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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第十六話 エナミは笑わせない 3

 エナミは獰猛な目つきを柔らかいものに戻して頭を上げると、実際に舞台上で檻から出されたモンスターを見てもリラックスした感じを変えないままだった。


 巨大な檻から出て来たモンスターはケルベロス。アルミナダンジョン国では五大ダンジョンの一つである、火山のヤーガーラダンジョンで三十階に現れるフロアボスとして知られる存在だった。


 普通ならメリダダンジョンの冒険者相談窓口しかやっていない人間に対して他の五大ダンジョンのましてや三十階に現れるフロアボスをぶつけるのは非常に効果的と言える試しだったが、相手は普通では無かった。


 その証拠にエナミは唸り声を上げるケルベロスが獲物を見る目で見てきても意に介さず、こちらも何の構えもせずに横に立ったままのサーヤに目線ごと声をかける。


「サーヤ様、あれがヤーガーラダンジョンのシルバーランク冒険者の難易度を上げるケルベロスですよ。普通なら他所のダンジョンの冒険者がまずはお目にかかれない存在ですからね。この機会にしっかりとどんなものか確認だけでもしてもらえたら有り難いですね」

「貴方が言うと何だかとても軽い存在に感じてしまうのが謎なのですが……。あれがヤーガーラダンジョンの最初の難関なのね。と言うよりも、エナミさんは戦えるの?あのモンスターは炎を吐くのが特徴でしょう?」

「えぇ、まぁ何とかなるんじゃないですかね。ダンジョンブレイク対策で五大ダンジョンは一通り行ってますし。あっ、向こうからやって来そうなんでちょっと行ってきますね」


 エナミは軽い調子で話を切り上げ、そのままの緊張感無い足取りでケルベロスへと向かう。この時点で、舞台を客席から見ている人々は何かおかしいと思い始めていた。


 普通のモンスターならいざ知らず、一般的には絶対的な王者である三十階のフロアボスのケルベロスが唸るだけで、エナミとサーヤに近寄らずに飛びかかろうとしなかったのは何故なのかを感じていた。


 実際にエナミからケルベロスに何の躊躇も無く近づく姿を見て、ナムトのみならず他の人間達も恐怖心を拭えなかった。ヤーガーラダンジョンなど無いこのサイテカ連合国ではケルベロスを見たら、まずは必死になって逃げる事が大前提だったからだ。


 こちらの頭がおかしくなったのかとエナミの緩みきった雰囲気でケルベロスに近づくのをサーヤ以外の皆が見ていると、彼は笑いながら、凶悪なモンスターに声をかけた。


「よーし、お前。ちょっと頭を撫でたいから少し下げてくれよ」

「「「はっ?」」」


 周りが戸惑うのを尻目にエナミは慣れた手付きで頭を3つとも下げたケルベロスを撫でていく。凶悪なモンスターの皮を脱いだケルベロスはただの犬に成り下がったかのように尻尾を振りながら、舌を出して喜んで撫でられていた。


「よーしよし、いい子だな。サーヤ様、撫でてみます?こうやってダンジョン外のモンスターは親しみが湧くと襲ってこないヤツもいるから楽しいんですよね。ダンジョン内だと瘴気にやられて、強制的に凶暴になってしまい、こんな事絶対に出来ないですし」

「……エナミさんくらいじゃないかしら。ケルベロスを手懐ける人間なんて聞いた事ありませんわ。あっ、でも毛並みは素晴らしいわね」


 サーヤも何の恐怖心も周りに見せずにケルベロスを撫でていく。それを受け入れ、目を細めてしっかりとリラックスしていた巨大モンスターに愕然とするナムトに漸く気づいたとばかりに、エナミがサーヤが撫でていない他のケルベロスの頭をこちらも撫でながら話しかける。


「レインハート様、これで御しているっていう条件はクリアですか?もっと何かした方が良いですか?」

「……あぁ、エナミ殿そんなにもあっさりとその獰猛なケルベロスを懐かせるなんて、こちらは考えてなかったからね。私としては十分としか言えないね」

「ありがとうございます。では、私どもアルミナダンジョン国のダンジョン調査団はサイテカ連合国の方々に認められたと判断していいですか?」

「構わんよ。これだけの物を余興として見せてもらえたんだ。明日からはライン地方行きの列車も用意しておこう」


 もはや兜を脱ぐしかなくなったナムト・レインハートは憔悴した顔で舞台からも去っていった。この余興が違う結果になる事を期待して客席にいた筈のサイテカ連合国の来賓達もそそくさと逃げるように去っていった。


 残されたケルベロスと二人は暫くの間、舞台上でじゃれついていると、対応に困っていた執事に気付き、エナミがケルベロスを檻へと誘導して事なきを得た。


 そんな二人からしたら本当にちょっとした余興を終えると、また先程ここまで誘導してくれた執事に妙にソワソワされながら、しかし丁寧な対応で連れられて領主館へと戻っていった。その道中でサーヤは耳元に口を寄せて、エナミに尋ねる。


「エナミさんは何処まで考えていたの?」

「う~ん、サイテカ連合国をあげての試しという設定でしたからね、これくらいはやってくるかというレベルでした。ただ正直物足りない位でしたけどね」

「そう、だからケルベロスにも焦ったりはしなかったのね?」

「はい、僕よりもモンスターに詳しい人間は早々居ないですからね。ダンジョンならミヤとか居るかも知れないですけど」

「ミヤ?あぁ、「ダンジョンマスター」のミヤさんの事ね。そう言えば彼女とお知り合いなのね」

「そりゃ、私と話の合う王立アカデミーの後輩ですからね。今回の遠征も彼女メンバーに入ってますから。万全の体制でライン地方をダンジョンブレイクから守るつもりですよ」


 舞台に向かう時とは違い、あまりにも自分達が浅はかだった事に気付かされた前を行く執事は、二人に気付かれない様にため息をつくしかなかった。









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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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