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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第十四話 エナミは笑わせない 1

 余興会場と執事に案内されたのは、晩餐会をやった領主館から歩いて20分程度は離れた普段ならオークション会場として使われそうな、すり鉢上の客席のある舞台だった。


 すり鉢上の客席には先程の晩餐会でいた男性陣が何人かおり、皆二人に注目しているものの、その目はあくまでも物珍しげなだけで好意的とは言えなかった。


 執事が案内から離れるとエナミとサーヤは晩餐会のフォーマルな格好のままで、舞台上で何が起こるのかを待ち構えた。少しの間を置き、ナムト・レインハートが後ろに布のかかった荷物を荷台で執事に運ばせながらやってきた。


 エナミは荷台の前にして近寄ってくる先程の晩餐会とは違う冷たい笑顔のナムトに、先程と変わらない柔らかい笑顔で話しかける。


「レインハート様、それが今回の我々の試しの中身ですか?」

「エナミ殿、お待たせしました。はい、こちらになります。まずは確認されますか?」

「そうですね。サーヤ様構いませんか?」

「そうね、これ以上だと夜も遅くなるし、早く休みたいわ。さっさとしてしまいましょう」

「分かりました。では、どうぞ」


 ナムトが軽く目線で後ろに合図すると、荷台にかかっていた布を執事が取り、荷台に置いていた物がハッキリと分かる。


 そこには赤く鈍色に輝く一山程の金属の様な塊があった。エナミはそれを一瞥して見ると笑ったまま目を細め、尚も冷たい笑顔のナムトに確認する。


「レインハート様、これはどういう試しなのでしょうか?」

「そうですね、今回は二つの試しをお二人に行ってもらいます。まず一つ目はこの地にあるダンジョン内で発見されたこの金属の様な物体が何なのかを確認してもらい、この場で我々に説明してもらえますか?」

「まずはダンジョンブレイク云々の前にダンジョンへの調査能力の確認がしたいと?」

「はい、それが確認出来ないと我々サイテカ連合国としては、ダンジョン調査にわざわざアルミナダンジョン国から来ていただいた意味がありませんのでよろしくお願いします」

「分かりました。では行いますね」

「どうぞ。夜が深けない内に終わらせてみてください」


 ナムトもエナミも笑みを変えぬままにやり取りを終える。ナムトからしてみればこれがどんな物か予め分かっていた為に、これから起こる事に非常に愉快な気分になるのを抑えるのに必死だった。


 この赤く鈍色に輝く金属の様な塊はヒヒイロカネと呼ばれる鉱石で確かにサイテカ連合国のダンジョン原産であった。このヒヒイロカネの特徴として魔法が非常に通りにくく、一定以上の「鑑定」の魔法が無いとそもそもヒヒイロカネか何なのかすら判断出来ないものだった。


 しかも、一般的にはワラジアン地方周辺のダンジョンでは、この鉱石は取れずに他所の地方で取れる為、もしも「鑑定」の魔法が軽い内容しか分からずに弾かれたとして、その点を知っているかどうかも問われた。


 まずはお手並み拝見とも言える、調査能力の確認という厭らしさあふれる試しも、エナミは一通りヒヒイロカネに近づく事無く笑ったまま、隣に立つサーヤに声をかける。


「サーヤ様、ここは私が対応しても良いですか?どうやら向こうも私をご指名みたいなんで」

「エナミさん、構いませんけれど。貴方もしかして怒ってらっしゃらない?」

「いえいえ、そんなそんな。この程度の事でサーヤ様のお手を煩わせるのが心苦しいだけですよ」

「まぁ、そう言うなら構いませんけど……」

「ありがとうございます。私としては今回の件はダンジョン調査部みたいな専門領域の職員では無いのですが、それでもダンジョン攻略課の冒険者相談窓口の人間ですからね。この位の案件に対応出来ないのはちょっと恥ずかしいので助かります」


 エナミはニコニコしながら、ナムトに態と聴こえる程度の声量で皮肉を言う。本来ならこの場での試しはミヤ・ブラウンの様なダンジョン調査部の人間がやるべき事を、エナミという門外漢にやらせて恥をかかせようという魂胆ではないかと周りに敢えて示した形になるが、舞台上での声は客席には届かずナムトと側にいる執事達のみに聞こえる。


 その為ナムト達の空気は怒気をはらんで多少硬くなるが、エナミとサーヤのリラックスした雰囲気で舞台上の違和感が多少客席に伝わる程度で収まっていた。


 そんな皮肉混じりのやり取りをした事を全く感じさせない足取りでエナミは荷台に置いてあるヒヒイロカネの塊に近づくと、触れる事無く周りをグルっと一通り適当に見て、今だに気色ばんでいるナムトに笑顔で声をかける。


「レインハート様、お顔色が悪い様ですが、どうかなさいましたか?もしかして私のやり方が雑に見えましたかね?」


 ナムトはハッとしたように顔をぎこちなさは残しながらも笑顔に戻す。


「いやいや、エナミ殿のやり方が私が思ったものと違っただけだよ。それで、何か分かったかね?」

「はい。一通りは見させていただいたので、お答え出来ます。ただ……」

「ただ?」

「この試しはどういった解答をすれば良いのですか?どの程度まで皆様にお伝えしても良いのですか?」

「あぁ、分かった事全て、ここにいる皆さんと私に言って構わないよ」

「本当に構いませんか?」

「あぁ、勿論。その為に今回用意したのだから」

「分かりました。では、そこまでレインハート様がおっしゃっるのなら、私もお答えさせていただきますね」


 エナミは笑顔のまま視線をヒヒイロカネの塊からナムト、ナムトからすり鉢上の客席に向けて答える。 


「これはヒヒイロカネですが、このワラジアン地方で取れたものではありません。と言うより、サイテカ連合国産でもありません。レインハート様、これは聖カムルジア公国産の物になります。確か彼処とは貿易協定で鉱石物は禁輸扱いになっていた記憶がありますが何か対応は変わってますか?」


 エナミの指摘に場は凍りついた。










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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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