4話 病院をつくろう
スカートをたくし上げて走る、走る。すれ違う使用人たちが驚いた顔をしているが、そんなのを気にしている余裕はない。
ドンドンドン
「お父さん!私です!ミラです!」
お父さんの返事が聞こえるや否や扉が開く時間を待つのも惜しく執務室に駆け込む。そこには先日と同じく、父、アーク、兄、兄の執事、タレスが居た。
「どうした、何かあったのか」
「お父さん、病院を作りましょう!」
「はい????」
「ちょ、早過ぎますミラ様、マジで……」
父がキョトンとした顔で頭にはてなマークを並べている。と、そこにフェルカドがスピカを抱きかかえながら息を切らして走ってくる。
「ミラ、どういうこと?」
「ミラくん、詳しい話を聞かせてもらってもいいかい?」
アークとタレスが同時に聞いてくる。さすが親子。息ぴったりだね。
「あのですね、この前シェアトさんのところに遊びに行った時、フェルカドからシェアトさんの魔力病の可能性を聞きました。魔力病とそれ以外を見分ける方法が現時点でないことも。」
「それはタレスから先日聞いたよ、フェルカド君ありがとう」
「いえ。俺は何も」
「そして、この国には働き口がない、もしくはあっても賃金が安い状況で暮らす人々がいる。」
「確かに僕とミラはそういう話を聞いたね」
うんうんとタレスは頷く。私はそのまま話を続けた。
「そして、さっき庭でスピカと遊んでいた時にロゼの花がありました。ロゼの花は魔力を通すと光を発します」
「確かに、それで女の子たちに人気の花だよね。」
お兄ちゃんが窓の方に近寄り、そこから庭を眺めつぶやく。なんだその顔は。正直ムカつくぞイケメン兄。
「………そういうことか、なるほどな。」
「すみません陛下、俺ちょっと話が見えません」
ふむ、と頷く父にフェルカドが恐る恐ると言った顔で手を挙げる。見渡すとタレスもアークも訝しげな表情だ。父だけが私の考えを理解したようだった。
「つまりロゼの花を用いて魔力病の診断をして、魔力病の人の治療病院を作ろうというわけだ。」
父は頬杖をつきながら私を見る。
「なるほど。その病院を作るのにスラム街の人を雇用すれば良いのでは?ということだねミラ君」
アークは感心したように頷いてくれた。タレスやフェルカドもようやく私の考えを理解したようだった。
「そうなんです、きっとそうしたら働き口が増えると思います。また、ロゼの花は切花にすると長持ちしません。だから、ロゼの成分を抽出したオイルを作れば…」
「そうか!女性たちの働き口も見つかるってことだな」
「そう。きっと万事うまくいくとは言えないけどね。」
「ミラ様にしては、良い案ですね」
フェルカドは父や兄の前でも私に容赦がない。だけどここで私に辛辣なのは良くない。なぜなら…
「おいフェルカド。お前……何言ってんだこんなにもミラは賢いのに!」
「………やべ」
「あーあ。」
「あーあ!」
私とスピカは同時に溜息をつく。シスコンを拗らせた我らが兄ギウスは私とスピカに対して甘すぎる。故に私に厳しいフェルカドと仲が悪いのだ。
「おい、さっきの態度はなんだ」
「も、申し訳ありませんギウス様…」
「にーに、怒っちゃダメだよ」
兄の元へと近づき、小首を傾げながら見上げるスピカは兄の扱いにすっかり慣れてしまっているようだ。
「すっ、スピカが言うなら仕方ないなぁ〜♡んー優しいなぁスピカは♡」
「きも…」
「あ゛?」
「いえなんでもございません」
「とりあえず!この案で一度進めてみようと思うのだが」
また喧嘩を始めそうになったところを父が大きな声で遮った。
「いいと思いますよ、アルタ。いやぁこれから忙しくなりますねぇ!」
仕事好きのアークはホクホクとした表情でスケジュールの確認をし始めるが、反対に父はうんざりとした顔でそれを見つめていた。