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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第二十七話 エナミは空気を読まない 2

 四人を乗せた馬車がイーストケープの領主館に着いた時、後ろの馬車に乗っていたミヤとサーヤはスッカリ仲良くなっていた。


 元々ダンジョン好きの二人の共通の話題は非常に多く、エナミ以外の人でもこんなにダンジョンについて話せる内容があったのかとサーヤは嬉しく思いながら、「ダンジョンマスター」ミヤとの限られた時間を楽しんでいた。


「そう言えばミヤさんはどうしてダンジョン調査部にずっといるのですか?」

「う~ん、私の才能「マップ作成」はサーヤさんも知ってると思うけど、これって王立アカデミーに入った時は使い方がよく分かってなかったッス」

「そうなの?」

「そうッス。自分で言うのもなんだけど、入学した時は成績は良くてもイマイチ自分の方向性が分かってなかったから、実習で苦労してたッスね」

「エナミさんにはいつ会ったの?」

「先輩は1年で王立アカデミーの単位を取れる分は全部取ってたから、図書館と修練場とダンジョンに張り付いてたッス。だから名前は有名だったけど、姿が見えないオバケみたいな存在だったッスね。そんな先輩も後輩との共同実習には出てきたッス」


 エナミとの出会った当時の事を思い出しながら、ミヤは何故か苦い顔になっていた。怪物級に凄いという噂以外、何も知らない自分の前にやってきたエナミ・ストーリーは、噂以上にぶっ飛んだ存在だったからだ。


 彼はミヤ・ブラウンに会うなり、挨拶もそこそこに「あぁ、君が人間地図製造機か。付いて来なよ、今までとは違う世界に連れて行ってあげるから」


 そうエナミは言って、まだ王立アカデミーに入学して3ヶ月程度だったミヤをいきなり五大ダンジョンの三十階に連れ回し続けた。


「ミヤさん何だか過去のトラウマでも見たような顔をしているけど、その共同実習の時は何があったの?」

「……言いたくないッス。あんな嫌な怖い事をさせられたのは、後にも先にもあの時以外ないッス」

「でもそのおかげで貴方の才能が花開いたんでしょう?」

「それがあのエナミ先輩のいやらしいところッス。あの経験で周りにも自分にもこの力がどんなものかを知らしめたおかげで、自分に対しての王立アカデミーの中での評価が爆上がりになって、自分の人生の方向性が急に決まったッス」


 今となっては感謝しきりとしか言いようがないエナミとの共同実習の体験だったが、当時は自分の強大な才能を理解出来ずに振り回されていたのが、彼の指示で嘘みたいに五大ダンジョン内で制御出来ていた事に恐怖を覚えていた。


 何故エナミがミヤ自身ですら上手く使いこなせなかった才能「マップ作成」をどう使えば良いのかアドバイス出来るのかなんて、ダンジョン内で「これでダンジョン攻略がさらに劇的に進む!」と興奮してはしゃぐ彼の横で、頭の中は疑問符だらけになっていた。


 そうして何だかんだとダンジョン内外でのトラブルに見舞われながらも、彼と一緒にダンジョンで過ごしている内に、自分の周りにマリーやライアンがいる事が当たり前になっていた。


 自分の同級生には溢れ過ぎる才能を持つ者として恐れられ、避けられながらも、非常に居心地の良い空間を王立アカデミーの中で構築出来ていた。


 彼ら三人が卒業して、自分の周りから守ってくれていた壁がスッキリ抜けてしまったミヤの最終学年はとても穏やかで、しかし退屈なものだった。


 だからこそ彼女は自分の進む道をダンジョン管理事務局に決め、その中でも自身の能力を最大限発揮出来るダンジョン調査部の配属を望んでいた。


 このミヤ・ブラウンの進路選択の望みにはダンジョン管理事務局の上の方も歓迎以外、何も言うべき言葉は無く、王立アカデミーからダンジョン調査部にすぐにでも着任してもらう為に、戦闘実習の彼女専用に教官として第一保安課から人を派遣した程の期待値だった。


 そしてその教官のシゴキにも難なく耐えて戦闘能力も身に付けたミヤ・ブラウンは、王立アカデミーから卒業してすぐにダンジョン調査部の配属になった。


 そのまま配属されて3年も過ぎた頃にはアルミナダンジョン国の五大ダンジョンの「ダンジョンマスター」として、周辺国でもダンジョンに関わる者で知らない者はいない名声を手に入れていたのである。


 その代償として、彼女もエナミ同様にダンジョンに魅入られた者と誹られてしまったがこうして余所の国のダンジョンにすら行けるようになるならそれもそれで構わないと、やはりダンジョンに狂っている者はおかしな考えで、サーヤに話しかける。


「それでサーヤさんはどうしてエナミ先輩なんかと仲良くなりたいんスか?暫く一緒にいるから分かると思うッスけど、あの人は変人すよ?」

「それは……何でなんでしょ?確かにエナミさんは変な所があるけれど、とても純粋な人だわ」

「確かにそこは間違いないッス。でもその純粋さもダンジョンにしか興味が向かないからサーヤさんの扱いは悪いままッス」

「フフ、私の方にちゃんと向かせますわ。今回はその大事な初めの一歩になるの」

 

 サーヤの自信に溢れた笑みは同性のミヤから見てもあまりにも魅力的に映ったが、こんな綺麗な教養ある人でも、あんなダメ人間に引っ掛かってしまってはどうしようもないなと、領主館に到着した馬車を降りながら、彼女に見えないようにそっと首を振りながらため息をついた。


 そして、馬車を降りた先で明らかにライン地方の兵士と思われる同じ格好をした一団がエナミをニヤニヤしながら挑発しようとしているのを見て、もう一度ため息をついた。







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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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