第十五話 エナミは笑わせない 2
いきなり舐めていた筈のアルミナダンジョン国からの調査員から衝撃的なヒヒイロカネの鑑定結果を受けたナムト・レインハートは暫く呆気に取られた顔をしたまま、沈黙してしまう。
誰かがゴクリとつばを飲んだ音にハッとすると彼は先程より焦った笑顔でエナミに声をかける。
「……エナミ殿、これは悪い冗談を。どうして一瞬見ただけで、そんな判断になるんですかね?それよりちゃんと「鑑定」の魔法でこの金属の塊が確認出来たんですか?」
「ええ、レインハート様。それはちゃんとお約束出来ますね。私の「鑑定」はアルミナダンジョン国の五大ダンジョン内で取れる素材に関しては、どんな物でも冒険者相談窓口に持ってきたら全て確認できてますからね」
「……どんな物でも」
「はい、それこそオリハルコンランクのモンスターや八十階前後の特殊鉱石に関してもこの「鑑定」で分かってきましたね。因みにこのヒヒイロカネという鉱石はうちのダンジョンで言うとゴールドランクの冒険者達に取ってきてもらう程度の物で、三十五階位で見つけるものですからよく見ていますよ」
「そんな……」
「レインハート様、私もプラチナランク冒険者としてメリダダンジョンに入っているから分かりますけど、ヒヒイロカネは武器素材としてはゴールドランク冒険者がよく使う素材だから、よく見る当たり前の物の感覚で取り扱ってますわ。私以上のランク冒険者なら、間違いなく「鑑定」出来ますし、因みに今も先程エナミさんが言ってた聖カムルジア公国産という結果が私も見えてます」
「……サーヤ殿まで、そうですか」
この舞台に自信満々でヒヒイロカネを運んできた先程までとは180°姿勢を変えて意気消沈しているナムトに対して、気を使う様に笑顔のままでエナミは解説を続ける。
「いかがでしょうか?レインハート様。このヒヒイロカネはあくまでも聖カムルジア公国から禁輸品のサンプルとしてワラジアン地方に持ち込まれただけですよね?」
「えっ?」
「いえね、我々アルミナダンジョン国としてはこの程度のヒヒイロカネの量であれば、それならば十分にサイテカ連合国の対応として理解できる範囲ですから。この試しの問題としても非常に面白かったですしね」
笑顔のままで、フォローをしてくるエナミに少し助かった様に表情を柔らかくし、ナムトも答える。
「あぁエナミ殿、その通りだ。君達ダンジョン管理事務局のエリートにはあまりにも簡単だったかもしれないね。次の試しに行くとしよう」
「はい」
背中にかいた冷や汗は落ち着かないままにナムトは次なる課題の準備をしようとする。荷台に載せられたヒヒイロカネが片付けられようとしているのを見て、サーヤは一声かける。
「そう言えば、「鑑定」以外でも何処産の物か分かるやり方がありましたわ」
「えっ?」
「こうやるのです」
軽い調子で、自身の指先にゴルフボールサイズの五色の魔法を灯す。それをヒヒイロカネに向かって発射する。それぞれの魔法が当たった所で一色だけ波紋が広がる。
台車を運ぼうしていた執事はギョッとしているが、あまりの手際の良さに全く被害が出ていないのを確認した上で片付け作業を続ける。サーヤは満足げに笑顔でナムトに説明する。
「これはダンジョンのある国独特の鉱石反応で王立アカデミーで習うのですが、五色の魔法の反応で「鑑定」がヒヒイロカネが分からない人は判断するように指導されましたわ」
「五色の魔法……」
サーヤは自身のやった事が何でもない事の様に言っていたが、あんなにも速く制御された複数の属性が異なる魔法を簡単に扱う様を見て、ナムトは余計に気分がまいっていた。
当然それは舞台上の茶番を楽しみにしてきていた客席の面々も同じ気分で、ダンジョン管理事務局のトップエリート職員とプラチナランク冒険者にとっては当たり前の実力について、勘違いしていた事を認識せざるを得なかった。
またすっかり意気消沈してしまったナムトだが、次の試しの準備として舞台の下手にある入り口から獣の唸り声が聞こえてくると、彼は少し元気を取り戻した様に、また二人に声をかける。
「まぁ、調査自体は流石のエナミ殿ですな。その辺は十分にライン地方のダンジョン「海鳴りの丘」にも対応出来そうですな」
「ありがとうございます」
「ではもう一つの試しの課題ですが、こちらのモンスターを用意しましたので、こいつを御して下さい。おい、連れてこい」
「はい、旦那様」
執事が3人がかりで巨大な檻を舞台に運んでくるのを、また勢いを取り戻したナムトが自慢気に眺める。エナミとサーヤはそれをさも当たり前かの様に、全く恐怖心も見せずに
リラックスして出迎える。
「レインハート様、予め一点だけ確認を」
「おお、エナミ殿、もし御せないと早めに判断されるなら、今のうちに降参でも構いませんぞ」
「いえいえ、その御するとは具体的に何を指すかをお訊きしたいのです」
「具体的にとは?」
「姿を残したままコントロール下に置けば良いのであれば、それで構わないという事で良いですかね?」
「あぁ、出来るのであればね」
ナムトは少しエナミの発言に不安を覚えながらも、自身が用意したモンスターに自信がある為、首をふり余裕を見せる。
「ありがとうございます。ではいくつか対応を考えさせていただきます」
エナミは頭を笑顔で下げると、獰猛な鋭い眼差しで下を見つめていた。
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