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閑話9 会議は踊る 2

これで間章は終わりです。次回から第三章になります。

「どういう事かこれから説明させていただきますので、どうかお静かに。我々としても遺憾としか言いようがありませんが、ダンジョン管理事務局はまんまとグラハム・ランドール、いやランドール家の手のひらの上で転がされたのです」

「どういう事かね?」

「今回の事の発端は我々が把握している限りでは、20数年前のグラハム家族の我が国への亡命でした。それ以前のここ100年のランドール家の歴代大統領は我が国への武力による干渉に関しては非常に少なく、あくまでも協調路線で友好外交を敷いておりました。それゆえに我々としても建国初期のゴタゴタを乗り越えて、良き隣国としてランドール共和国はやっていくものと考えておりました」

「私としてもその方向で、外交政策は進めていた」

「その認識が間違いだったのです。彼らは虎視眈々と我々の喉元を狙っていたのです」

「……」


 タナカはフルシュミットに静かに淡々と報告する。その場にいるワーグナー始めダンジョン管理事務局のお偉方も誰一人と彼の発言の邪魔をする者はいなかった。タナカは十分に落ち着いた国際事務局長に話を進めていく。


「グラハムは当時ランドール共和国内のトリスタン・ルーガード率いる国務会議の議員達や、元老院が自身を追いやろうとするのを幸いに、渡りに船とばかりにこの国に亡命してきました。これは他の3大国である、聖カムルジア公国、サイテカ連合国、ナランシェ連邦への牽制が目的で引き渡し外交など起こりえないわが国ならば安全であると考えてのものと当初考えておりました。その為、我が国に亡命してきた際もダンジョン管理事務局も保安部による管理や干渉を極力避けて対応していたのです。その結果彼、グラハム・ランドールは非常に大きなものを手に入れました」

「それは一体?」

「ご聡明であられるフルシュミット国際事務局長ならお分かりだと思いますが、彼はこの国の情報という大きな物を手に入れました。これは時間やお金にも代えがたい、諸外国なら喉から手が出るほど欲してやまない貴重なものです。しかし愚かな我々は、彼らが寄る辺もなくアルミナダンジョン国に亡命してきて自国に帰国するなどありえないという想定で、彼らを迎え入れ、貴重なランドール家の血を根絶やしにしないように暖かく大事に見守っていました」

「……彼らは最初から我らの内情を探りに来たのか」

「そうです。まさか命からがら亡命した筈の元大統領自ら、我が国を打倒するためのスパイ網を整備する事を目的としていたなんて、誰も想像できませんからね」

「そんな現実があるのか?……そうだ、彼の娘も狙われていたんだろう?」


 グラハムがあくまでも亡命ではなく、諜報活動をしにアルミナダンジョン国にやってきたという現在の状況を呑み込み始めたフルシュミットは茫然と皮肉交じりで話していたタナカに語り掛ける。タナカはその様子を見て、少し残念な目に変わりはしたが、そのまま話を続ける。


「そうです。あくまでもランドール共和国、いえランドール家としては我らがアルミナダンジョン国は5大ダンジョンという宝の山を一方的に独占する非常に利己的な倒すべき相手という訳です。その為、今回のルーガード議長とピーター・ブルックスの起こしたダンジョンブレイクと娘であるレラ・ブルックス誘拐計画をそのまま放置したのです」

「……そんな事が一人の親として出来るのか?」

「その覚悟が出来るからこそ、彼はこの国に亡命してきたのでしょう。彼はこの20年余りの間に我が国の情報を十分に手にし、「始まりの七家」とも仲良くなっていきました。今考えれば彼としてはどんどんと我々にさも足枷を作っているかのように見せ、自身の影響力を強めていったのです」

「ここまでの話でランドール共和国の現状までの理解は会議参加者全体で共有できたと思う。それでタナカ保安部長、今後のランドール共和国との外交関係の見通しはどうかね?グラハム・ランドールは近い将来、我々と対峙すると思うかね?」

 

 すっかり椅子に背中を預けてしまい、発言する事を放棄してしまったフルシュミットの代わりにワーグナー参事官補がタナカに尋ねる。質問者が変わろうと彼は全く態度を変えずに答えていく。


「はい、彼が今回のメリダダンジョンでのダンジョンブレイクへの、我がダンジョン管理事務局の対応を見てどう思ったのかは、彼の警護という名目で私の元部下に探らせましたのでその報告となります。実際に見た所、彼は非常に落ち着いて、今回の騒動に対応した我々を評価していたそうです。その評価をもって彼は帰国しました。それ故、我々と暫くは協調路線でいくであろうという現場判断です」

「その判断はどう思う?」


 ワーグナーは短く淡々と尋ねる。タナカ保安部長は何の躊躇いもなく、あっさりと答える。


「私は正確な判断だと思います。なにせ彼はエナミ・ストーリーと会っていますから。現在の彼と何度か交渉をして、その上で我々とやり合うのなら、それはそれで非常に愚かな人間だと言えますが、今までのグラハム・ランドールの動きからして、そのような人間ではないでしょう。現に今、レラ・ランドールという娘を使って、エナミを取り込んで自分の陣営にしてから事を起こそうと画策している節もありますしね」

「レラ・ランドールは気付いていると思うかね?」

「当然でしょう。彼女はあくまでも大統領の娘ですから。そういった政治的な動き方に関しても彼女は父親から教育を受け知っている筈です。現に今回の誘拐騒動でも不安そうな素振りは見せても全く慌てた様子は見せませんでしたから。ただそれはエナミへの個人的な信頼の表れなのかもしれませんけどね」


 タナカはにやりと笑い、席に座る。ワーグナーは暫し目を閉じ顔の前で両手の指を合わせる。1分ほど沈黙が訪れた後、彼は目を開け、手のひらが目の前の机に付くように静かに置く。


「よし、グラハム大統領の娘の個人的な感情は知らんが、今まで通りエナミ・ストーリーの動向には最大限の注意を払え。あの怪物を飼いならす事ができるのは我々アルミナダンジョン共和国だけだ」


 その発言をもって、定例会議は閉幕となった。会議が終わってもワーグナーは厳しい表情を全く変えなかった。








 間章はいかがだったでしょうか?エナミはいつも誰かしらに危険人物扱いされ続けていますね。本人はいたってそんな気が無さそうですが……。ただ彼の力は次の章でも少しづつ明らかになっていくと思います。


 この後は明日10時からそのまま第三章の連載になりますので、お楽しみに。


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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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