第一話 サイテカ連合国の盟主達 1
第三章始まりです。どうぞ。
アルミナダンジョン国を取り囲む4つの大国の中で東に位置するサイテカ連合国は、建国して500年ほど経つが、300年前のアルミナダンジョン国の建国当時から、他の3大国と比べると彼の国とは友好な関係性を結べていた。
それは彼らサイテカ連合国が30余りの小国の連合国として身を寄せ合って、他の3大国とやりあってきた長き歴史があったからかもしれない。
サイテカ連合国はその30もの小国の集まりという特性上、それぞれが非常に独自の文化圏を構成した上で維持しており、その土地に古くからある物は大事にしており、他所の小国には基本的には不介入というスタンスで連合国としての暗黙の了解としてやってきていた。
その為、もしダンジョンがそれぞれの領地にあったとしても他の小国の手助けを得られる事は無く、自身の国の中で対応する必要が長らくの間取られていた。しかし今から200年前、ある小国である出来事があった事でその対応が一変する。
そう、それがある小国で起きた大規模なダンジョンブレイクだ。この時のサイテカ連合国の記録では当該国の対応が遅れた事で、ダンジョンブレイクによるモンスターの氾濫が拡大してしまい、周囲の小国も巻き込み、大きな被害と長い年月をかけて何とか収束させていた。
その際にサイテカ連合国の外部から渋々ダンジョン対策の専門家として呼ばれたのが、当時のアルミナダンジョン国のプラチナランク冒険者とダンジョン管理事務局ダンジョン攻略課の職員であった。
彼らはサイテカ連合国に着くや否や、圧倒的な火力とマネージメント能力ですぐさまダンジョンブレイクを収め、魔石や討伐したモンスターの素材などもその国々の復興に充てらるようにと置いていき、大きな見返りも得ないままに帰国の途に就いた。
その姿を見て、サイテカ連合国では他の三大国とは違う路線として、アルミナダンジョン国に対して常に友好的な姿勢を取り続け、現在もダンジョンブレイクがある際は外部のアドバイザーと解決役して彼らを招集する習慣が出来ていた。
そして今回も東のライン地方のダンジョンである「海鳴りの丘」にダンジョンブレイクの恐れありとの知らせを受けて、各地の領主を一同に集めての自治報告会が行われた。
今回の経緯を自治報告会という名の緊急招集で集まった小国の代表達に若きライン地方領主であるライアン・ヒューイットは訥々とラミー・レバラッテから受けたアルミナダンジョン国の対応についての話を語っていた。
「……以上の様な経緯で、私がアルミナダンジョン国のダンジョン管理事務局の外交部と接点を持ち、今回の対応に至りました」
「あい、分かった。今のヒューイット殿の説明に何か質問があるものはおるか?」
「私から良いかね?」
「どうぞ、シュテルンビルト殿」
「ヒューイット殿、君があのエナミ・ストーリーと同窓だったのは初めて知ったが、何故あの男を呼ぼうと思ったんだね?」
「それは恐らく彼がこの世で一番ダンジョンというものに詳しいからです」
「ほう、この世で一番とは大きく出たな。何を根拠にそんな事を?彼とは王立アカデミーにいた時のみの付き合いだろう。その時はまだあんな風にダンジョン管理事務局の冒険者相談窓口風情に落ち着くとは分からんかっただろう」
「そうですね、当時の彼とは最初の内は王立アカデミーの首席と5席のただの成績上のライバルとしての距離感でしたが、彼の人懐こい性格と、身分や立場といった事に何も拘らない生き方に共感して仲良くなりましたが、当時はダンジョン管理事務局に入るかも分からなかったですね。ただ……」
ライン地方とは離れているが、大御所の領主であるシュテルンビルトは続きを促す。
「ただ、何だね?」
「彼がダンジョン管理事務局の冒険者相談窓口に史上最年少で着任したって聞いた時に凄く腑に落ちたんです。あぁやっぱりなって。こいつはダンジョンに取り憑かれたまま生きていくんだろうって」
「エナミ・ストーリーがダンジョンに取り憑かれてる?」
「はい。彼は王立アカデミーに在籍していた頃から五大ダンジョンのみならず、周辺国のダンジョンについても多くの詳細な情報を集めていました。それはもう王立アカデミー在籍の3年間でこの大陸にあるほぼ全てのダンジョンの事に精通するくらいにはね」
「そんな事が……」
「はい、そのあまりのダンジョンへの執着ぶりが王立アカデミー初の満点での首席として周りが期待していたイメージとはかけ離れていた事から、彼に王立アカデミーのトップとして真っ当な期待をしていた者は離れましたが、次席の「始まりの七家」のマリー・ラルフロールと、私とは馬が合ったみたいで最後まで仲良くしていましたね」
「そしてその男は十年以上経ってもそのままダンジョンに執着していると……」
この会議の中では圧倒的に年若く、緊張もしている筈であろうライアン・ヒューイットは涼し気な顔からは想像できない不敵な笑みをニヤリと浮かべる。
「シュテルンビルト様、そうでなくては何故王立アカデミーきっての天才と呼ばれていた彼が、未だに全く昇進せずに同じダンジョン管理事務局の冒険者相談窓口なんていう末席に席を置いているのか理解できません。彼、エナミ・ストーリーはそのストーリーの名に恥じない、非常に優秀な男である事は私が保証しましょう」
最初の話のフリで登場人物が少し増えるので、ご容赦を。今章は比較的直ぐにエナミが出てきます。
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ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。