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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第二十話 合流と混乱と 3

 二人は客室で荷物を亜空間に仕舞っていってあっさりと旅支度を終えると、執事から領主のナムト・レインハートから預けられた書面を受け取った。


 その書面を亜空間に仕舞った二人は領主館の前に、レインハートが待たせていた領主の馬車に乗り込み、ワラジアン地方の領都であるミシャールの街の中央通りを駆け抜けさせていった。


 当たり前の事だが、このサイテカ連合国の列車は彼ら領主の都合で駅に留まる時間はまちまちになる為、遠くになればなるほどアルミナダンジョン国みたいな正確な停車時間が想定出来ない。


 つまりはこうして領主の馬車を駆けさせ、出発の予定時刻にミシャール駅に二人が着いても結局は暫く待たなくてはならないのは自明の事だった。


 それでもこうして領主の馬車で駅に着けば、待ち構えた駅の職員達からは出発迄は両手をあげての饗しを受けるのだから、ある程度の意味がある事だった。


 ミシャール駅の駅長自ら案内された特別室では退屈しなくて良いようにと、上等なお茶菓子と紅茶が用意され、座り心地の良い快適なソファーが待っていた。


 サーヤはいち早くふかふかのソファーに腰掛けると紅茶をポッドからティーカップに注いで、優雅に足を組んで匂いを一頻り楽しんでから一口飲む。


「あら、思ったよりも上等な葉を使っているみたいね」

「サーヤ様、それはこのワラジアン地方に失礼かと思いますよ?この地方は水も良く、植生も豊かなんですから、この手の商品はハイブランド化してるものが多いのですから」

「そうね。父もこの手の商品は売買しないから、私もそんなには詳しくないけど、兄達はワラジアン地方のものを気に入って、良くプレゼントに使っているわ」

「まぁ、商人達からすれば何処でよりも値段が高いかが大事なんでしょうが、ワラジアン地方には非常に美味しいものが多いですからね。今朝の食事も基本的には地元の物ばかりでしたし」

「あら、わざわざ「鑑定」の魔法でも使ったの?」

「いえいえ、そんな面倒くさい事しなくても執事がそう言ってましたからね」


 苦笑いしながらも、エナミも紅茶を注いだカップをゆっくりと口元に近づけて香りを楽しんだ。旅の出発には最高のシチュエーションだと思いながら、彼もゴクリと一口飲む。


「それにしてもいつ頃ライン地方行きの列車はやってくるかしら?」

「そうですね。こればかりは領主様達の思い一つですからね。ただミシャール駅まではそう大きな駅も領地も無かった筈ですから、遅れても2時間迄では?」

「分かったわ。じゃあ、それまでは貴方を独占出来るのね」


 サーヤは対面のソファーに座っていたエナミの横に座り、彼の上半身に身を預ける。エナミからベルガモットの軽い香水の匂いを感じ取りながら、この旅のパートナーとの独占時間の嬉しさに身を委ねる。


 エナミはそんなサーヤの態度に魅了されるというよりは、これからの旅で揉めない事を優先して紅茶を楽しみながら彼女のなすがままにさせていた。


 その為に列車が実際にやってきた1時間半後には、非常に満足げなサーヤと少し草臥れたエナミが特別室から出てきた。


 駅に滑り込んできた列車が間違いなくライン地方に向かうものと駅員に確認して、二人はほぼ手ぶらのままで列車に乗り込む。中では乗務員が二人を待っていて、エナミがナムトからもらった書面を見せると、笑顔で列車の中を先導する。


「どうぞ、こちらの特別室をお使い下さい。普段はレインハート様の様な領主の方々が使う部屋になりますので、セキュリティーもプライベートも魔法とスキルで確保されております。食事に関してはルームサービスでも食堂車でも食べられますので、ご利用の際はこちらの直通電話にて我々乗務員に連絡して下さい」

「案内ありがとうございます。では」

「どうぞ、素晴らしい旅路を」

 

 二人は笑顔で挨拶して立ち去っていく乗務員を見送ると、特別室の内装を一頻り眺めて窓側の席に対面でつく。列車が動くのを確認し、少しリラックスしてから会話を始める。


「それにしてもサーヤ様、こんないい思いばかりしても良いんですかね?」

「フフ、今回の旅で知りましたけど、エナミさんは案外繊細な所が有るのね。貴方のダンジョン攻略課での普段の振る舞いからは到底想像が出来ないわ」

「そうですか?やっぱり今回の旅に浮かれているかもしれないですね。まぁ、これでライン地方にようやく辿り着けると思うと気分も上がっていますけど」


 車窓からはワラジアン地方の高原が全面に広がり、二人の視線を独占する。暫くの間は沈黙が二人の間におりるが、それはとても心地の良い時間だった。


 しかし、エナミ・ストーリーの人生にはそんな穏やかなだけの時間が続く事など到底許されないという呪いの様なものがあり、トラブルは勝手に向こうから頻繁にやってくる。


 コンコンッと軽く特別室のドアがノックされた音が車窓からの景色に見惚れていた二人を現実に引き戻し、返事をする。


「はい、どちら様でしょう?」

「その声は……開けてもらっても?」


 エナミは彼自身が良く知っている筈の声が底冷えするような冷たい怒りを声色にして聞こえた為に、特別室のドアを開けに窓際の席から離れる。そして、特別室のドアの鍵を開けると、向こうが勝手にドアを開けた。


「やっぱりエナミ先輩。会いたかったです」


 エナミは普段からよく見慣れているはずのレラ・ランドールの満面の笑みに寒気を感じざるを得なかった。








 次回は修羅場。


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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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