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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第十一話 エナミは嗤う 1

 ライン地方に行くつもりで動いていたエナミだったが、サーヤとケビンのブルックス親子の計らいで、列車による行路の途中にあるワラジアン地方の領都ミシャールに立ち寄る事となった。


 わざわざ駅に降り立った所で領主ナムト・レインハートに出迎えられると、二人はそのまま馬車に乗せられ、領主館へと連れていかれる。


 領主御用達の馬車に乗せられて、そのふかふか過ぎるシートに身体を沈めて、自分の落ち着きどころを探してからエナミは向かい側に座るナムトに声をかける。


「レインハート様、今回はわざわざのおもてなし、ありがとうございます。しかし、我々はライン地方で起こっているダンジョンブレイクに対して調査に向かっている最中、今は現場に急ぐのが一番かと?」

「そうであるな、我がサイテカ連合国の仕組みを知らなければ、エナミ殿のその発言も間違いではない。我々は小さな領土の寄り合いでしかないからな、こういった他所の小国に影響があると考えられる際、何かを決める際は必ず自治報告会が開かれるのだよ。今回はその決定に従って手続きを進めているだけなのだ。申し訳無いね」

「いえ、各国にはそれぞれのやり方がある事は重々承知しております。では、その自治報告会で決まった事とは?」

「今回のダンジョンブレイクが起きたと考えられているライン地方のダンジョン「海鳴りの丘」について、貴国の調査団がどれだけ優秀かをまずはこのミシャールにて確認をする事になったのだ」

「ほう、確認ですか?」

「そうだ。エナミ殿、気を悪くしないで欲しいのだが、君等アルミナダンジョン国には今までも非常に力になってもらっているからな。今回、そちらの力が必要な程の事なのかも確認しなくてはならないからね」 

「分かりました。では、まずは何を?」 

「そう、焦るものではないよ。まずは我が領主館で饗させてもらうさ」

「分かりました。そちらは非常に楽しみにしております」

「ハハッ、分かってくれたみたいで有り難いよ」


 エナミのこういった非常に作られた人好きのする笑顔を浮かべる時は、隣に座っているサーヤにはとても不愉快に感じている時と分かっていたが、エナミに手を繋がれて、ましてや黙らされる為に、恋人繋ぎまでされては顔を赤らめたままで、横で黙っていざるを得なかった。


 三人の乗っている馬車の本来感じるであろう道の震動も、全てふかふかのシートに吸収されてゆっくりと穏やかに領都の中央通りを進んでいく。馬車の窓からその賑わっている街並みをエナミは楽しげに眺めながら、ナムトに声をかける。


「レインハート様、この地方の特産である金色のヘリクリサムをこの前、人に贈る機会があったのですが、この時期はまだ手に入れる事が出来ますかね?」

「おお、それは大変めでたい事があったな。それにエナミ殿は我が領地の事も詳しいと見える。確かにまだギリギリ手に入れるのが可能だが、一ヶ月前くらいが一番良かったね。それにしても以前からそんな他所の国の風習まで知っていたのかね?」

「はい、私がアルミナダンジョン国の王立アカデミーにいた頃に周りの国の歴史と文化を一通り学びましたからね。当然この地ならば金色のヘリクリサムの逸話を知らない筈がありませんよ」

「そうかそうか。そこまで我が領地の事を褒めそびやかして言ってもらえると、私がこのミシャールを案内させてもらってありがたかったな。うん?サーヤ殿は顔が赤いが緊張してるのかね」 

「……いえ、少し長旅の疲れが出ているだけですわ。申し訳ありません。楽しい会話の一助にもなれずに」

「いやいや、すまんな、つい男二人で勝手に盛り上がってしまって。後少しで領主館に着くから、それまでは静かにしていようか」

「サーヤ様、すいません。私も気が付かず初めての旅に興奮してしまって。後少しみたいですから、ゆっくりしましょう」

「……ありがとうございます」


 ナムトが申し訳無さそうに頭を下げるのを尻目にエナミはさっさと彼に見つからないように「治癒」と「リラックス」の魔法をサーヤにかける。


 サーヤからすればエナミから贈られた金色のヘリクリサムの事を思い出しただけだったが、彼がちゃんとワラジアン地方の風習を理解した上で、あの花を自身に贈ってくれたという事実の重大さと喜びに内心振り回されまくっていた。


 その上でこうして気を利かせて私の身体を気遣って魔法までかけてくれるなんて、と今回の旅に来て、もう十分な満足感をサーヤは得ていた。


 しかし、この時はまだエナミ・ストーリーという人間はちゃんとこの金色のヘリクリサムが何に使われるかを知らなかった。


 散々思わせぶりな態度をサーヤに取っていても、あくまでも金色のヘリクリサムはこのワラジアン地方の特産であり、希少なものだからこそおめでたい席に使われるんだろうな位の軽い感覚を残していた。


 ナムト・レインハートがここまで喜んでいるのもあくまでも外交的なポーズもあるのだろうと、その前のアルミナダンジョン国のダンジョン管理事務局を舐め腐った態度を見た事が尾を引き、適切な判断が出来ていなかった。


 そのツケはこの後の領主館での晩餐会で払わされる事になるとはエナミもナムトもサーヤすら、この時は誰も想像できなかった。












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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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