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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第五話 エナミは胃が痛くなる 3

 エナミはレラとの楽しくもそれ以上に胃にもたれた地下食堂での昼食後にダンジョン調査部に戻っていく。


 レラは自分の仕事の愚痴は全く溢さないものの、今回のライン地方への遠征に対して思う所が明確にあったので、そこに関してはダンジョン攻略課に所属していた時よりもハッキリと言ってきていた。


 史上最速でメリダダンジョンの五十階を攻略したプラチナランク冒険者としてのサーヤの才能と能力は認めるものの、レラとしては彼女自身もゴールドランク以上の冒険者に匹敵する能力を持つ上に、こうして日々エナミと接点を持っている自分と向き合って欲しい気持ちが強く出ていた。


 こうして仕事という建て前でプライベートでのエナミとの距離を詰めるせっかくのチャンスなのを、急に間に割り込んできた感が強いサーヤの動き方に、ついつい我が儘を言ってしまうようになっていた。


「もう、ちゃんと窓口でもサーヤ様にハッキリと言って下さいね。これは仕事なんですから!!」

「はいはい、でもお前の方が感情的になってないか?サーヤ様は普通にダンジョン攻略の準備しているだけだぞ?」

「そんな訳無いじゃないですか!?何でそういう所は抜けてるんですか?彼女からしたら千載一遇のチャンスって分かりますよね?」

「レラ、最近お前そういう事ばかり言ってるけど、お前の勘違いじゃないのか?」

「はぁ~、私が隣の窓口に居ないからって、サーヤ様に籠絡されないで下さいね。まぁ、エナミ先輩の天然のジゴロっぷりには敵わないから、あんまり心配してないですけどね」

「何だ、その天然のジゴロって?俺は誰かのヒモなのか?」

「もう、やっぱり無自覚じゃないですか。はぁ、もう良いです。じゃあ、先輩また明日のお昼に!!」

「あぁ、また明日な」

「はい!!」


 ため息をつきながらも、頭を出して上目遣いにこちらを見てくるレラにしょうがないなと軽く頭をポンポンッと叩く。嬉しげに去っていく彼女の後ろ姿にフッと息をつき、エナミはダンジョン攻略課への階段を上がっていく。


 こうして一人でダンジョン攻略課に帰っていくのにも慣れてきたエナミは冒険者相談窓口で、いつもの様に固い木製の椅子に背中を斜めに預けて、だらけて座る。


 自分が直接指導していないエナミの隣の相談窓口の人間が入り口のシャッターを開けると、バンっと、いつもの調子で午後一番にドアを開けて、サーヤ・ブルックスがやってきた。


 エナミは先程のレラとの会話を思い出して少しため息を付きそうになる自分をグッと堪えて、彼女を軽く笑って迎える。


「サーヤ様、今日もお綺麗ですね」

「エナミさん、ご機嫌よう。……貴方から褒められると何だかむず痒いわ」


 隣の窓口に座ってる冒険者相談窓口の子はまた始まったとばかりにこの甘ったるい空間の横に2時間も居なくてはならないのかと腹を括っていた。


 実際の所、サーヤ・ブルックスはどう考えてもこの冒険者相談窓口に来る必要は無かった。メリダダンジョンは絶賛三十階以降は閉鎖中であり、彼女が攻略する筈の五十階以降は当たり前に攻略不可であったのだから。


 つまり彼女がこのタイミングでエナミの窓口にきた理由は、メリダダンジョン攻略以外の、以前周りの職員達に疑われていた事をしに来ただけだった。


 そう、ただ彼女はエナミと雑談をしに来ただけなのだ。


 勿論建て前としては今度一緒に行く、ダンジョンブレイクを起こしそうなサイテカ連合国のダンジョン「海鳴りの丘」についての情報共有だが、そんな詳細など当たり前だが国家的な機密なので、この場には全く無い。


 それにダンジョン「海鳴りの丘」の概要の話はこの間の監視つきのお茶をした時には十分に話していた事だ。


 それ故にこの場で語られるのは、サーヤからの一方的な要求だけだった。


「エナミさん、向こうには3ヶ月位滞在出来るとか……」

「そうですね、私の有給消化を考えた最大限の期限ですけど。勿論早めに「海鳴りの丘」のダンジョンブレイクを解決しても、ライアンは喜んで歓待してくれるとは思いますけどね」

「私もちゃんとダンジョン管理事務局に協力したら、その恩恵に与ると思っていても良いのよね?」

「それは勿論。今回のサーヤ様の役割はアルミナダンジョン国の協力者の代表的なものですから、向こうからは喜ばれこそすれ、避けられるとは思えません。それに……」

「それに?」

「「春雷」という二つ名はサイテカ連合国の中でも十分に広まってますよ。決してブルックス家という色眼鏡だけで見られる事は無いと私としては保証できますけどね」

「ふふふ、そうやって持ち上げられて悪い気はしないわね」


 非常に楽しそうに話を進めるサーヤとしてはこれはエナミとの結婚の外堀を埋めるチャンス、とばかりに家族であるケビン達からもなるべく同行する期間を長く出来る様に配慮されていた。


「それで、実際にはいつ頃こちらを出るのかしら?」

「うーん、そうですね。私自身の業務の引き継ぎは大体終わったので、後は課長からの長期休暇の認可と向こうの入国許可証があればいつでも行けるって所ですかね?」

「あら、そうしたら、ここでこうやってボヤボヤしてる間もなく準備は出来ていて?」

「あぁ、そんな事ですか」


 エナミは苦笑しながら、「収納」の魔法で亜空間に手を伸ばす。そこから手を出すと大きめなバックが1つだけ出される。


「私達の仕事でダンジョン調査やらでよく使うのですが、これに一通りの旅支度は入ってますから。それこそ入国許可証があれば今からでも行けますよ」

「なら話が早いわ。今から行きましょう」

「えっ?」

「父が手を回して私と貴方分のサイテカ連合国の入国許可証は用意してくれたの。他のダンジョン管理事務局の方達はゆっくり後から来たら良いんでは?」


 あっけに取られるエナミを尻目に、有無を言わさぬ妖艶な瞳でサーヤは微笑んでいた。








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