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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第三章 相談窓口は休みも働く
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第四話 エナミは胃が痛くなる 2

 アルミナダンジョン国から出る為に着々と準備を進めていたエナミは、真珠の魔法ペンをジュリアーナに渡した後も、ヤミールや他のゴールドランクまでの担当冒険者達にも同じ物を渡して、午前中の窓口業務を終えていた。


 お昼はいつものように地下にある食堂「来るもの拒まず」に一人で行き、日替わりランチをトレーに載せて、いつもの窓際の角の席に着いた。


 レラ・ランドールが課長補佐として異動して他部署に行ってからも、彼としてはそれまでと変わらず勤め始めてから十二年に渡って同じルーティンで動いており、レラが異動する前と同じ様な行動パターンでダンジョン管理事務局内で過ごしていた。


 その為、エナミを見つけるのはそのいつもの行動パターンを知っている者ならとても容易い事で今回はそんな尋ね人が彼の前の席にメニューが全く違う同じ色のトレーを置き、声をかけてくる。


「エナミ先輩、ここ良いですか?」

「これはレラ第一保安課課長補佐、お好きな席にどうぞ」

「は~い」


 レラは今回のメリダダンジョンで起きたダンジョンブレイクの一通りの対応が終わったタイミングで、第一保安課に異動となっていた。その為、彼女としてはお昼のこの時間が会議や研修以外でエナミとダンジョン管理事務局で会える唯一の時間だった。


「どうだ、第一保安課は?楽しいか?」

「またそうやって、直ぐにエナミ先輩は私を誂うんだから。こちらの部署は肉体言語が物を言う世界で、今までのダンジョン攻略課での経験が全く活かせない事が困ってます」


 苦笑いしながらも髪を短く揃えたレラは楽しげに応える。エナミはその彼女の自然な態度に上手く第一保安課に馴染めていそうだとホッとする。


「実際どうなんだ?もう身体を使う事には慣れてきたか?」

「はい、王立アカデミーの実技訓練を思い出して、スキルと能力を磨くのがメインなんで今は戸惑いも減って、楽しみながら出来てます」

「そうか……」


 実際にランドール大統領夫妻がランドール共和国に帰国した際に、レラのダンジョン管理事務局での処遇は、アルミナダンジョン国の国際問題として人事会議で取り上げざるを得ない状況だった。

 

 そこでレラとしては自身のダンジョン管理事務局での昇進も踏まえて、この国での安全性と自身の身の潔白の確立をする事を考え、第一保安課に異動希望を出した。


 これには冒険者相談窓口のレラの指導役であるエナミも相談に乗り、彼女の立場の確立に対して最も有効な手段として第一保安課への異動の根回しをダナン課長やタナカ部長にもしていた。


 当然、レラ以上にダンジョン管理事務局では価値があると思われているエナミの言葉は重く、上層部も検討に検討を重ねて、今回のレラのスムーズな人事異動となった。


 彼女自身としては自分の武力の向上と仕事上での外敵との接点を減らす意味でまさに彼女の安全性が担保される為、タナカの指導のもと、修練場にも顔を出し己を鍛えていた。


「それで結局、次のサイテカ連合国へのダンジョン調査団の研修は一緒に行くのか?」

「はい、部長も課長もその方が安全だろうしエナミ先輩付きの警護担当になっておけば、実務経験でも問題無いって処理されました」

「まぁ、タナカさんならそうなるよなぁ」

「はい、部長にも課長にも苦笑いで認可の判子をもらいました」


 日替わりランチの煮魚の骨を綺麗に器用に分けながら、エナミは呟く。今回のライン地方へのダンジョンブレイク対応に建前としてプライベートでエナミが行くのに当たって、あくまでも第一保安課としては人員を出さねばならなかった。


 しかし、タナカ部長が個人のバカンスとして旧友に会いに行く要人ではないエナミに警護として付いていく事ができない為、役職付きで尚且つエナミとの信頼関係もあるレラがいきなり付くことになった。


 普通ならラミーに対しても警護が必要かとも考えられそうだが、彼の能力「危険予知」がある為に、警護の必要性については目を瞑られていた。


「それにアイツも付いてくるから、「海鳴りの丘」のダンジョンブレイクはまず大丈夫だと思うけどなぁ」

「先輩、アイツって?」

「あぁ、王立アカデミーの後輩で今回の遠征に付いてくるダンジョン調査部所属のヤツ。ちょっと価値観が普通と違うけど人間としては良いやつだから、面倒かもしれないけど、仲良くしてくれよな」

「……マリーさんもミズキさんもサーヤ様も先輩のお知り合いは、皆さん良い人ばかりですけどね」

「……お前言うようになったな」

「先輩の指導の賜物です」


 ジト目で見てくるレラの追求にエナミはお茶を飲んでかわそうとする。実際問題こうして部署も変わったのにも関わらず、レラがぐいぐいくる事に、いい加減鈍感さと適当さが売りのエナミでも思う所はあった。


 だからこそ、次のライン地方への遠征に彼女を連れて行く事を無意識のうちに判断していたが、まだまだ完全にその思いが何なのか自覚するにはエナミの中では程遠かった。ジト目をしたまま、レラは尖った口で続ける。


「それにサーヤ様がプラチナランクの冒険者として同行されるのも、個人的には全く納得してませんからね?」

「いやだって、彼女が自分から立候補したら断るなんてだろう?めちゃめちゃ優秀な冒険者がこんな事に付き合ってもらえるなんてまず無いからね」

「もう、それを何とかするのが窓口担当のエナミ先輩の腕の見せ所じゃないんですか?」


 こうしてチクチク元後輩の他部署の上司に言われながら、エナミの昼休みが過ぎていくのがこの頃の日常になっていた。










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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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