第二話 サイテカ連合国の盟主達 2
シュテルンビルトは説明に十分にはまだ納得がいかないようで、ライアン・ヒューイットの話に言葉を繋げる。
「しかし、今回はストーリー家の人間だけでは無いのだろう?政治的な背景を考えなくても良いとはいかないのでは?」
「確かにその要素はあるでしょう。今分かっているだけで、ダンジョン管理事務局からは外交課課長とダンジョン調査部の職員とエナミ、もう一人は帰国したグラハム・ランドール大統領の息女。そして冒険者は現役の最年少プラチナランク冒険者であり、「始まりの七家」の「春雷」サーヤ・ブルックスと役者が揃いすぎているのは分かります。但しここまで用意していただいたアルミナダンジョン国には恩義こそあれ、疑惑を感じるのは現段階ではこちらの穿ち過ぎと言えるでしょう」
ライアンの言葉には嘘はなく、淡々と事実だけを告げていた。
「そんな取り扱いがどう考えても難しい危険人物ばかり揃えてきた事を向こうは我らがサイテカ連合国がどう見えるか位分かっているだろう?」
「どうでしょうか?果たして人員構成はアルミナダンジョン国の意向でしょうかね。私としてはあくまでも事前に打ち合わせに来た外交課課長の独断でエナミを連れてくる事を決めてしまって、後は芋づる式に付いてきてしまった印象ですが、「海鳴りの丘」のダンジョンブレイクを止めるには十分な戦力として考えられるので、こちらとしては止めようがありません」
「確かにな……。戦力として考えれば非常に有り難いのは間違いないが……」
ライアンからすれば、エナミの性格と事前に会ったラミーを見れば十分に流れを予測出来た為、非常に真実と近しい答えをシュテルンビルトに答えていた。その為、老年期を迎えた名領主も納得せざるを得なかった。
そんなシュテルンビルトがライアンに訊きたい事が止まったのを確認してから、他の領主も質問を重ねる。
「ヒューイット殿からすれば、今回の「海鳴りの丘」のダンジョンブレイクが彼らを招集した事で、被害無く収まる事を期待しているのだろうが、もし万が一その者達で収まらなかったらどうするつもりかね?」
「その際は以前からあるサイテカ連合国とアルミナダンジョン国との取り決めで決まっていますが、それに従って対応するだけです」
「……その覚悟があると?」
「当然です。それが我らがライン地方を治めているヒューイット一族の役割ですからね」
他の領主達もその言葉に目が鋭くなる。その取り決めは両国間の関係性の中で特に大事な約定で、もしダンジョンブレイクを収められなかった領主がいた場合はその地方を管理している領主は退任し、別の領主が地方を収める様にするというものだった。
重要拠点であるダンジョンがある地の領主として務めを果たせない無能な者は去れ、という明確なメッセージをダンジョンの危険性を認識している両国間で結ぶ事でその地を治める者の能力を高いレベルで維持出来るように留学や派遣体制をアルミナダンジョン国はサイテカ連合国に協力していたのだった。
つまり、このダンジョンブレイク問題が大きくなればヒューイット家はライン地方から追放され、新たな領主がこの地を治める事となる。その為、遠隔であろうとサイテカ連合国の他の二十九家はその情勢を確認していたのだった。
「他の者も分かったか?皆の者もヒューイット殿の立場と覚悟は理解できたであろう。まずはこれからライン地方に訪れる彼らアルミナダンジョン国の代表団の円滑な移動に動線上の各国は協力をお願いしたい」
「よろしいでしょうか?」
「何かな、レインハート殿?」
痩せぎすで眼の下の隈が化粧のように確りと残ってしまっているレインハートと呼ばれた男が手を上げ、司会役の連合国の現代表に発言権を求める。
「私の領地にも通る列車でそのアルミナダンジョン国からくる、自称ダンジョンブレイクの専門家達はライン地方まで来られるのだと思いますが、もし私の方で十分な信用に足りないと判断した場合は、お帰り頂いても宜しいのでしょうか?」
「……レインハート殿は私の発言では信用が足りないと?」
「いえいえ、そうは言っておりません」
レインハートはその顔に似合っている冷たい笑顔で、顔を若干強張らせるライアンに対して受け流す。
「ヒューイット殿の王立アカデミーの同窓の方々に対して個人的に思う事はありません。ただ今回の「海鳴りの丘」のダンジョンブレイクを防ぐのに十分な資質があるかは実際の能力を見ないと分かりませんからね。であれば、ライン地方の周りの領主の方々にも分かる形でその方々に力を示していただくのが一番かと考えただけですよ」
「実際にはどうするつもりですか?」
レインハートは酷薄な笑みのまま、ライアンでは無く周りの領主達に声をかける。
「皆様、どうでしょうか?今回は「海鳴りの丘」のダンジョンブレイクの話が私の耳に入った段階で、アルミナダンジョン国から専門家を呼ぶのは分かっておりました。その為、私の方で確認出来る様におもてなしを考えております。当然ダンジョンブレイクを解決出来る専門家が派遣されるとは思いますが皆様の安心の為にも、今回は私に機会をいただけませんか?」
「うむ、ではレインハート殿の提案に決を取る」
「なっ!!」
やられた、とライアンが思った時には既に採決に移っており皆がレインハートの案を賛成していた。連合国らしく多数決の決定は絶対である為、エナミ達のかの地での試しが決定された瞬間である。
今回の決議に対してレインハートは冷たく笑ったまま、ライアンに声をかける。
「ヒューイット殿、申し訳ありませんが、少しお手間を取ってしまうかもしれません。しかしダンジョンブレイクがうまく解決する事を私も願ってます。」
心にも無い事を、と思いながらも顔には出さずにライアンは答える。
「そうですね、レインハート殿のお陰で今回の私の判断も皆様の信用がより得られる機会になるかと」
「と言うと?」
「エナミ・ストーリーを止められるとはお思いにならない方が良いという忠告です」
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ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。