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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第二十五話 ライアン・ヒューイット

 男女それぞれにライン地方への列車の旅を楽しんでいた時間はあっという間に過ぎ、ライン地方の終着駅、イーストケープに辿り着いた。


 その駅名の通りに、ここは中央大陸の東の果てとして知られており、岬にある灯台は大事な航路を照らし続けていた。


 そんなサイテカ連合国の東の終着点のイーストケープの駅でソワソワしながらも楽しそうにエナミ達を待ち構えていた、若きライン地方を治める領主、ライアン・ヒューイットについて先に紹介しておく。


 彼は元々父親であるクラーク・ヒューイットに領主をサポートする候補として広く世界を勉強をさせる為にアルミナダンジョン国の王立アカデミーに留学に出されていた。


 当時は次男の自身がヒューイット家の跡取りになるとは思いもしていなかったライアンは物見遊山の軽い気持ちもあって、アルミナダンジョン国の王立アカデミーへの留学は楽しみでしょうがなかった。


 サイテカ連合国の中にいては見られない景色や見識を得られる可能性が高い為に、喜んで留学に行く事を了承したライアンは、羨ましげだった長男のトーマスを差し置いて列車の旅で、アルミナダンジョン国へと向かっていった。


 そのライアンの期待に違わぬ体験は間違いなくアルミナダンジョン国で待っていた。何より入学した時の首席で、自分の席の五つ隣にいたエナミ・ストーリーを入学者代表挨拶で見た時に、その思いが確信に変わった。


 何せあのサイテカ連合国の物語に「平和の象徴」として出てくる筈のストーリー家の人間が、実在してそこにいるのだ。これ程興奮する話が他にあるだろうか?ライアンはその挨拶を見た時に彼とは必ず友達になろうと心に決めていた。


 その為に王立アカデミーの入学式が終わった後、アカデミーの寮へと向かうエナミにライアンが早々に声をかけたのは自然の流れだった。


「君が首席のエナミ・ストーリーだね。僕は5席のライアン・ヒューイット。隣国のサイテカ連合国のライン地方から来たんだ。宜しくね」

「宜しく、ライアン・ヒューイット。君をライアンって呼んでも良いかな?」

「あぁ、僕もエナミって呼んでも良い?」

「勿論だとも」


 この時、笑顔で握手した二人はその後3年間、王立アカデミーを卒業するまで親友として過ごしていた。


 お互いに自身の家柄の事など気にせずにいる変わり者の彼ら二人に、気がつけば次席で入学した筈の「始まりの七家」マリー・カルフロールが加わって、三人で行動する姿が卒業するまで見られた。


 あり得ないくらいのダンジョンへの欲求を満たそうとするエナミを、何とか普通の学生として必要な単位を取らせて卒業させようとするライアンとマリーのコンビは常にとても大変そうにしていた。


 エナミがストーリー家として純粋にどういう行動をするかに興味があったライアンと、エナミ自身の破天荒さに振り回されていたマリーでは立場が若干違ったが。


 こうして王立アカデミーを卒業する時には能力的にも、精神的にも非常に成長していたライアンは兄であるトーマスを支えようと入学した時と同じ様に、列車に再び乗り母国へと帰っていった。


 しかしライアン自身がヒューイット家の領主館に帰った時に待っていたのは、クラークとトーマスの急死の知らせと、自分がライン地方の次期領主として指名されるという全く想像していない未来だけだった。


 それから早十年以上も経ち、何とかこの地の領主として周りの領主達にも認められる様になってきた矢先に、このダンジョンブレイク問題が降って湧いてきた事を彼は自身の運の無さを呪いつつも、こうして親友に会える喜びの方が勝っていた。


 そんな彼の待つイーストケープの駅に、漸く列車が入ってきた。アルミナダンジョン国のダンジョン調査団の5人が列車から降りてくるのを確認したライアンは、自らエナミの方に近づいていく。


「エナミ!!久しぶりだね!!アカデミーの頃と変わらないな」

「よう、久しぶり。俺は何も生活変わってないからな。お前の方はすっかりライン地方の若き領主って顔だな」

「まぁね、君と違って好きな事だけしてる訳じゃないから。領主になってこの十年以上は自分自身の楽しみの為の時間なんて無かったからね」


 王立アカデミーに留学していた時とは明らかに雰囲気が違い、成熟したライアンに感心していたエナミだった。


 しかし、彼の目元に小さな皺やくっきりとある隈が出来ていたり、草臥れた様に苦笑する姿を見て、自分のダンジョン管理事務局での仕事を思い出してはエナミはその苦労の差を感じざるを得なかった。


「それで?君がこのダンジョン調査団のトップなのかい?」

「まさか!!俺はあくまでもここで長期休暇を過ごすから、おまけみたいなものさ。今回はお前が前にあったラミー第三外交課課長がトップだ。後はお前も知ってる後輩のミヤ・ブラウンがダンジョン調査を、サポート戦力としてはこちらのプラチナランク冒険者のサーヤ・ブルックスと第一保安課課長補佐のレラ・ランドールが担うって感じだな」

「宜しく頼むっていうか、これだけ揃っていると過剰な戦力じゃないか?俺もアルミナダンジョン国には3年いたんだ。この面子がどれだけのものかは他の領主以上に分かっているつもりだ」

「まぁ、今回はさっさと終わらせてラミーさんは帰るつもりだし、俺はゆっくりと長期休暇を過ごすのさ。ライアン、早速「海鳴りの丘」に向かおう!!」

「お前は本当に変わらないな……」

 

 周りがライアン同様に呆れているのを感じてないかのように、意気揚々とイーストケープの駅を出ていくエナミを彼らは苦笑しながらゆっくりと追いかけていった。










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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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