苦戦しそうな程度の能力と判断してから、ライアンに声をかける。
「これがさっき馬車で言ってた奴らか?」
「そうだね。彼らが「海鳴りの丘」のダンジョンブレイク解決に同行させて欲しいって言ってるライン地方の地方方面軍のメンバーの代表だね。ムスカリ、こちらが今回のアルミナダンジョン国のダンジョン調査団の方々だ」
「領主様、紹介ありがとうございます。私がこのライン地方方面軍のダンジョン管理の代表をしているムスカリと申します」
ムスカリは領主であるライアンには非常に丁寧な対応をするものの、ダンジョン調査団の紹介を受けたエナミ達にはおざなりな態度で握手を求めてきた。
その事自体が既に地方方面軍のエナミ達への評価を表していたが、それでもラミーは何も気にしていないかの様に爽やかな笑顔で握手を交わして対応する。
「宜しく宜しく、ムスカリ殿でいいかな?僕がこのダンジョン調査団の代表の、アルミナダンジョン国のダンジョン管理事務局第三外交課課長のラミー・レバラッテです。ラミーと呼んで下さい」
「丁寧にどうも、ラミー殿。では他の方々は追々挨拶してもらうとして、こちらの領主様に用意してもらったダンジョンブレイク対策室で、情報共有といきましょう。領主様もそれで構いませんか?」
「構わないよ。君等が上手くやってくれて、このダンジョンブレイクを早期解決してさえくれれば何の問題も無いさ」
「分かりました。ラミー殿、ではこちらへ。付いて来て下さい」
ムスカリは挨拶を交わしたラミー以外のエナミ達、他の面々には歯牙にもかけない態度で、ライアンに確認し、振り返るとそのまま領主館の敷地の一画にある天幕へと向かっていった。ラミーとレラは彼に遅れないように付いていった。
他のマッチョな同じ軍服を着ていた面々もムスカリに付いて天幕へ入っていくかと思いきや、ニヤニヤしたまま遅れて付いて行こうとするエナミに声をかけてくる。
「おいおい、お前みたいなひょろひょろガリガリの奴がダンジョンに入るだなんて、何かの冗談か?それともお前は事務屋かなんかか?」
「あぁ、俺はダンジョン管理事務局の人間だが、今回は長期休暇で知り合いの所にバカンスに来ただけだ。ダンジョン調査団とタイミングが合ったから同行しただけで、俺の事は気にするなよ」
「あぁ、舐めてんのか!?」
「いやいや、事実を言っただけだ。本当に俺はダンジョン調査団に付いて来ただけで、別枠だ。それにあんまり俺には構わないほうが身のためだぞ?」
「どういう意味だ!?」
「俺の知り合いはそこにいる領主のライアンだからな」
「えっ、ライアン様の知り合い!!お前、卑怯だぞ、黙ってたのか!?」
「卑怯って、ライアンと一緒に歩いて話してたんだから、普通気付くだろ……」
「くそッ、行くぞ。お前ら!!」
馬車から一緒に出てきたのだから明らかに分かりそうなものだが、取り敢えず挑発してマウントを取ろうとする頭の悪さから動揺する兵士達はムスカリが入っていったのとは別の天幕へと去っていく。
ため息をついて謝ろうとするライアンに手を振り構わないと合図をしていると、もう一台の馬車から降りてきたミヤが苦笑しながら近づいてくる。
「先輩またいつもの絡まれ役ッスか?学生の頃から変わらず、神様はどうしても先輩をそういう星の下で活動させたいみたいッスね」
「分からんけどな。ああいう程度の低い輩がのが向こうから必ず寄ってくるって事は、俺にも連中を引き寄せる何らかの元凶があるんだろう。しかし、俺はちゃんと事実を言ったのに何だか向こうが勝手にヒートアップしたのは彼らの知能レベルに問題があるとしか言えないけどなぁ」
「……やっぱりしょうがないッス。前から変わらない先輩の滲み出る興味無い人への対しての態度の悪さが原因ッス。マリーさんからいつもいつも何度も注意されてもそれは変わらなかったッスから」
「あぁ、マリーはクドクド言ってたのは覚えてるけど、俺にはその態度の違いが分からなかったからなぁ…。まぁ、アイツラにはここまで付いて来ただけって言ったけど、俺もこのままダンジョン調査団に同行するけどな。ダンジョンブレイクに俺が必要なのは間違いないしな」
「……先輩は天罰でいつか誰かに刺されたら良いっす」
「エナミ、ミヤ、久しぶりに王立アカデミーの頃のテンポのいいやり取りを見せてもらって、このまま懐かしんでいたいのは山々だが申し訳ない。どうやらこれからは仕事の時間みたいだ」
二人の会話の切れ目で、ライアンは二人を制し、天幕へと注意を向かせる。その視線の先では先に天幕へと向かっていたラミーが振り返り、天幕の入り口でこちらに手招きしてくる。
エナミとミヤの二人は少し離れて横にいたサーヤを連れて天幕へと向かっていった。
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