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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第七話 エナミは現実逃避する 2

 アルミナダンジョン国からサイテカ連合国に入国する際の手続きのあまりのスムーズさにエナミは驚嘆していたが、それは彼自身が国外に出るのが王立アカデミーの学生の時以来だったせいもあるかもしれない。


 彼は10年以上もの、余りにも長きに渡ってアルミナダンジョン国のダンジョン管理事務局の中で仕事をし続けてしまい、出張と言えば5大ダンジョンのダンジョンブレイク対策程度のもので、ダンジョンに連れて行かれ、その飛び抜けた優秀さもあって、ここまで長期休暇もとれずにアルミナダンジョン国から出られないように第一保安課に見張られてしまっていた。


 当たり前に周辺の4大国からやってくる王立アカデミーの留学生上がりの同僚達と楽しく話す機会や、一緒に何処かへ旅行する事も無かったエナミは、横に座ってもたれ掛かってくるサーヤの事はだいぶ意識から除外しつつも、列車の窓から見える景色に視線を奪われていた。


「エナミさん、貴方なんだかこんな風にいじらしくモーションかけている私が馬鹿らしくなるくらいに、サイテカ連合国の景色を堪能していらっしゃるのかしら?」

「サーヤ様……、そうですね。今までも文献では知っていましたが、列車の窓からこんなにも自然豊かな景色が見れると思わず感動してますね。僕は王立アカデミーに通っている頃から、全くアルミナダンジョン国の外には出ませんでしたから、かれこれ15年以上かな?」

「貴方は……、そういう意味では不自由な生き方ですわね」

「まあ、自分で望んでこの仕事を続けているから、なんとも言えませんけどね」


 エナミの苦笑を見ながら彼の今までの人生にサーヤは思いをはせる。確かに彼はアルミナダンジョン国にとっては必要不可欠な存在として、ダンジョン管理事務局の1職員という立場以上に貢献しているだろう。


 その代償として、彼が年相応に得られたであろう同世代との青春や思い出を全く手にしていないのは、同じ様に同様の時期をメリダダンジョンの攻略にのめり込んでいた彼女から見ても明らかだった。


 しかもサーヤの様にエナミがその時間を注ぎ込んだだけの対価を得られたかは彼女からは甚だ疑問だった為、彼にもたれているのを止めて、つい真面目に訊いてしまう。


「貴方はこれまでのダンジョンに捧げるだけの人生に後悔していないの?」


 エナミも先程までのサーヤの緩んだ雰囲気が一気に変わった事を察して真面目に考えるも、列車の窓から外の景色を見るのは止めずに答える。


「うーん、後悔はしていないと思いますね。もう一度王立アカデミーに入る前から人生をやり直したとして、恐らく今回と同じ様な選択肢を選んでいって、結局はこうして列車に乗って、サーヤ様の横に座っているとは思いますし」

「そう、なら良いんだけど」

「はい、ただこうやってアルミナダンジョン国の外に出る機会が得られたのは本当に有り難いですね。そこは明らかに強引だったとは言え、サーヤ様には感謝してもしたりないくらいです」


 巫山戯た様なバカ丁寧なお辞儀をサーヤにして、彼女の耳元で感謝を伝える。そんなエナミの不意打ちに先程までは主導権を持っていた筈の彼女は顔を赤くして、そっぽを向く。


「フ、フン、分かれば良いのよ。私にどれだけの事をしてもらっているかはこれからもっと分かるんだからね」

「はい、ワラジアン地方の駅に着いてからも楽しみにしています」


 普段のエナミからはとてもでは無いが考えられない位に、素直にコミュニケーションを取ってくれる事にサーヤは非常に嬉しく感じながらも、それを極力彼には見せないように振る舞おうとする。


 勿論エナミからしても今回の旅の始め方には動揺し、現実逃避していたものの始まってしまったものは楽しまなくてはしょうがないと、王立アカデミーの学生の頃のノリで無責任に考えて旅に酔っていた。


 当然、アルミナダンジョン国に置いてきた問題と女性達の扱いについてはライン地方に着いてから大事になるのが分かっているが、今は目を瞑って置いておく事とした。


 この時目を瞑ってしまった事で本当に大問題になってしまうが、それはその時の話として後に語られる。


 彼ら二人はエナミとしては非常に有意義な時間を過ごしながらも、サーヤとしては不満を若干抱えながらも、ワラジアン地方の領都であるミシャールの駅に、三日後列車が辿り着いた。


 ミシャールの駅に着き降りて早々、駅舎に行く間もなくホームで2人を出迎える者達が待ち構えていた。その中でも領主であるレインハートが中央に立ち、2人に挨拶をする。

 

「ようこそ、ワラジアン地方が領都ミシャールヘ。エナミ・ストーリー殿、サーヤ・ブルックス殿。私はこの地の領主をさせていただいているナムト・レインハートと申します。以後お見知りおきを」

「ありがとう、レインハート様。父ケビンにもこの様にわざわざ領主様自らのお出迎えといった、非常に歓迎していただいた事は伝えさせてもらいます」

「レインハート様、私には過分なお出迎え、ありがとうございます。今回は何かご用があるみたいですね?」

「ほう、何故そう思われたのですか?」


 レインハートの領主らしく余裕ある笑みの中にも、意地悪さを感じたエナミとしてはそこをついても揉めるだけと、楽しい旅を目的にやってきた事を思い出して、気軽に呟く。


「いえいえ、ただそう思っただけですよ。私自身にタダでこんな歓待を受ける価値があるとは思えないですからね。当然何かの対価を求められるのが自然と考えただけです」

「そんなそんなご謙遜を……、では、馬車を外に用意してますので、そちらに乗っていただいて、まずは領主館ヘおいで下さい」


 お互いに苦笑いしながらも、ついつい核心をついてしまったエナミに対してレインハートは警戒心を強くするのだった。








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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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